綿谷りさの「嫌いなら呼ぶなよ」を読んだ! | とんとん・にっき

綿谷りさの「嫌いなら呼ぶなよ」を読んだ!

 

綿谷りさの「嫌いなら呼ぶなよ」(河出書房新社:2022年7月30日初版発行)を読みました。中身は別として、まさに本のタイトルだけで買いました。

 

整形、不倫、SNS、老害・・・

心に潜む”明るすぎる闇”に迫る!

一応、暴力だろ。石でも

言葉でも嫌悪でも。

綿矢りさ新境地

 

とりあえず、目次を。

「眼帯のミニーマウス」

「神田タ」

「嫌いなら呼ぶなよ」

「老は害でも若も輩」

 

やはり、タイトル「嫌いなら呼ぶなよ」に惹かれたので、これからまず先に読みました。森内家の新居祝いを兼ねた三家族合同ホームパーティー。森内夫妻の三人の子どもたちと河原夫妻の二人の子どもたちが水鉄砲で遊んでいる。大きくは二部構成、初めに参加者の関係とメンバーの紹介。盛大なお食事。子供たちがケーキを食べ終わりリビングの方へ遊びに行ってしまうと、残った大人たちは示し合わせたように二階へ上がっていく。さあ、これからが大変。「霜月さん、不倫してるんだってね。楓から全部聞いてるよ。しかも楓にばれても嘘をついて、相手とはまだ続いているって。一体どういうこと?」「ねえ霜月さん、今日こそはきっちり白状してもらうからね。本当は今日はそのためにあなたを呼んだの」。「不倫の証拠を楓がつかんでいるのに、その話をしようとすると、のらりくらり、いい加減なことしか言わなくてらちが明かないって、楓から相談を受けてたの。だあからあいっそ今日の機会に、一体どういうことなのか本人にみんなで聞いてみようって、私から楓に提案させてもらった」。まるで裁判所のミニ法廷みたいだ。もちろん被告人は僕。「霜月さんはもちろんだけれど、まぁお相手もね。一体どういうつもりで会っていたのか・・・。非常識というより、倫理観のない方なのかしら。私たちには理解できません」。・・・トイレから出て一息ついて部屋のドアを開けると、「今後のことだけど、こういう結論に達しました」。楓がテーブルに出した書類を見ると、離婚届だった。

 

次に読んだのが「老は害でも若も輩」、これ、ごく短い短編ですが、面白すぎて笑い転げました。42歳の女性ライターと37歳の女性作家、そして26歳の男性編集者が記事の作成に関わった。フリーライターの書き起こした記事を、作家が気に入らず全文書き換えたところ、フリーライターが激怒、記事を直すか直さないかで両者一歩も引かず編集者を間に挟みメールのやり取りにて意地の張り合いを続ける。「先日、綿谷さんが修正された私の原稿を拝見しました。ほとんど全文を書き換えられていますね。このような全取っ替えをされるのであれば、先日のインタビュー取材は何だったのだろうと考えてしまいます」。「よくもまあ。ごめんなさい、片腹痛いです。記事になったらデカデカと名前が出るのはこちらだけで、あなたの名前はちっちゃく載るだけなのに、記事を直しただけでこんなけゴネるなんて、正直びっくりです。録音が証拠だのと言って脅すとは何事。片腹どころか両腹痛いです。笑ろうてまいます。とにかく私の指示通りに原稿を直してください。現在あなたに必要な役目はそれだけです」。「そもそも”令和ポジティブシンキング!”なんていうタイトル自体がナンセンスですよね?できれば記事原稿と共に企画のタイトル自体も変更していただきたいです。”人生いろいろ~綿谷流ポジティブシンキング~”などが良いと思います」。そうです、女性作家は「綿谷」という名でした。「んへぇ~なるほど、私の考えた記事のタイトルが気に入らないとのこと。一応現時点では芥川賞最年少作家といえばこの私なんですけど?!」。その作家が「綿谷」なのです。いや~、笑ろうた!

 

さ~て、まずは「眼帯のミニーマウス」。「ミニーちゃんとおそろいの洋服だよ」。ママと同じ趣味で大喜びで、自分自身が着せ替え人形になって白いタイツをはき、公園で遊んでいたとき滑り台付近でパンチラのいやらしい写真を撮られあげく誘拐されそうになった。「私たち、こんなカッコ許されるのはハタチまでだよね」。このころようやく私は気づいたんだった、服じゃなくて顔の方が大切じゃね?って。まずはママからお金を借りて、目を二重にする。地元に帰ってからは、美容整形外科に給料が入ると少しづつ顔面のお直しをくり返した。社会人になっても続きます。びえん砲を打つ。一首詠む。「秋深したとえ流行が終わってもびえんとだけは縁を切らない」。社内では、私の整形話は一躍人気トピックに躍り出た。係長は「その包帯まみれの顔、どうしたの?」と聞く。「整形です。鼻に軟骨移植とか、あとルフォー1型骨切術もやりました」。「係長、ここだけの話ですけどね、私整形なんて一個もしてないです。包帯はただ巻いてるだけ。からかってきたみんなをビビらすために」。

 

そして「神田タ」。「私、カンダのYouTubeチャンネルよく見てるんだ」「谷口さん、YouTubeなんか見るんですね、意外だなぁ」。谷口さんにはあんな風に言ったが、実は私もYouTubeはめちゃくちゃ見ている。家に帰ってYouTubeでカンダを検索してみたら、わりと人気チャンネルなのかすぐに見つかった。YouTuber神田は、くだらないことに挑戦して、もうどうしようもなく敗けが濃厚になったら「こっからが本番だな!」と叫ぶのが持ちギャグらしかった。・・・「今日からここでお世話になります、ぽやんちゃんって呼んでください」。まだ勤めて半年だけど私は居酒屋の看板娘のような存在だ。絶賛コメントも数多く書いたが、厳しいコメントも寄せた。個室に入る前にちょっとのぞくと、いる!いる!座って笑っている。「いらっしゃいませ!追加注文はございますか?」。実はあなたのファンなんですけどと名乗りを上げても良かったけど、ダメだ、今日はいきなりすぎて心の準備ができてない。にしても、大ショックだ。神田本人がコメントを読んでないってことは、ハートマークもスタッフがテキトーに押していたってこと?"店出る前にトイレ行ってくるわ"と神田が靴箱から取り出した自分の靴を履いて、トイレの方に歩いていく。持っていた鞄を廊下に置いてからトイレに入る。神田の鞄を確認した。マッチを擦るとボウと火が点き、鞄の中に放った。点火した!早くここを去らなきゃ、犯人ってバレる。

 

まあ、この短篇集だけでは納得できないので、アマゾンで長篇の「私をくいとめて」(朝日文庫:2020年2月28日第1刷発行)を購入しました。解説は金原ひとみです。余談だが、として、綿谷さんは飛行機に乗るとクイーンを聴きながら恐怖で号泣する、という。

 

綿矢りさ:

1984年生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。04年『蹴りたい背中』で史上最年少で芥川賞受賞。著書に『かわいそうだね?』(大江賞)、『生のみ生のままで』(島清恋愛文学賞)など。

 

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朝日新聞:2022年8月6日

 

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