人を動かすアナウンス
今回の震災の際の二つの対象的なアナウンスが気になった。一つは、地震発生直後のNHKのアナウンサーの避難を勧める声かけである。絶叫とも言える声にいつもとは違う危機感を感じた。「命を守ること」という思いのこもったアナウンスが印象に残っている。
もう一つは、羽田空港での飛行機事故でのCAさんの誘導のアナウンスである。乗客が撮影されたとされる映像がワイドショー番組で映し出されていた。乗客の悲鳴ににた叫び声の中、冷静に「鼻と口を覆って、姿勢を低くしてください」と言い続けていた。
もしも飛行機事故の時に、津波の危険を伝えるNHKアナウンサーさんのような絶叫だったら、乗客は冷静さを失うだろう。語気を強めながらも、冷静さを保つように誘導することが必要だっただろう。
この二つのアナウンスから、私の診療においても患者さんに対する語り方に工夫が必要であることを改めて感じた。治療には患者さんの協力が不可欠である。いろんな理由をつけて嫌がる患者を説得する必要もある。急を要する場面をある。患者さんによって感受性も異なる。例えば、冒頭紹介したNHKアナウンサーの口調には、批判的な意見もあるようだ。
時に私自身がオーバーヒートすると、火に油を注ぐように、患者さんもオーバーヒートして、攻撃的になられることがある。基本的には、静かに話すように心掛けているものの、私も人間、感情の動物である。感情的になることがないと言えば嘘になる。一方で、感情的にならないとどこか他人事のように聞こえることもあるようだ。淡々と事実を伝えることに専念すれば「他人事ですね」と言われることも経験するのだ。
そう考えると、ケースバイケースというえば簡単だが、実行は難しい。相手の反応をキャッチして話し方を変えることも必要なのかも知れない。そんな器用さは持ち合わせていない。いや、まだまだ精進が足らないだけかも知れない。いずれにしても、被災地の惨状を伝え聞いても、できることが見当たらない。ヤブ医者である私がしゃしゃりでても邪魔になるばかり。被災者にかける言葉が見つからない。それでも、「なんとか凌いで下さい」と叫びたくなる。その声かけは正しいのかどうかもわからずに。
追記 「しきゅうきんしゅ!」って伝えるのも言い方難しいね。(落語のまくらでよくされる小噺にありますね。)