橋の上で、振り返る。 | pacoの日記

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小さな港町
からの
ひとりごと







橋、というと

いろんな小説や映画の中で

何かのターニングポイント的な表現で使われたり

橋そのものが物語りの生まれる場所だったり。



橋の上で出会った男女が恋に落ちたり。

またその橋の上で、別れたり。



そんな橋にまつわるエピソードなんて、

映画や小説の中だけのものー

殆どの人が、そうよね。





だけど。

私ー 橋の上でキスしたい…



じゃ!

なくってぇ〜〜w




私にも、現実の橋のエピソードがあった。


だから、今日はそれを書いてみる。


明るいエピソードじゃないけど、

それは…悪しからず。



理由は、一個しかなかった橋エピソードが

今年になって

もう一つ増えたからだ。

これはもう…書くかな…と。



今回は、ふと思い出した数年前の

ある橋の上の 話。



もう一つの今年起きた話は、

またいつか。







ーーーーーーーーーーー






その激安スーパーは、

とても魅力的だ。



私の家からはすんごく遠いけれど、

チラシを見かけたからにはもう

行かずにはいられない。



本来なら車で行くべき距離を

車持って無い私は

ママチャリを必死に漕いで

汗だくで向かう。



けれど時間がかかるのでスーパーに着くのは

ちょうど夕刻ごろだ。












スーパーはまるで

最果ての地の別世界のような、

そんな土地にある。



そこへ行くには大きな運河を越えるため

またとても「長い橋」を渡らなければ

行けないんだ。




その橋は

車の車線が4車線もある横幅だ。

ビュンビュン車が走っている。



そしてその両脇に歩道がついていてー

橋から下を見ると、けっこうな高さだ。


そこには黒い川と海が混ざり合って、

混沌と

また悠々と流れている。



私は高いところが苦手なので、

自転車の時も海風であおられてフラフラして

怖い。



そのため、いつもスーパーに向かうときはー

急いで橋の上を走り抜ける。




だがしかし!


以前から気にはなっていたんだけど、この橋。


距離が長いからか?

橋から景色を眺めるためか?

橋の歩道の数カ所に「ベンチ」が設置してあるねん。



そのベンチは動かないように作ってある石製

なんだけど……


私にしたら

その人通りの少ない寂しげで長い橋にベンチがあると

どうしても「よけい危ない」んじゃないか、と。




その時も激安チラシに目がくらみ、

スーパーに向かっていた。


あの橋の上を走り抜けようと

チャリを飛ばしてた時だ。



橋の中腹のベンチに

小綺麗なOLさん風のお姉さんが

座っていた。



『夕日でも眺めてるんかな…』と思って

チャリで横をスーーッと、通り過ぎた。



だけどーー。


何だか腑に落ち無い感情が湧いてきて

自転車をキュ!っと止めた。




私はー

橋の上で 振り返る。



止まると海風が轟轟と

私の髪をぐしゃぐしゃにした。



お姉さんの方を凝視して見ると、

カバンや荷物を持っていないようで。



ただ、お姉さんの身体一つが

ぽつねんと、ベンチの上に座っているようだ。



そしてーー

綺麗なお姉さんやのに、

背筋をピンと伸ばしてタバコを吸っていた。



そのタバコがもう、

フィルターにつくくらいにギリッギリまで吸ってて。

指が、かすかに震えているように見えた。



私は直感的に思った。



『アカン。。。これ、死ぬやつや……。』




その直感、というのは

一度死のうとしたことのある人だけが分かるー

その直感、だった。



私が走り去った後にあの人が

飛び降りたらーー

そんな映像が脳裏によぎり、

胸の鼓動が息苦しくなるくらい高まった。

(こっちが先に死にそうなくらい)





それでも気持ちを抑えながらも、

ゆっくり自転車を押しながらー

歩いてお姉さんの座っている場所まで

戻った。


『こういうときは神妙なんはアカンな。。

関西のフツーのオバちゃんで行こう。』



それでお姉さんの近くに、自転車のスタンドを立た。


ゆっくり近づきながら、


「すみませぇ〜ん。

あのぅ、

タバコ吸おうと思ったらライター忘れちゃって〜アセアセ

ライター、貸してくれませんかぁ?



