日本橋三越で「吉野石膏珠玉のコレクション展 愛と絆」(その1) | とんとん・にっき

とんとん・にっき

来るもの拒まず去る者追わず、
日々、駄文を重ねております。


日本橋三越で「吉野石膏珠玉のコレクション展 愛と絆 高山辰雄「聖家族」&マルク・シャガール「逆さ世界のヴァイオリン弾き」他」を観てきました。僕のお目当ては高山辰雄の「聖家族シリーズ」でした。これほど纏まって「聖家族シリーズ」を観られるのは滅多にないことです。


吉野石膏コレクションについては、数年前に偶然訪れた山形美術館で、そのときは主として「印象派」でしたが観たことがあります。今回の所蔵品と併せると、どれだけの所蔵品があるのか、その全貌を知りたいものです。昨年、「吉野石膏コレクションのすべて」という展覧会が、山形美術館で開催されたようです。そこには、以下のようにありました。


1991年、吉野石膏株式会社は故郷への文化的貢献のため、山形美術館に作品18点を寄託。ルノワール、モネ、ピサロ、シャガールらの作品は当館で「吉野石膏コレクション」として公開されると大きな反響を呼びました。以後追加寄託が相次ぎ、現在では印象派の中心をなす画家の作品を中心に、バルビゾン派から20世紀初頭のフォーヴィスムやキュビスム、さらにエコール・ド・パリまでを網羅する国内屈指のコレクションとして注目を集めています。


展覧会の構成は、以下の通りです。


第Ⅰ部:「五山」―戦後日本画の巨匠たち―

第Ⅱ部:「聖家族」高山辰雄

第Ⅲ部:「マルク・シャガール」

第Ⅳ部:「ダフニスとクロエ」マルク・シャガール



第Ⅰ部:「五山」―戦後日本画の巨匠たち―


以下、図録の解説より

「聖家族」を描いた高山辰雄をはじめ、東山魁夷、杉山寧、加山又造、平山郁夫ら戦後に活躍した日本画家のことを、みな「山」がつくことから「五山」と称しました。五人のなかで最年長の東山魁夷は、東京美術学校へ入学して写実的な風景画を学び、その後、ベルリン留学を経て西洋の風景表現を吸収したのち、印象的な自然の姿を簡潔に構図の中にまとめ、深く澄んだ色彩で表す表現を確立しました。


杉山寧は東京美術学校在学時より描写力の高さと清新な色使いで注目され、その後、抽象絵画の表現を取り入れた作品を制作するなど日本画の近代的表現を追求し、写実にとどまらない明快で豊かな造形と、凹凸のある重厚なマチエールが特徴の作品を制作しました。


高山辰雄は杉山とともに東京美術学校で学び、卒業後、杉山と同門の山本丘人らが参加した瑠爽画社に加わり、山本のすすめでふれたポール・ゴーギャンの芸術に影響を受けます。無駄をそぎ落とした表現を追求し、抑制された色彩で描かれた、力強く静謐な作品を生み出しました。


上の三人より一回りほど若い加山又造は、東京美術学校で山本丘人の教えを受け、山本の所属する新制作派協会で作品を発表しました。日本の古典的な技法や造形に西洋美術における古今の様式や現代的な感覚を取り入れ、卓越した描写力に基づいた、装飾性の高い華麗な画風を確立し、絵画、版画、陶芸、着物と幅広い分野で活躍しました。


五人のうちで最年少の平山郁夫は、同じく東京美術学校で学びました。深みのある色彩で、世界各地の情景を叙情的に、時に幻想的に表現した風景画を制作し、特にシルクロードを題材にした作品で知られています。これら「五山」の作家たちは、岩絵具を膠で溶いて描く伝統的な技法を学びながら、現代における「日本画」のあり方を追求し、異なる表現でその可能性を示しました。








第Ⅱ部:「聖家族」高山辰雄


以下、図録の解説より
「聖家族」は、1993年、高山辰雄が81歳の時に発表された作品です。26枚の日本画で構成されるこの大作は、1976年の制作した16枚組の銅版画を出発点としています。男性、女性、そして幼い子供の様々な姿を描き出し、親子のありようを問いかけるこの作品は、友人であった井上靖によって「聖家族」と名付けられました。その後十数年の時を経て、同じタイトルがつけられた本作では、親と子にとどまらないより多様な群像表現がみられ、人々の関わりの変奏を重厚に描き出しています。


技法の面からも、本作は見どころの多い作品です。人々と背景は細かい筆致で描かれていますが、対償が浮かび上がってくるような効果をもたらしています。またモティーフの描写には緑青、群緑といって岩絵具を焼いて作られた顔料を使用しており、様々なニュアンスの黒を作り出しています。その上には辰砂を用いたと思われる黄褐色の色彩が重ねられ、さらにいくつかの作品には鮮やかな色がわずかに添えられており、画面は黒が全体を占めながらも豊かな色調を感じさせます。


高山辰雄は「聖家族」について、こう語っています。

私は、別に家族愛を描いたわけではないのです。この世には男がいて女がいて、そして子供がいる。人間はみんな孤独で淋しいものです。だから寄り添う。人間とは何か。私はそれを知りたい。










第Ⅲ部:「マルク・シャガール」

第Ⅳ部:「ダフニスとクロエ」マルク・シャガール

(その2)参照のこと


「吉野石膏珠玉のコレクション展 愛と絆」
世界的に著名な、内外の作品を多数所有する吉野石膏株式会社と公益財団法人吉野石膏美術振興財団。本展は、そのなかより、芸術表現のもっとも根幹ともいうべき、人間の愛と絆をテーマに高山辰雄とマルク・シャガールの二人の作品を中心に展示します。高山辰雄は、若き日にゴーギャンに感銘を受け、鮮やかな色彩と簡略化された色面構成の作品を制作しますが、後年になると一転して人間の内面を見つめた心象風景画を多く制作します。家族愛を描いた「聖家族」シリーズは人間存在を深く追求する主題と、岩絵の具・黒群緑のモノクローム的な画面で観る者を圧倒します。対するマルク・シャガールは、さまざまなモチーフを元に幻想的な表現を行い、その深い慈愛に満ちた作品で人々を魅了します。それは描くというよりも奏でるというような音楽的な諧調をもつ作品群です。「逆さ世界のヴァイオリン弾き」や「バラ色の肘掛椅子」など、洋の東西を問わず人間の普遍的な価値を絵画として消化した二人の作品を中心に「日本画五山」と呼ばれる日本画家5人(東山魁夷・杉山寧・高山辰雄・加山又造・平山郁夫)の作品を含む約100点で展観します。


「日本橋三越本店」ホームページ

aito1 吉野石膏珠玉のコレクション展

愛と絆 高山辰雄「聖家族」&マルク・シャガール「逆さ世界のヴァイオリン弾き」他

図録

2016年1月20日発行

監修:草薙奈津子(平塚美術館館長)

発行:「吉野石膏珠玉のコレクション展」実行委員会

編集協力:公益財団法人吉野石膏美術振興財団


過去の関連記事:

角川本社ビルで「高山辰雄生誕100年記念特別展」を観た!

練馬区立美術館で「高山辰雄遺作展 人間の風景」を観る!

山形美術館で「吉野石膏コレクション 印象派展」を観た!