芥川賞受賞作、中村文則の「土の中の子供」を読む! | 三太・ケンチク・日記

芥川賞受賞作、中村文則の「土の中の子供」を読む!


最近の芥川賞受賞作を振り返ってみると、第130回2003年下期には、綿矢りさ「蹴りたい背中」と金原ひとみ「蛇にピアス」で大いに話題になりました。その後、第131回2004年上期はモブ・ノリオの「介護入門」、そして前回、第132回2004年下期は阿部和重の「グランド・フィナーレ」が続きました。さて第133回2005年上期は中村文則の「土の中の子供 」に決まりました。


中村文則、どんな人なのか、まったく知りません。「著者略歴」を見ますと、1977年愛知県生まれ、まだ27歳ですよ。福島大学行政社会学部卒業。2002年「銃」で第34回新潮新人賞受賞、第128回芥川賞候補となる。2003年「遮光」で第129回芥川賞候補、2004年第26回野間文芸新人賞受賞。2005年「悪意の手記」で第18回三島賞候補となる。「土の中の子供 」で3度目の正直で、第133回芥川賞を受賞しました。そうそうたる経歴なんですね。


土の中の子供 」、出版社 / 著者からの「内容紹介」を見ますと以下のようです。

私は土の中で生まれた。親はいない。暴力だけがあった。ラジオでは戦争の情報が流れていた――。重厚で、新鮮な本格的文学と激賞された27歳、驚異の新人の芥川賞受賞作。
主人公は27歳の青年。タクシーの運転手をして生計を立てている。親から捨てられた子供たちのいる施設で育ち、養子として引き取った遠い親戚は殴る、蹴るの暴力を彼に与えた。彼は「恐怖に感情が乱され続けたことで、恐怖が癖のように、血肉のようになって、彼の身体に染みついている」。彼の周囲には、いっそう暴力が横溢していく。自ら恐怖を求めてしまうかのような彼は、恐怖を克服して生きてゆけるのか。主人公の恐怖、渇望、逼迫感が今まで以上に丹念に描写された、力作。表題作に、短編「蜘蛛の声」を幣録。



僕は10日の「文芸春秋」の発売日に購入して、一度読みましたが、これがなかなか手強い。というか、読むのも苦痛を伴い時間がかかり、内容はほとんど頭に入りませんでした。これは困ったぞと思い、しばらく間を開けて、再度、読み直してみました。そうすると、なんとまあ不思議なことに、すらすらと読めてなんとか頭にも入りました。ここのところ、ブログ用というわけではありませんが、どうしても「大衆文学」の方へ行ってしまうのが常でしたが。久しぶりに「純文学らしい」、小説らしい小説を読んだ、そんな感じを持ちました。もっとも最近は、芥川賞と直木賞の境界が、はっきりしなくなってきてはいますが。


芥川賞受賞作の掲載されている「文芸春秋」、まず最初に読むのは、そうです、選考委員の「選評」です。これで先入観を植え付けられるということではありません。「選評」を読んでも、受賞作や他の候補作は読んでいませんので、頭に入るわけはありません。結局は、受賞作を読んでから、再度「選評」を読み直すのですが。いずれにせよ、今回の芥川賞は候補作7篇、おしなべて低調であると、多くの選考委員が述べています。7作のうち5作は早々に賞の対象から外れ、残った2作、中村文則の「土の中の子供」と、伊藤たかみの「無花果カレーライス」から、受賞作を出すかどうかに論議が絞られたそうです。


高樹のぶ子委員は選評の中で、「受賞作は、運命的で理不尽な暴力の被害者が、暴力で応報せず、自らの恐怖の感覚を克服することで生き延びようとする観念小説だ。」とし、「落下するゆえに愛し、憎むことに安らぎを憶えるという両義的感覚は、観念から出発していながら身体的感応に行き着いている。」と評価しています。


暴力という、人間性を否み常識を否定してかかる主題は、いつの時代にも小説にとって潜在あるいは顕在した重要な主題だが、今日のようにその種の出来事が反復氾濫する時代にそれを正面から捉えてかかるのは、読者側の社会人としての感性がそうした主題に対してむしろ鈍磨されている故に極めて難しい作業となるに違いない。」と、石原慎太郎は言います。


幼児虐待、トラウマ、PTSD、原因はどこにあるにせよ、自虐的な行いや暴力が、これでもかと言うほど出てきます。しかし、小説の最後に、「父親がどうしても会いたいと言っている」と、ヤマネさんから聞いて、「僕は、土の中から生まれたんですよ。だから親はいません。今の僕には、もう、関係ないんです」と、父親と決別し、ヤマネさんに背を向けて歩き出します。そして「もう少し生活が落ち着いたら、白湯子と小さな旅行をすることになっている。だがその前に、何かの決断も、要求することもできなかった、彼女の子供の墓参りをしようと思った。」と、これから先、白湯子と2人で生きていくことに、かすかな希望を見出します


過去の記事:芥川賞関連

阿部和重「グランド・フィナーレ

http://ameblo.jp/tonton1234/entry-10000851358.html

モブ・ノリオ「介護入門

http://ameblo.jp/tonton1234/entry-10000434842.html

金原ひとみ「蛇にピアス

http://ameblo.jp/tonton1234/entry-10000481172.html