林真理子の「本を読む女」を読んだ! | とんとん・にっき

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林真理子の「本を読む女」(集英社文庫:2015年6月30日第1刷)を読みました。あまり数たまたま多く林真理子の本を読んでいるというわけではなく、たまたま「本を読む女」という題名に引き付けられ、手の取ったというわけです。


以前、林真理子の「文学少女」を読んだときに、以下のように書きました。

林真理子 の「文学少女 」。山梨で小さな本屋をやっている母親への愛情、その苦労を見ながら東京へ出て文学の道を歩もうとする青春の日々を綴った、林真理子の原点がここにあると思います。どこがよかったかって、貧乏しながら物書き目指して頑張っている姿が、なんとも言えず、読む人の胸に突き刺さります。「物書きになるということ、小説を書くと言うことは、常人には考えられない残酷さを持つことでもある。だいいち肉親の目の触れる場所で、自分の性のことを語る職業があるだろうか。」田舎出の、決して人より容姿がいいわけではなく、自意識過剰、劣等感の固まりの少女が、いかにして文壇にデビューしたか。この本は、その辺を解き明かしてくれます。


「本を読む女」、女学校時代から「私、何にもなりたくないだよ」「一生、小説や詩の本を読んで暮らしていけたらいいなあと思う」と言っていた万亀。主人公の万亀は大正生まれ、山梨の街の駅前にある菓子商を営む「小川屋」の5人きょうだいの末っ子です。万亀は、林真理子の母親をモデルにしています。「第二の樋口一葉」と言われたのも、山梨高女きっての才媛だったのも、教員となり、出版社に勤務し、大陸での結婚生活を送ったのも、すべて母親の実体験です。いわば「女の一生」ものです。林真理子は、山梨市の駅前の本屋の娘として生まれます。


この小説は、林真理子という作家の、本への畏敬の念からできた小説です。目次を見ると分かる通り、章ごとのタイトルは、当時万亀が読みふけった小説から取られています。ラスト、取次店の主人が万亀にすすめた太宰治の「斜陽」。読み始めた万亀は、「この女主人公は、まさしく自分ではないか。赤ん坊を失くし、家族の犠牲となり、これといった希望も夢もなく戦後という時代に流されていく女。しかしある日女主人公は決心する。恋と革命のために生きるのだと叫ぶ」。これほどまでに魂に迫ってきた本があるだろうか。すべてを失い、中年にさしかかった万亀に、まるで神がつかわしてくださったような一冊だ。私も強く生きるのだと万亀は思います。


「この小説は、作者の、本への偏愛の結晶のような小説であり、小説家としての決意表明のような特別な一冊である」と、解説の中島京子は言う。「本を読む女」の単行本が書店に並んだ時、その表紙カバーに「私にはとっておきのテーマがあった。それは私の母をモデルにして、昭和を生きた女性を描きたいというものである」という、著者自身の言葉に中島は強い意志を感じたという。「小説家・林真理子が、満を持して決め球を投げた、という感じがした」と。


万亀が生まれたのは大正4年、実は僕の父親の生まれが大正3年、母親が大正9年です。母親は佐世保の看護婦学校を出て北京へ渡り、北支鉄道?病院で看護婦として働きます。そこで兵隊を除隊し、同じ病院で働いていた父親と知り合い結婚、僕が生まれた、というわけです。ここでは父親のことは置くとして、当時の母親が手に職を持ち、20歳そこそこで一人北京へ渡って働く、ということに、万亀とダブることがあってより感動が深まりました。


本の帯には、以下のようにあります。

山梨の裕福な菓子商の末っ子として生まれた万亀は児童文芸誌「赤い鳥」を愛読する少女だった。勉強がよくできた万亀は、女専に進み東京の華やかな生活を知るも、相馬に行き教師となるのだが…。進学、就職、結婚のたびに幾度も厳しい現実の波に翻弄されながらも、いつも彼女のスバに大好きな本があった。対象から昭和にかけての激怒湯の時代、常に前向きに夢を持ち続けたひとりの女性の物語。


林真理子:

1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部卒。82年エッセイ集「ルンルンを買っておうちに帰ろう」でデビュー。84年処女小説「星影のステラ」が直木賞候補作に。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で第94回直木賞を受賞。95年「白蓮れんれん」で第8回柴田錬三郎賞を、98年「みんなの秘密」で第32回吉川英治文学賞を、2013年「アスクレピオスの愛人」で第20回島清恋愛文学賞を受賞。


目次

赤い鳥

花物語

放浪記

大地

オリムポスの果実

万葉集

斜陽

 解説 中島京子


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