中野京子の「名画で読み解く ロマノフ家 12の物語」を読んだ! | とんとん・にっき

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中野京子の「名画で読み解く ロマノフ家 12の物語」(光文社新書:)を読みました。中野京子の「名画で読み解く・・・」シリーズ、過去「ハプスブルク家」「ブルボン王朝」の2冊を読み、おおいに刺激を受けました。今回はシリーズ第三弾、「ロマノフ家」の物語です。
中野京子の「名画で読み解く ハプスブルグ家12の物語」を読んだ!
中野京子の「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」を読んだ!


レーピンの「皇女ソフィア」は、第2章「ピヨトール大帝の少年時代の逸話」の中に出てきます。「今度こそ完敗を自覚したソフィアの、無念と憤怒が画面から迸る」と、中野は書いています。2012年8月に「レーピン展」で始めて観た「皇女ソフィア」のすさまじい形相は、いまでも忘れることができません。

Bunkamuraザ・ミュージアムで「レーピン展」を観た!


「レーピン展」で「皇女ソフィア」を観た時、以下のように書きました。

そして、今回の目玉は、というと、「皇女ソフィア」でしょう。「皇女ソフィア」、「ノヴォデヴィチ修道院に幽閉されて1年後の皇女ソフィア・アレクセエヴナ、1698年に銃兵隊が処刑され、彼女の使用人が拷問されたとき」とあり、1879年に描かれました。とはいうものの、図録には「この作品の題名には史実と異なる点がある」と書かれています。ソフィアが幽閉されている僧坊の窓の外には処刑された遺体が吊されており、左奥には怯えた表情でこちらを見ている女中の姿があります。なんといってもソフィアの形相の凄まじさがこの絵を特徴づけています。レーピンがこの主題を選択した背景には、イギリスとフランスから支援されたトルコから南スラヴを解放することを目的とした露土戦争によるナショナリズムの高揚があり、「皇女ソフィヤ」はピュートル1世以来の西欧化に対する反抗の象徴であった。・・・つまり、レーピンは「皇女ソフィヤ」という歴史画を通して、実は同時代の社会に対する自らの意見を表明していたのである、と、図録にあります。ピョートルが成し遂げた「官僚制度」、ロシアを農奴化し、外国人に仕えさせたということが背景にあるこの歴史画、たしかにレーピンの代表作でしょうが、素人にはなかなかそこまでは読めません。


今回、中野京子の「ロマノフ家・・・」を読んで、「ピョートルが成し遂げた「官僚制度」、ロシアを農奴化し、外国人に仕えさせたということが背景にあるこの歴史画」、このあたりが少し理解できたように思いました。

ソフィアと同じように監獄につながれた「皇女タラカーノヴァ」、19世紀のロシア人画家フラヴィツキーは、イタリア留学中、結核にかかり、帰国後ペテルブルクの寒さに病状が悪化、35歳の若さで世を去ります。歴史画「皇女タラカーノヴァ」は死のわずか1年半前の完成で、批評家に激賞され、画家としての将来も有望視されたのだが、もはや次の大作を描き上げる余力は残っていなかったという。


剥き出しのごつごつして壁に寄りかかり、髪を乱し、絶望の涙を流す、うら若き美女。・・・だが彼女がいるのは、薄暗く寒々とした狭い部屋で、質素なベッドのクッションからは麦藁がはみ出し、傍らの汚いテーブルにあるのは堅パンと水差しのみ。独房なのだ。かつてピヨトール大帝の息子も放り込まれた、ネヴァ川沿いのペトロパヴロフスク要塞監獄。足元をドブネズミが這いまわる。と、中野は書きます。


もう一つ、僕が以前から興味を持っていたのですが、今回中野が「山下りん」について、わかりやすく書いてくれました。茨城県笠間出身のイコン画家・山下りん、取り上げられた作品は「ハリストス 復活」、描かれているのは、健やかな肉体で復活したイエス・キリストと、かしずくふたりの天使の姿。・・・背景の明るい青には、超自然的な光の黄金色が映え、独特の魅力を放つ。そして光を横切る文字、「ハリストス 復活」・・・左書きのカタカナと漢字。と、中野は書きます。


