太田記念美術館で「ハンブルク浮世絵コレクション展」(後期)を観た!
太田記念美術館で「日独交流150周年記念 ハンブルク浮世絵コレクション展」(後期)を観てきました。浮世絵の場合、海外からの里帰り展なんて、よくこんな言い方がなされます。そして、作品の保存状態がいいとか、発色がいいとか、そんな言い方もなされます。それもそのはず、ほとんど美術館の奥深く、収蔵庫にしまい込んであったものを、里帰りと称して日本へ持ってくるのですから、当然のことです。そんなわけで、海外からの浮世絵の里帰り展を振り返ってみると、もちろん、僕が観た範囲でのことですが、けっこうありました。ほぼ毎年のように浮世絵の里帰り展が催されています。
2002年4月:キヨッソーネ東洋美術館所蔵浮世絵展(ジェノバ市立キヨッソーネ東洋美術館) 仙台市博物館
2007年2月:「ギメ東洋美術館所蔵 浮世絵名品展」 大田記念美術館
2007年10月:ミネアポリス美術館浮世絵コレクション展 松濤美術館
2007年12月:北斎展(フランス国立図書館・オランダ国立民族学博物館) 江戸東京博物館
2008年9月:浮世絵ベルギーロイヤルコレクション展 太田記念美術館
2008年10月:ボストン美術館浮世絵名品展 江戸東京博物館
2009年7月:写楽幻の肉筆画 ギリシャに眠る日本芸術 マノスコレクション 江戸東京博物館
さて、今回はハンブルク美術工芸博物館の浮世絵コレクションのなかから、選りすぐりの浮世絵作品約200点を展示するというものです。展示は、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期に分けられていて、僕が行ったのはⅢ期に入ってからでした。いわば前期、中期、後期でいえば、後期にあたります。かなりの作品が展示替えを行っています。
展覧会の構成は、以下の通りです。
Ⅰ 優品に見る浮世絵の展開
1 初期浮世絵版画の時代
2 錦絵の完成
3 錦絵の黄金時代
4 多彩な幕末の浮世絵
Ⅱ 稀少な摺物と絵暦
Ⅲ 美麗な浮世絵の版本
Ⅳ 肉筆画と画稿、版下絵
Ⅴ 参考作品
太田記念美術館は、玄関で下足を脱いでスリッパに履き替えるという、ユニークな、浮世絵専門らしい、美術館です。まず展示室に入ると、左側に畳敷きの展示スペースがあります。ここではスリッパを脱いで上がり、畳敷きのスペースに座って、展示品と向き合い作品を鑑賞します。あたかも床の間の掛け軸を鑑賞するように・・・。概ねここに目玉の作品が展示されています。勝川春章の「桜下花魁道中図」、北尾重政・狩野高信の「久米仙人と洗濯美人」、鳥園斎栄深の「遊女図」、河鍋暁斎の「恵比寿・大黒」、そして、これが圧巻、鳥居清峯の「今様五人囃」の5点です。
勝川春章の「桜下花魁道中図」は、吉原遊郭のメインストリートを道中する遊女たちを描いています。満開の桜の下、うつむき加減にしずしずと歩く花魁を先頭に、振袖新造と禿たちがその後に従っています。色鮮やかな遊女たちの着物や桜の花びらを、あえて濃淡のある墨を基調として彩色しています。上品で雅やかな趣で、女たちの唇だけが朱色に染められています。北尾重政・狩野高信の「久米仙人と洗濯美人」は、久米仙人が空中を飛行していた際に、吉野川で洗濯する若い女の白い足を見て興奮し、神通力を失って女の前に落下したという逸話が描かれています。着物の裾をたくし上げて洗濯する女は北尾重政の筆で描かれており、落下する久米仙人は狩野高信の筆によるものです。また、賛は狂歌師の大田南畝によるもので、「素足誰家婦 浣紗春水濱 頓令天上客 長作謫仙人 南畝子戯題」と書かれています。
鳥園斎栄深の「遊女図」は、94cm×16cmに描かれたものです。狭い幅の中に、遊女の立ち姿が色鮮やかに、もちろん色っぽく描かれています。通常言われる「柱絵」よりは、やや幅が広いものです。鳥文斎栄之の門下で、歌麿や栄之の影響を受けた美人画を得意としたようです。河鍋暁斎の「恵比寿・大黒」は、七福神の恵比寿、大黒を双幅とした作品です。右図は、恵比寿が釣竿を手に持ち、鯛を釣り上げて喜ぶ姿が描かれています。左図は、大黒の手の先には鼠がおり、右手に鈴、左手に扇、頭には烏帽子という三番叟のこしらえです。鳥居清峯の「今様五人囃」は、大判錦絵5枚続の大作です。満開の桜の下、緋毛氈に座って楽器を演奏する若い娘たち。お揃いの桜模様の入った華やかな振り袖を着ています。雛人形の5人囃子を当世の美人たちにやつしたものです。右から、謡、笛、小鼓、大鼓、太鼓の順になっています。