そう、

ごく普通の明るい声のトーンで話しながら

お姉さんのすぐ隣りに、腰掛けた。



すると、お姉さん。

「あっ……」と少し驚いた感じで。


そしたら

「ライター…は…あるんですけど、、

私……

もうタバコは無いんですーー

と言ってー

号泣した。




物凄い声をうわずらせながらー

泣き出した。



私は

「 大丈夫ですよ。

タバコなら私がありますから、大丈夫。

一本どうぞ、どうぞニコニコ」と差し出した。



「あ! 私のん、凄くキツいタバコだけど

いいですかねぇ?


そう言ったらー彼女は

「キツくても大丈夫です。

ありがとうございます。」と

泣きながら。



嗚咽をあげている彼女の震える手元に

私の手元を重ねながら

タバコに火をつけてあげた。



そして、何にも会話せずー

彼女はしゃくりあげるように泣きながら



私は無言で運河と暗くなりつつある空を

眺めながらー。



2人で
タバコ吸いながら
無言の煙の 中。



何にも聞いたりせぇへんけど、

彼女が大分と

踏ん張って踏ん張って…だけど、

ここに来てしまったのだろうな…

そう感じた。




何にも聞かへんよ。




だけどさて、

どうしたものかな…。




彼女が喋りたいなら、喋るかな。。




でも、やっぱり

私に出逢ったからにはー

逝ってはほしくない…。




それで私は、

嘘をつくことにした。




「あの〜、

私ね、〇〇スーパーに行こうと思ってるんだけどーこの辺、初めてで。

道、ぜんっぜん分からないんですよーー。

〇〇スーパーって、知ってますか?」



すると彼女は少し落ち着いたようで、

「知ってますよ」と。


で、

私はたたみこむように


「私、ほんっと嫌で恥ずかしいんだけどー

めちゃくちゃ方向音痴なんですよぉタラー


もし! 良かったら〜なんですが、

途中までスーパーに連れて行ってくれませんか?

何か1人やと辿り着けるか

すごく心細くって…ショボーン



そう話すと、

彼女は私のアホっぽい話に呆れたのかー

タバコを貰ったお礼なのかー

条件反射なのかー

「いいですよ」と 

小さな声で頷いた。




気持ちが上下したのかフラフラな彼女を

少し支えながら立たせた。



それから私は自転車を押しながら

彼女と2人で

ゆっくり、ゆっくりと

橋を渡り切った。




その間、2人は始終 無言だった。



スーパーの明るいネオンが道の向こう側に見えると

彼女が指を指して、

「あそこですよ」と言った。



私は

「ありがとう!!

助かったわぁ〜おねがい

ところで、お姉さん 家、この近所なの?」

と初めて聞いてみた。


すると彼女は、「ハイ」。




私は

「もう、あの橋 渡って帰ったりせーへん?」

そう聞くと

彼女は

「はい…。。多分…」


しつこい私は
ダメ出しのように


「あのさぁ、、

あの橋渡って帰るんやったら、
買い物にも着いてきて!
私が、一緒に送って帰るから。」と。



そしたら彼女、

また泣きそうになってー

「もう……

橋は…渡って帰りません。はい」。



私 「私のタバコ、持って帰る?」

彼女 「いえ、大丈夫です。買います。
      ……ありがとう…。」




私は自転車のスタンドを立てて、

最後に彼女を

そっと 

抱きしめた。




言葉にとかそんなん出来なくて。



ただ、

優しさとかそんな言葉でも

表現しかねるような気持ちで。



昔の自分をいたわり抱きしめるような

大丈夫だよ…と願うよう な。




弱りきった小鳥のような彼女の背中。

ちゃんと帰る場所あるんかな…

そんな心配しながら

見えなくなるまでー

見送った。





スーパーに着くともう、

お目当ての特売品は全部

売り切れ、だった。




私は

「クソっ!!」「なんやねんっムキー

なんて、悪態をつきながら

帰路についた。



今日の買い物…収穫無しやん!

…あーあ。。。


さっきまでの出来事を一瞬忘れさるくらい

スーパーの商品在庫の無さに腹が立って

ザ ・リアル・ワールドに引き戻された。




でも…

真っ暗なあの橋をまた走って帰るとき

思った。




多分、今日 スーパーに行ったのは

買い物じゃあなくて

あの娘の人生の一部に

ほんの一瞬でもかかわるため?

だったのかな…と。




それなら、

私はあの彼女が今もきっと

何とか生きていることを

願ってやまない。



何も知らない他人だけど、

私は強く 願う。