いま思い出して調べてみたら、NHK新日曜美術館で山下りんを取り上げたのを観ていました。2004年6月13日に放映された「イコンと生きる 山下りん・祈りの美」という番組で、よく覚えています。島田雅彦が、ゲスト兼レポーターとして登場していました。


りんは子供の頃から絵が好きで、15歳で絵を勉強したくて家出して上京。一旦は連れ戻されるも、再び上京、浮世絵師の門下生となります。。20歳で工部美術学校に初の女子生徒として入学し、イタリア人の画家ファンタジーネに師事し西洋絵画を勉強します。23歳で大きな転機がありました。美術学校在学中にロシア正教と出会い、日本にロシア正教を広めた主教・ニコライの推薦でペテルブルグにある女子修道院に留学します。しかしロシア正教のイコンの修行は忠実な模写を旨とし、画家としての個性を磨くものではなく、5年の予定を2年で切り上げ帰国。山下りん(1857~1939)は、生涯に300におよぶイコンを描きました。


イリヤ・レーピン「皇女ソフィア」

(1879年、油彩、トレチャコフ美術館、204.5×147.7cm)

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コンスタンチン・フラヴィツキー「皇女タラカーノヴァ」

(1864年、油彩、トレチャコフ美術館、245×187.5cm)

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山下りん「ハリストス 復活」

(1891年、油彩、エルミタージュ美術館、32×26.5cm)

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光文社の本の紹介:

絶対君主制はおそらく滅びるべくして滅んだ。そんな中、どこよりもロマノフ王朝の終わり方が衝撃的なのは、連綿と続いてきた無気味な秘密主義に根ざしているからでしょう。水面下で密やかに物事が処理されるため、人々はもはや公式発表も通達も信用しなくなる。飽きもせず語られてきた、「実はまだ生きている」貴人伝説の源もここにあると思われます。(「あとがき」より抜粋)始祖ミハイルが即位した1613年から、一家全員が処刑されたニコライ二世までの300年余を、十二枚の絵画とともに読み解いてゆく。幽閉、裏切り、謀略、暗殺、共産主義革命―愛と憎しみに翻弄された帝政ロシアの興亡は、ハプスブルク家やブルボン家、ナポレオンなどとも密接に絡み合う。『名画で読み解く ハプスブルク家 12の物語』『名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語』に続く「名画で読み解く」シリーズ、待望の第三弾。


目次:

第1章 ワシーリー・スリコフ『フョードシヤ・モロゾワ』
第2章 シャルル・フォン・ステュイベン『ピョートル大帝の少年時代の逸話』
第3章 ニコライ・ゲー『ピョートルと息子』
第4章 カルル・ヴァン・ロー『エリザヴェータ女帝』
第5章 コンスタンチン・フラヴィツキー『皇女タラカーノヴァ』
第6章 ウィギリウス・エリクセン『エカテリーナ二世肖像』
第7章 ニコラ=トゥサン・シャルレ『ロシアからの撤退』
第8章 ジョージ・ドウ『アレクサンドル一世』
第9章 イリヤ・レーピン『ヴォルガの舟曳き』
第10章 山下りん『ハリストス 復活』
第11章 ボリス・クストーディエフ『皇帝ニコライ二世』
第12章 クロカーチェヴァ・エレーナ・ニカンドロヴナ『ラスプーチン』


中野京子:
作家・ドイツ文学者。北海道生まれ。早稲田大学講師。著書に、『名画で読み解く ハプスブルク家 12の物語』『名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語』(ともに光文社新書)、『怖い絵』シリーズ(角川文庫)、『中野京子と読み解く 名画の謎』シリーズ(文藝春秋)、『名画と読む イエス・キリストの物語』(大和書房)、『橋をめぐる物語』(河出書房新社)、『残酷な王と悲しみの王妃』(集英社文庫)など多数。訳書にツヴァイク『マリー・アントワネット上・下』(角川文庫)などがある。月刊「文藝春秋」にて、「中野京子の名画が語る西洋史」を連載中。著者ブログは「花つむひとの部屋」

meiga2 「名画で読み解く

 ハプスブルク家 12の物語」

光文社新書

2008年8月15日初版1刷発行

著者:中野京子

発行所:株式会社光文社


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「名画で読み解く

 ブルボン王朝 12の物語」

光文社新書

2010年5月20日初版1刷発行

著者:中野京子

発行所:株式会社光文社