歌川広重の「名所江戸百景 亀戸梅屋鋪」を観て、なぜか「ドキッ」としました。まともに観ることが少なかった割には、「印象派」など西洋絵画に影響を与えたということでは、いつも取りあげられていた作品です。ファン・ゴッホが油絵で写していることでもよく知られています。近景に梅の樹を大きく描き、遠景に見物客を小さく描いています。極端な遠近法を採用しています。北斎の「百物語 さらやしき」も見慣れていますが、歌川国芳の「山海愛度図会 ヲゝいたい 越中滑川大蛸」は、国芳の「~たい」の副題を持つシリーズの一つです。国芳の猫好きなことはよく知られていますが、ここでは「ヲゝいたい」とある通り、飼い猫がじゃれついてきて、なんとも色っぽい美人が、猫の爪を避けているところです。後ろのコマ絵は「越中滑川大蛸」です。
今回、僕は、次の2点が気に入りました。それは勝川春潮の水茶屋での歌舞伎役者と茶屋娘を描く「水茶屋の二代目市川門之助と初代尾上松助」、そして栄松斎長喜の、手前に枕と懐紙入れ、屏風の向こうに布団がちらり、男の気配を感じさせる「懐中鏡を持つ美人」です。ともに色鮮やかとはほど遠く、色彩はごくごく控えめで、墨が生きているように思えました。また、鈴木南嶺・谷文晁・喜多武清の「貼交ぜ」は、「切り貼り絵?」か、「コラージュ」か、浮世絵には今までにない手法で、新鮮さを感じました。画面内には様々な形状の枠のなかに、四季の景物が描かれています。「色紙判摺物」のコラボレーション、といった趣です。渡辺崋山の「お福」もいいですね。賛は「呉竹亭真直 写しミハおとるといへとさくら色 いつるかことき鼻のすがた画」とあります。
Ⅰ 優品に見る浮世絵の展開
1 初期浮世絵版画の時代
Ⅰ 優品に見る浮世絵の展開
2 錦絵の完成
Ⅰ 優品に見る浮世絵の展開
3 錦絵の黄金時代
Ⅰ 優品に見る浮世絵の展開
4 多彩な幕末の浮世絵
Ⅱ 稀少な摺物と絵暦
Ⅲ 美麗な浮世絵の版本
Ⅳ 肉筆画と画稿、版下絵
「日独交流150周年記念 ハンブルグ浮世絵コレクション展」
今年は、日独交流150周年の記念の年です。ドイツと日本は、1860年にプロイセンの東アジア遠征団が江戸沖に来航して以来、長きにわたって交流を重ねてきました。この日独交流150周年を記念し、ドイツ第二の都市ハンブルクから、世界的な浮世絵コレクションが里帰りいたします。1877年に開館したハンブルク美術工芸博物館は、ドイツでも有数の博物館として知られています。同館の収蔵品は約100万点を数え、ヨーロッパやアジアなど広範な地域や時代を網羅するコレクションには、数多くの浮世絵も含まれています。さらに近年、ハンブルク在住のコレクター、故ゲルハルト・シャック氏の浮世絵コレクションが氏の遺言によって同館に遺贈されました。シャック氏は代々の資産家で、ほとんど自宅から出ることなく生涯を浮世絵収集と研究にささげ、膨大なコレクションを築きあげた人物です。シャック氏の存在はこれまであまり知られていませんでしたが、今回の調査で有名絵師の作品はもちろん、数多くの摺物や、画稿、版下などの幅広い資料を含む、きわめて魅力的なコレクションの全貌が明らかとなったのです。本展では、実に5000点を超える同館所蔵の浮世絵の中から、そのほとんどが初公開となる約200点を選りすぐって展観いたします。春信・歌麿・写楽・北斎・広重といった人気絵師たちの作品がたっぷり楽しめるのはもちろんのこと、中でも注目されるのは美しい彫・摺がほどこされた稀少な摺物の数々。そして校合摺、版下絵、画稿、版木といった、浮世絵制作の様子を現代に伝える珍しい資料を含め、バラエティに富んだ作品が一堂に勢ぞろいします。本展覧会は名品を楽しむだけでなく、浮世絵をもっともっと深く知ることのできる絶好の機会といえるでしょう。
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