85th 関西学院グリークラブリサイタル | とのとののブログ

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 「東西四大学の定期演奏会をすべて聴く」試み,いよいよトリの関西学院。ここは3年連続だけど,今までの兵庫県立芸術文化センターではなく,昔リサイタルを何度も聴いたフェスティバルホールでの開催。数年前の改装後に訪れるのは初めてで,また合唱を聴きに訪れたのは35年ぶり。会場は1階で見る限り満席に近く,素晴らしいことである。

 

 

 76(名簿は86)による校歌「A Song for Kwansei」での幕開けだけど,あれれれ? 関学独特のハーモニーのオーラが届いてこない。ホールが広すぎるのか天井が高すぎるのか,ハーモニーに包み込まれるような感覚がなく,客席の半ばぐらいで消えているような感じ。昔のようにベースの声が強くて会場を隅々まで震わせているような場合は分からなかったけど,いまの関学の声は体中を共鳴させて声を響かせるスタイルではないため「反響板を震わせる」までには至らず失速しているのか? 会場の真ん中より前で聴く分には関係なかったかもしれないが,私は後ろの方で聴くのが趣味。帰宅して調べると「反響は2秒程度」で設計されているそうだけど,PAを使う場合はともかく,合唱のハーモニーを響かせるには適していないように感じた。

 

 第1ステージは客演の本山秀毅先生の指揮でメンデルスゾーン作曲「夕べの祈り (Vespergesang)」。メンデルスゾーンの男声宗教曲は少なく,この作品121以外には作品115しかない。更に通奏低音の伴奏ということでチェロとコントラバス伴奏で演奏されることが多い珍しい曲。第31回の東西四大学で福永先生が同志社グリーを指揮して演奏された時も「なんでこんな変わった難しい曲を演奏されるのかな」と思ったのだけど,今回も本山先生が一生懸命引っ張っておられるのに対して,グリーメンは戸惑いがあるというか,おずおずと歌っているというか,どう歌ってよいのかよくわからないという感じだった。前述のようにハーモニーは届かないけど,逆に各パートの声は聴きやすいので,フーガのところは楽しめたのだけど。

 とはいえ,グリーが毎年のように本山先生を招いて欧米の曲をきっちり練習して臨むということは,上から目線で申し訳ないけど,本当に良いことだと思う。出来不出来はいろいろあるようだけど,合唱の原点ともいうべき曲を毎年レパートリーとして勉強してくのは大切なことだ。昔は林雄一郎先生が毎年のようにミサを振られていたので,北村協一先生が新しい曲に挑戦されてても根っこがしっかりしていた。本山先生は客演ではあるけれども,そういう役割を担われているみたい。

 

 第2ステージは広瀬康夫先生の指揮でA Beatles Celebration。関学得意のバーバーショップのステージで,昨年6月の東西四大学合同ステージの再演。本来は楽しめるステージなんだけど,なにか精彩を欠く。スーツも替え照明効果もばっちりで演奏も綺麗にまとまっているのだけど,おざなり感のあるステージだった。何度も演奏して歌い手側が飽きているのだろうか? 良く分からない。

 

 第3ステージは昨年の全日本合唱コンクールで1位金賞を取ったことの報告ステージ。課題曲のKodaly曲「孔雀が飛んだ」と自由曲の千原英喜曲「那須与一 (平家物語による男声合唱のためのエチュード)」を広瀬先生の指揮で選抜メンバー64名で「コンクール形式」で演奏された。那須与一の一節は中学の時に初めて古文を習った時の教材の一つで,当時暗唱させられたので今でも口をついて出てくる。「判官,後藤兵衛実基を召して,「あれはいかに」とのたまへば,「射よとにこそ候ふめれ。」「鏑は海へ入りければ,扇は空へぞ上りける。しばしは虚空にひらめきけるが、春風に一もみ二もみもまれて、海へさつとぞ散つたりける。夕日の輝いたるに、皆紅の扇の日出だしたるが,白波の上に漂ひ,浮きぬ沈みぬ揺られければ,沖には平家,船ばたをたたいて感じたり。陸には源氏,箙をたたいてどよめきけり。」この曲にも何箇所か使われていのだけど,改めて詠むと音響的にも映像的にも美しいシーンで,曲にした千原英喜さんはさすがである。

 このステージは本当に素晴らしく,曲の面白さと相まって日本一の男声合唱を堪能することができた。文句の多いおじさんも脱帽。

 

 第4ステージは新月会や高等部と合同で源田俊一郎編曲の「男声合唱のための組曲『ラ・マンチャの男』」を広瀬先生の指揮で。美しいメロデイーが多く,映画のDVDは何度もみている。本日の演奏は,どうしたことか,迫力はあるけれどハーモニーがざらついて,また,メロディーラインが浮かび上がってこないという点で残念なものだった。全員暗譜で,関西学院の人は一部に振りも付けていたので練習が足りないということはないのだろうけど。聴いた場所の問題だろうか?

 

 第5ステージは山村暮鳥作詩・信長貴富作曲「無伴奏男声合唱曲集『じゆびれえしよん』を学生の村上健登さんの指揮で。作曲者によれば「ア・カペラを作曲する場合は(中略)ア・カペラとしてのスタイルを言葉の側からひきだせるものでなくてはならない」「山村暮鳥の詩の多くは,意味よりも先に言葉の響きが耳に飛び込んでくる」「いつかア・カペラを書くなら山村暮鳥の詩を,と思ってストックしてあった」らしい。

 演奏はハーモニーをきちんと鳴らし,かつ曲調の違いを表現しようとした意欲的なもので,面白く聴くことができた。フレーズというより音の楽しを味わう曲のようで,グリーと指揮者に合った選曲だったと思う。

 

 アンコールは本山先生がメンデルスゾーンつながりで「Beati Mortui(あとPeriti autemを歌えば男声宗教曲をコンプリートだった),広瀬先生はバーバーショップアレンジの「Nearer My God To Thee」,村上さんが信長貴富曲「くちびるに歌を」,次の学指揮が「U Boj」。U Bojは新月会・高等部との合同。これを聴かないと帰れません,ほんとに。

 

 今回はホールによるのか座席位置によるのか,いままでのような「ハーモニーのオーラに包まれる至福感」が味わえず欲求不満気味で辛口だった。3ステや5ステが素晴らしかったので,選曲によるところもあるのだろうけど。

 ともあれ,二度とやらないであろう「東西四大学の定期演奏会をすべて聴く」をやってみて,思うところがある。これは別に上げることにする。