本日は山下達郎「好・き・好・き SWEET KISS!」(1998年リリース、シングル「いつか晴れた日に」カップリング) です。
1994年にそれまで使用していた自社スタジオ「スマイル・ガレージ」が湾岸地区の再開発の影響で取り壊されることとなり、3年間程は東京都内のレコーディング・スタジオを転々として自身、竹内まりやさんの曲を制作をしていましたが、音の仕上がりに満足がいかずに、レコーディングだけして中断したものなどや、CMソングで終えてしまった曲などが出てしまいます。それでも「世界の果てまで」「愛の灯 〜STAND IN THE LIGHT」「DREAMING GIRL」といったシングルをリリースしましたが、肝心のオリジナル・アルバム制作は中断することになります。
そして1997年に、達郎さんが待望した新たな自社スタジオ「プラネット・キングダム」が東京・六本木に竣工したことで、再び自身の制作環境に変化が訪れます。転々としていたスタジオでのレコーディングから解放され、満足のいく音作りを行えるようになりました。同時期にアルバム制作を再開し、1998年の『COZY』では97年以前にレコーディングされた曲の殆どをリミックスしたり、時には追加でレコーディングを行ったりするなど、「プラネット・キングダム」での音色に出来る限り摺り合わせていきました。1998年にリリースされた「いつか晴れた日に」はプラネット・キングダムでレコーディングされており、カップリング曲でもある「好・き・好・き SWEET KISS!」も同時期にレコーディングされました。
しかし、プラネット・キングダムのレコーディングも幾つか問題点が出るようになっていました。時代に合わせた音を作ることをモットーにしている達郎さんにとって、自社スタジオの音が硬いなどの問題は許されるべきことではなかったかもしれません。ところが、ベスト・アルバム『RARITIES』を制作していた2002年に、レコーディングスタジオの「卓」(ミキシング・コンソールで、レコーディングやミキシングを行う時に使う調整する機械) を当時の最新式のものに変えた結果、問題点が全て解決し、驚くほど制作が速くなったと達郎さんは明かしています。この『RARITIES』では収録にあたって多くの曲をリミックスや追加レコーディング、調整を行っていますが、この「好・き・好・き SWEET KISS!」もそのうちの一つでした。
この曲はJACCSカードのCMソングとして起用されました。
元々は誰か別のミュージシャンへの提供曲用として用意していた曲で、自身で歌うことを想定していないものでした。その為、「山下達郎らしからぬはっちゃけたポップなタイトル」という、それまでの山下達郎作品には見られない要素がある曲となっています。歌詞も達郎さんによるもので、『POCKET MUSIC』『僕の中の少年』の頃の内省的な作風と比べると、かなり明るい甘い仕上がりとなっています。
歌詞は東京・渋谷のハチ公口前交差点の大型ビジョンがあるビルでのデート風景とのことです。
「水を蹴って 羽ばたく鳥のように」
「僕等は 街へと駆け出す」
若いカップルがウキウキ気分で渋谷をデートしに行く様子が、この歌詞で読み取れます。かなり浮足立ってますね。
「あんず色のソーダ水はじけた」
「小さな恋の音がする」
ソーダの炭酸が弾ける程、多くの「キュンキュン」するような要素が多くあるのでしょう。彼女は「あんず色のソーダ」を持って渋谷を歩いているのだと思いますが、面白い表現だなと思いました。
「よそ見をしてる 横顔が素敵」
「風船ガムふくれた」
多くの人が入り交じる渋谷。当時とは変わって現在の渋谷は外国人観光客なども増えたことで、より多国籍化している雰囲気もありますが、1998年当時であればギャルの街としても知られた、若者が多い場所でした。それでなくても建物が多かったり、走る電車が長く、2〜3分間隔で来たりと、驚きもあるでしょう。そして何より多くの男性が渋谷に集まってきます。彼女はそんなワクワクとドキドキで、あっちこっちを見渡しているのですが、僕はそんな彼女の横顔が素敵だと言います。ですが、僕を見てくれないので、ちょっとふくれっ面になるのです。食べている風船ガムがふくれたことと掛けた、洒落た歌詞です。
「好・き・さ SWEET KISS!」
「どんな夏よりまぶしくて どんな冬より胸をしめ付ける」
そんな僕を見ない君に「好きさ」の一言と「甘いキス」という大胆な行動に出るのです!普通の若者でもしないような行動に出ますが、彼女の存在は眩しいくらいの存在感を放ち、彼女の居ない日常はとても胸がしめつけられるくらい苦しいものなのです。だからこそ僕は彼女を手放したくない!なので、このような大胆な行動に出て「俺の彼女だぞ」とアピールをしたのでしょう。
「空いっぱいに抱き上げて」
「君がいれば僕は KING OF THE ROAD」
そしてキスの後に、子どものように彼女を抱き上げる僕。君さえいれば僕はこの人生という名の道を楽しく進めるんだと言うのです。
明るいポップスで作られており、自身のシンガー・ソングライター的な作風では無く、作家的に作られたことが窺える一曲です。キーボード、シンセサイザーがメインで尚且つコンピューターによる打ち込みで殆ど作られており、エレクトリック・ギター、アコースティック・ギターといった弦楽器くらいでしか生楽器が使われていません。プログラミング、ギター、シンセサイザーなど殆どは達郎さんによる演奏で構成されており、間奏のエレクトリック・ギターソロのみギタリストの佐橋佳幸さんが演奏しています。
しかしながら、達郎さんらしからぬ甘い曲とタイトル。ファンになりたてだった時にこの曲の存在を知った時は「何かの間違いではないか」と思ったほど衝撃的なタイトルでした。しかし意外にも達郎さんにとっては作家的な部分が全面に出たこともあり、歌詞・曲ともに愛着のある一曲だそうです。この投稿当日は奇しくもバレンタインデー。チョコのような甘い曲はどうでしょうか?
↑フルはYouTubeでは無し…。しかも2番から。
フルはこちらにありましたのでこちらからどうぞ。