カリウムイオン電池、 Liイオン一強の現状を打破できるか | ボルタのブログ

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本文は2月17日の日経クロステックの要約及びそれに関するコメントです

要約

・序論

既存のリチウム(Li)イオン2次電池の性能向上に対する閉塞感が高まる中、Liイオン2次電池(LIB)以外の2次電池技術に注目が集まっている。その代表例がナトリウム(Na)イオンを用いた2次電池(NIB)だったが、ごく最近になって、カリウム(K)イオンを用いた2次電池(KIB、またはPIB)にも脚光が当たっている。

2015年に東京理科大学の駒場研究室が、負極にグラファイトを用いて、LIBと同様なインターカレーション†で動作するKイオン2次電池(KIB)を提唱。2017年には、この負極とマンガンを一部含むプルシアンブルー正極で4V級のKIBを開発した。これらの研究によってKIBに注目が集まり論文が急増。2019年には約300本の論文が発表された。

 

†インターカレーション=イオンが電子のやり取りを伴わずに電極材料の隙間に出入りする形で充放電を担うこと。この場合、電極外部端子との電子のやり取りは、電極材料中の元素の価数が変わるなどして行われる。

 

・KIBの特徴

 KIBのLIBに対する差異化点は①格安にできる可能性が高い、②出力密度が非常に高い、の大きく2つである。

①に関しては、Kイオンを含む材料がいずれも資源的に豊富で格安に製造できる可能性が高いからだ。LIBでは、電気自動車(EV)や電力系統の安定化などに向けた大量の需要ではLiや正極に用いるコバルト(Co)のひっ迫や高騰が予想されるが、KIBならその心配がない。〈さらに、地球上に存在するLiの比率に対し、Kは多く、加えて、KはLiに比べ、重量単位でも価格が安い。さらに、抽出方法等も確立され、安価なKの供給ラインは既に確立されている。〉

 KIBより先に脚光を浴びたNIBも大幅な低コスト化が見込める特徴を備える。ただし、NIBは放電電圧が原理的にLIBに対して0.3V低い(図1)。電圧の差はエネルギー密度に大きく効いてくるため、たとえ格安でも利用できる用途の幅には限界があった。しかし、KIBはLIBに比べ、電圧上の不利、すなわちエネルギー密度の不利はない。

図1:LIBとNIB、KIBの電圧の比較

 

②の出力密度の高さではLIBやNIBを圧倒する。標準的なLIBの充放電レート(Cレート†)は急速充電の場合0.5~2C。特に出力密度の高い製品でも10C(6分で満充電)がやっとだ。一方、KIBでは推定80C(45秒で満充電)が可能という報告がある。

KIBの出力密度がLIBを大きく超える理由の1つとして、Kイオンの溶媒中の実効的なイオン半径(ストークス半径)が小さいことがある。Kイオンは結晶中のイオン半径こそLiイオンやNaイオンよりも大きいが、ストークス半径は最も小さい。この結果、溶媒中のイオン伝導率が高く、高い出力密度につながっていると考えられている。溶媒が水溶液だと特に、ストークス半径が小さい。

 

†Cレート=充放電の速さを示す指標。電池を1時間で満充電にする電流の強さを1Cとする。2Cであれば30分で充電できることになる。

 

・色鉛筆の顔料が正極候補

Kイオンに適した電極材料は2014年以前ではほとんど知られていなかった。「結晶中のKイオンが大きいことで、インターカレーションできる材料がなかなかなかった」(東京理科大学 教授の駒場慎一氏)からである。

駒場氏らは2015年にまず、Kイオンをインターカレーションできる負極材料として黒鉛系のKC8を提唱。2017年には正極材料として、青色の色鉛筆やボールペンなどに使われている青色顔料「プルシアンブルー(PB)」を採用し、適切な電解液も利用して、世界で初めて正負極の両方でインターカレーションするKIBを開発した(図2)。この開発では、PBそのままだけではなく、マンガン(Mn)を加えた改良版PBで4V級と高電圧のKIBを実現した。

図2:正極に用いられるプルシアンブルーの結晶構造

結晶中にすき間が多く、Kイオンのほか、NaイオンやCaイオンも容易に出入りできる。Feの一部をマンガン(Mn)に替えると、電位が高まり、KIBのエネルギー密度が高まる

 

・有望な新材料も登場

PBの正極活物質としての電流容量密度は約140mAh/g。このため、エネルギー密度はLIBに迫り得る。皮肉なことに、KIBを成立させるPB結晶中のすき間の大きさが体積エネルギー密度を高めるには不利に働いているかたちだ。一方で、PBはコストが安く身近な色鉛筆に使われるほどで、人体への安全性も高いというメリットも存在する。しかし、KIBを新しい2次電池として普及させるには、出力密度だけでなく、エネルギー密度でもLIBを超える必要がある。この状況を打開するため、KIBの研究ではPB以外のさまざまな材料が試されてきた(図3)。

図3:正極側で試験した試験材料とその試験結果

 

LIBの代表的な正極材料である層状コバルト酸塩もKIBで試されたが、むしろPBおよび同系統の材料(PBA)の優秀さが目立つ結果になった。特に、コバルト酸塩は「最近になってKIBではうまく行かないことがはっきりした」(駒場氏)という。残る候補が、PBかPBA、もしくはポリ酸類と呼ばれるリン酸塩系や硫酸塩系の材料、そしてごく最近、発見された高分子材料「p-DDPZ」などである。p-DDPZは正極活物質としての電流容量密度が162mAh/gと高く、しかもCレートは80C、充放電サイクル寿命が1000回以上と最も有望な材料といえる。

 

コメント

・近年、電気自動車産業やドローンがバッテリーの問題で性能が頭打ちとなっていた。これは、現時点で主流となっているLIBの性能向上が見込めなかったからだ。さらには、Li鉱山の開拓が思うようにいかず、Liの価格が高騰し、研究を阻害していた。このような状況で、電池業界は、LIBの対抗馬となるもの、もしくはそれを超えるものを模索していた。近年、マグネシウム電池やナトリウム電池などが提案されるも、現時点では、LIBの対抗馬となるにはまだ、不十分な点が存在した。KIBは電気密度でもLIBに引けを取らない性能である。今後さらに正極側の改良が行われれば、KIBはLIBを凌駕する電池となり得る。

・KIBは、LIBよりも充電速度が圧倒的に速い。これは、電気自動車には必須の項目の一つである。加えて、電池としても充電回数が充放電サイクル寿命1000回以上と有望である。

・LIBは熱制御が難しく、熱制御を見余ると爆発するといったデメリットがある。このデメリットにより、LIBを使用する際は、熱駆動系と離す、または冷却構造を付加するといった構造上の制限を設ける必要があった。これは、Liイオンの高い電気陰性度とそこから来る高い反応性のためである。しかし、Kイオンは、Liイオンよりも電気陰性度が小さく、反応性も低い。このため、KIBを用いれば、構造面で負荷を強いられることはないはずである。