林真理子の原点「文学少女」 | 三太・ケンチク・日記

林真理子の原点「文学少女」

またまた、本屋のおばちゃんが導入部で、申し訳ない。本をツケで買っていた頃、どこかへ出かけた帰り道、本屋に立ち寄り、なにかめぼしい本はないかと一回りして、レジのところを通りかかったら、「本が届いてますよ、持って帰りますか?」と言われ、なにを頼んでいたのかと思ったら、その頃大ヒットしていた渡辺淳一 の「失楽園 」でした。この本、超ベストセラーでしたし、「失楽園」は社会現象にもなりました。

阿部定事件 」も話の中に織り込んだ「失楽園 」は、飛ぶ鳥を落とす勢いで映画にもなりました。小説の舞台となった、出来たばかりの七里ヶ浜の鎌倉プリンスホテル は、いつも超満員。主演は黒木瞳、ん?「東京タワー」ですね、これでは。ということは「東京タワー」は二番煎じ?日本対北朝鮮のサッカーの試合の夕方、家路を急ぐ道すがら映画館の前を通ると、しっかりと列ができて並んでいる人たちがいる。なんだと思ったら、映画「東京タワー 」の列。もちろん、主役は黒木瞳。ほとんどが女性。世の中、半分は、日本対北朝鮮に興味がない人たちがいる。もしかしたら、これは健全なのかも。そのような趣旨のコラムが新聞の隅の方に載っていました。まあ、その日は水曜日、映画館は、女性割引の日でもあったようですが。

実は、僕は、渡辺淳一 の本は、初期の本はけっこう読んでいるんですよ。ずいぶん昔の話ですけど。「無影燈 」はなかでも傑作だと思っています。傑作といっても、純文学ではなく、大衆文学としてですが。「外科医の直江は、なぜ大学病院の講師の職を捨てたのか。酒を飲み女性たちと関係を続ける彼には人知れぬ秘密が隠されていた。躰の交渉を重ねながらも、倫子にとって直江は、依然、不可解な存在であった。酒に溺れ、複数の女性とも関係があるようだ。密かに麻薬を打っている気配もある。正月休みに直江から旅に誘われた倫子は、その優しさに当惑しながらも、ともに雪の北海道へと旅立つ。しかし、この優しさの内にはある重大な秘密が隠されていた。」ってな感じです。黒木瞳で、テレビドラマにもなりました。黒木瞳、モテモテですね。リメイク版の「白い影 」というテレビドラマもありました。中居正広と竹内結子でした。なぜか僕は、毎回見ちゃいました。たぶん、暇だったんでしょうね。

本屋のおばちゃんに、「菅野美穂」とか、「マドンナ」の写真集も出たら連絡しますよと言われたことは、前に書きましたが、それの林真理子バージョンです。そのおばちゃんから、「失楽園」をもって帰るときに、「林真理子 の『不機嫌な果実 』もありますよ」と、言われてしまいました。いやいや、僕はそんなエッチな本は読みませんよ、とばかりに、その時は無視しました。が、実は最近、といっても2~3年ぐらい前ですが、ブックオフで105円で売っていたのでやっと購入して読みました。「不機嫌な果実 」は、確かその頃、これもテレビになったと思いますが、どちらにせよ、大評判になっていました。映画にもテレビドラマにもなったんじゃないのかな?さすがにこれは黒木瞳ではなかったと思いますが。確かにこの本、読んでみるとまったくの駄作でした。といっても、その手の本は、読んだら右から左に、どんどん忘れていってしまうので、細かいところはほとんど覚えていません。というようなことを書いていると、話がどんどん逸れていってしまいます。

ここでは、半年ぐらい前にブックオフで買った本、林真理子 の「文学少女 」の話をしたいと思っていたんですが。この本は1991年から1993年にかけて「文學界 」に掲載された林真理子の7つの短編を集めたものです。山梨で小さな本屋をやっている母親への愛情、その苦労を見ながら東京へ出て文学の道を歩もうとする青春の日々を綴った、林真理子の原点がここにあると思います。どこがよかったかって、貧乏しながら物書き目指して頑張っている姿が、なんとも言えず、読む人の胸に突き刺さります。「物書きになるということ、小説を書くと言うことは、常人には考えられない残酷さを持つことでもある。だいいち肉親の目の触れる場所で、自分の性のことを語る職業があるだろうか。」田舎出の、決して人より容姿がいいわけではなく、自意識過剰、劣等感の固まりの少女が、いかにして文壇にデビューしたか。この本は、その辺を解き明かしてくれます。