マニアとして積極的にとんかつを食べるようになって15年が過ぎようとしているが、いまだとんかつが世の中のブームになったことがない。
この15年の間には、とんかつと同じ“揚げ物”のライバルである唐揚げがブームになり、B1グランプリからでてきた焼きそば系や担担麺がヒットしたり。挙句の果てには、とんかつのパクリともいえる牛カツなるものがブレイクしたのが2015年あたりである。
唐揚げにせよ、牛カツにせよ、とんかつ付近のものばかりがヒットして、本丸ともいうべき揚げ物の王道・とんかつが本格ブームにならないのか?
大きく理由は二つあると思う。
一つは、「とんかつ屋の店主にブーム欲求がないから」である。ラーメン屋などと比較すればわかりやすいのであるが、ちょっとした人気店となれば店内に所狭しと飾れた有名人のサイン、メディアを意識したキャラ設定(頑固、マイルール、腕組み&鉢巻)などがあるが、とんかつ屋の店主ほどテレビに出るのを嫌がる飲食店も珍しい。理由としては、昔からやっている店が多く、一時的に客が増えてもなじみの客に迷惑がかかるだけということだろう。
二つ目の理由は「バリエーションの少なさ」である。ラーメンなら、塩・しょうゆ・味噌などと大分類があり、さらにそこから細かく分かれていて、二郎や家系など出自なども加わり、数多あるわけだ。バリエーションが多い飲食ははやるというのが僕の持論。それにくらべ、とんかつは、基本的「ロース」「ヒレ」しかない。唐揚げだって、味のバリエーションや地域性を出したからこそブームになったと思う。
であれば、とんかつももう少しバリエーションを増やせばブームのきっかけになるかもしれない。ただし、店側にバリエーションを作るというのは酷というもの。そこで、現状のとんかつのままで、カテゴリーネーミングをしてバリエーションにして行こうと思う。
その1「三文字系」
これは、先ごろ閉店した神田「いもや」をロールモデルとして、「ロースかつ定食」と「ヒレかつ定食」の二種類しか置かない低価格でストイックな店。カツ丼もなければ、海鮮系も置かない。店内は清潔で白木のカウンターに割烹着をきた職人があげる和風スタイル。上野の「山家」、新橋の「まるや」などが当てはまる。なぜかこの系統の店は、シンプルに三文字に収まっていることが多いのだ。
その2「蒲田系」
これが一番流行りやすい気がする。近年蒲田にとんかつやが増えてて、なぜか「とんかつのメッカ」などと言われているが、人気店である「丸一」「檍(あおき)」「双葉食堂」などのとんかつに共通するのは、“レア気味”なのだ。中央にほんのり赤みが残る揚げ方である。こうしたレア気味の揚げ方をする店は蒲田などの城南以外では案外少ない。これは大きな特色といえるだろう。蒲田に限らず、レア気味とんかつは今後「蒲田系」と呼びたい。
その3「クリスピー系」
一言でいえば、揚げすぎとんかつのことだ。揚げすぎはネガティブな印象が強いが、筆者はこれも一つの個性だと思っており、特に時間をかけて飲みながら食べる時などは、少々固いほうが蒸れなくていいのだ。
その4「植物系/動物系」
これは揚げ油のことである。植物系はさっぱりしており、ラードは香りが強くパンチがきいている。これは完全に好みだが、この二つの違いが理解できればとんかつの楽しみ方が深まる。
以上、四つのバリエーションを提唱してみた。
ぜひ多くの人に使ってもらい、とんかつのブームの一助となってもらいたいものだ。