本日は德永英明「輝きながら…」(1987年リリース) です。
德永さんはミュージシャン、とりわけシンガー・ソングライターとしてデビューをすべく、19歳に上京してアルバイトをしながらデビューをすべく活動をしていました。アルバイト先をレコード会社近くの飲食店などで働き、レコード会社スタッフと顔馴染みになったところで自作のテープを渡すなど、地道にデビューへの活動をしていました。日本テレビのオーディション番組「スター誕生!」にも応募し出場するも、惜しくもスカウトされることはありませんでした。しかしその後、音楽祭に出場しグランプリを獲得、その音楽祭の主催だったスタッフが立ち上げたミニFM局の制作したロック・ミュージカルに德永さんはオーディションに応募。見事に主演に選ばれます。このオーディションでの選考はルックス・役柄のイメージの他に、歌唱力が抜きん出ていたことから選出されたといいます。このロック・ミュージカルの主演を機に、1986年にシングル「Rainy Blue」、アルバム『Girl』でメジャーデビューをし、「Rainy Blue」はスマッシュ・ヒットをすることとなり、現在においても德永さんの代表曲として親しまれています。
とはいえ、その後のシングルはランク圏外となるなど、伸び悩んだ時期もありました。そんな時にCMタイアップとしてリリースされたのが、この「輝きながら…」でした。
この曲は南野陽子さんが出演したフジカラー・スーパーHRのCMソングとして起用されました。
ハスキーながらその高い声を用いた歌唱は、女性ファンを掴んだ他、男性ファンからは羨望の眼差しを受け、他のボーカリストからも高い評価を受けています。この声を維持するために徹底したケアをしていたそうで、日常でも普段からマスクを欠かさずしており、声を出すことも極力控えていたそうです。後年に大ヒットシリーズとなるカバー・アルバム『VOCALIST』では女性歌手のカバーを難なく歌いこなすなど、その高い歌唱力は德永さんの武器であると言えます。自身の作曲作品でも高い声を生かしたメロディーになることも少なくありません。
この「輝きながら…」でも、その高い歌声と、ミュージカルで経験した表現力を発揮しています。歌詞は作詞家の大津あきらさんによるもので、昔好きだった「君」の少女時代を振り返るものとなっています。
「素顔にメロディ 焼きつけて君は今」
「輝きながら 大人のドアをあけて」
ふと懐かしくなり、愛した君のことを振り返ります。君の写る素顔に想い出のメロディを頭の中で流しながら、「君は今どうしてるのかな」「あの頃の輝いていた時のまま、少女から立派な大人になっているのかな」と想像しています。
「瞳を閉じても 木漏れ陽が」
「手を振る君を照らしてる」
振り返る僕。瞳を閉じてもその鮮烈な想い出は今も脳裏に焼き付いています。日差しが照りつける夏の日。木漏れ陽が僕に手を振る君を、スポットライトのように照らしていて、とても輝いて見えます。
「季節はいつも終わりだけ」
「彩(いろ)づけるけれど」
季節は終わりだけを彩ってくれますが、君はいつも僕の人生を彩ってくれていました。
「DON'T SAY GOOD-BYE」
(さよならは言わないよ)
「君だけの夢を刻むのさ」
Bメロで一気に悲しみの淵に立たされます。二人で想い出を彩っていましたが、君と別れる日が来てしまいます。僕は現実が受け入れられずにいて、さよならを言うのを拒否します。でも、必死に言葉を出そうとして、出た言葉が君へのエールでした。
「想い出をつめた少女の 笑顔のままで」
別れるとき、君の切ない顔は見たくないから、最後は笑顔のままで別れようと僕は君に言います。
「駆け出す君の 場面を見守るから」
「輝きながら 明日のドアをあけて」
そして君は新たな一歩を踏み出し、その未来へ向かって駆け出して行きました。その姿もまた、一緒に想い出を作っていたあの頃の君のように、とても輝いていました。そして君は未来への扉を開けるのでした。
作曲は德永さんの曲を作っていた鈴木キサブローさんによるもの。切ないバラードながら、キラキラした瞬間と悲しくどん底のような気分を使い分けた、そのメロディーは聴く人の心をガッチリと掴みます。アレンジは川村栄二さん。ストリングスとキーボードを前面に出した、ポップスとなっています。
この曲はCMソングとなったこともあり、大ヒットとなるのですが、元々シンガー・ソングライター志望の德永さんにとっては、他者が制作した曲だったこともあり、自身で作曲したものでは無かった為、当時は正直、素直に喜べなかったと後に德永さんは話しています。とはいえ、この曲があったからこそ、その後の德永さんのキャリアに大きな変化をもたらすこともありました。德永さんの「明日のドア」をあけた一曲です。