「ミュシャのすべて 堺アルフォンス・ミュシャ館(堺市文化館)協力」を読んだ! | とんとん・にっき

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「ミュシャのすべて 堺アルフォンス・ミュシャ館(堺市文化館)協力」(KADOKAWA:2016年12月10日初版発行、2017年3月5日3版発行)を読みました。国立新美術館で開催されている「ミュシャ展」は、3月10日に観に行っています。分厚い図録も買いました。が、しかし、まずこの本を読んでから、ということで、「ミュシャ展」の記事を書くのを控えていました。新書版ですが、図版が多く、文章も3人が分担し、読み易く書かれています。


まず、冨田章(東京ステーションギャラリー館長)は、ミュシャには二つの顔があるとしています。一つ目は世記転換期のパリで、アール・ヌーヴォーの寵児として活躍した華やかなデザイナーとしての顔。そして二つ目は、故国に戻り、スラヴ民族の歴史と精神を描き続けた愛国的な画家としての顔。今まで流布しているミュシャの図像はポスターや装飾パネルなど、ほとんどがグラフィック・デザイナーとしてのもの。今回話題になっているのは、壮大な歴史画の連作「スラヴ叙事詩」を20年近い時間をかけて制作し、祖国に贈ったこと。


アルフォンス・ミュシャは、1860年、チェコはモラヴィア地方のイヴァンチィッツェという小さな町で生まれました。父親は裁判所の官史でした。ミュシャは幼少の頃から優れた画才を見せていたという。ミュシャが表現者として本格的な活動を始めたのはパリにおいてでした。ミュシャが華やかな芸術の都に来たのは、1887年、27歳のこと。。挿絵の仕事を中心にしていました。その頃、ミュシャに大きな転機が訪れます。



1894年のクリスマス、ミュシャがたまたま友人に頼まれて試し刷りの校正をしていた印刷会社メルシャのもとに、女優サラ・ベルナールからの注文が舞い込みます。正月公演「ジスモンダ」の宣伝用ポスターの制作でした。ほかのデザイナーがクリスマス休暇をとっていたため、この仕事がミュシャに回ってきました。ポスターの経験がほとんどなかったにもかかわらず、ミュシャのビザンチン風の装飾を用いたデザインを、サラ・ベルナールは大いに気に入り、採用されたポスターは大評判になります。



ミュシャは、あらゆる分野のポスターを手がけています。が、パリ時代の仕事で、もう一つ忘れてはいけないのは、装飾パネルです。パリで人気の絶頂にあり、精力的な活動を続けていたミュシャは、その心の内にはある考えが芽生えていました。きっかけは1900年のペリ万国博覧会で、オーストリア政府の依頼によりボスニア・ヘルツェゴヴィナのパヴィリオンの装飾を行ったことによります。当時のボスニア・ヘルツェゴヴィナはオーストリア=ハンガリー帝国に併合されており、スラヴ民族がゲルマン民族に支配されている状況でした。この時ミュシャは、スラヴ民族の歴史を描く最初の構想を抱いたと言われています。



この頃、ミュシャはスラヴ民族としての誇りや愛国心をかき立てられる経験をしています。その日雨突は、チェコの歴史作家であるアロイス・イラーセックの小説「全てに抗して」を読んだこと、もう一つは、ニューヨーク滞在中にボストン交響楽団のコンサートでスメタナ作曲の交響詩「わが祖国」を聴いたことです。スラヴ民族の歴史を描く大連作「スラヴ叙事詩」の制作を本格的に始めるのは、これ以降のことです。

 

後半生のミュシャが全身全霊をささげて取り組んだのは「スラヴ叙事詩」の制作でした。「スラヴ叙事詩」はチェコ民族の歴史とそれ以外のスラヴ民族の歴史とを平等に描いた、縦6×8メートルにも及ぶ大画面20点からなる壮大な連作です。本格的な制作を始めたのは1911年のことです。この年から年に1、2点のペースで大画面を描き続け、最終的には1928年に20点の連作をチェコ国民とプラハ市に寄贈しました。足かけ18年にわたる大事業でした。

 

だが、この連作は十分な評価を受けてきたわけではありません。1933年に一度だけ全作揃って展示された後は、ほぼ30年にわたってカンヴァスを  巻いたままの状態で保管されたという。当時の政治状況が大きな原因だったことは確かです。ようやくこの連作が修復され、モラヴィア地方のモラフスキー・クロムロフ村で展示されたのは1963年になってからのことでした。

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内容紹介

日本初上陸! ミュシャの代表作《スラヴ叙事詩》全作品を徹底解説!

2017年3月より、日本で初公開されるアルフォンス・ミュシャ晩年の超大作《スラヴ叙事詩》、全20作を詳解。また人気の商業ポスター、装飾パネルから、挿絵、工芸デザイン、油彩画まで、ミュシャの全生涯における作品180点を、オールカラーで紹介します。

■主な収録作品
・ポスター・装飾パネル画/《ジスモンダ》、《椿姫》、《サラ・ベルナール》、《四季》、《黄道十二宮》、《サロン・デ・サン》、《メディア》、《ハムレット》、《トスカ》、《四つの花》、《四芸術》、《夢想》、《四つの宝石》、《四つの星》、など
・油彩画/《ポエジー》、《クオ・ヴァディス》、《ウミロフ・ミラー》、《百合の聖母》、《ハーモニー》
・書籍/『白い象の伝説』、『主の祈り』、『装飾資料集』
・工芸品/《ラ・ナチュール》、《岩に座る裸婦》、紙幣のデザインなど
・チェコ時代のポスター/《ヒヤシンス姫》、《ソコル祭》、《イヴァンチッツェ地方祭》、《ズデンカ・チェルニー》、《ロシア復興》、《スラヴ叙事詩》展ポスターなど
・油彩画/《女占い師》、《異教の彫像をもつ女》、《星》、《巫女》、《眠れる大地の春の目覚め》など


・《スラヴ叙事詩》全20作
1 原故郷のスラヴ民族/2 リューゲン島(ルヤ―ナ島)でのスヴァントヴィート祭/3 スラヴ式典礼の導入/4 ブルガリア皇帝シメオン/5 プジェミスル・オタカル2世/6 東ローマ皇帝として戴冠するセルビア皇帝ステファン・ドゥシャン/7 クロムニェジーシュのミリーチ/8 グリュンヴァルトの戦いの後/9 ベツレヘム礼拝堂で説教をするヤン・フス師/10 クジーシュキでの集会/11 ヴィートコフ山の戦いの後/12 ヴォドニャニでのペトル・ヘルチツキー/13 フス派の王イジー・ス・ポジュブラト/14 ニコラ・シュヴィッチ・ズリンスキによるシゲトヴァールの対トルコ防衛/15 イヴァンチツェの兄弟団学校/16 ヤン・アモス・コメンスキーのナールデンでの最後の日々/17 聖アトス山/18 スラヴの菩提樹の下でおこなわれる「オムラディナ」の誓い/19 ロシアの農奴制廃止/20 スラヴ賛歌

■解説(掲載順)
冨田章(東京ステーションギャラリー館長)
白田由樹(大阪市立大学大学院文学研究科准教授)
小野尚子(兵庫県立美術館学芸員)


購入した図録です。


国立新美術館開館10周年記念・チェコ文化年事業

ミュシャ展

発行日:2017年3月8日初版第1刷発行

編集:国立新美術館

    NHK

    NHKプロモーション

    求龍堂

発行者:足立欣也

発行所:株式会社求龍堂


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