アダルトなシカゴ・ソウル。山下達郎「あまく危険な香り」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日(2/4) は山下達郎さんの誕生日となります。昨年6月の「MY MORNING PLAYER」以降、新規で記事をかいていませんでしたが、約半年ぶりに山下達郎さんの記事を書こうと思います。


本日は山下達郎「あまく危険な香り」(1982年リリース) です。





1980年の「RIDE ON TIME」の大ヒットで大きく変化をもたらすこととなります。1981年には達郎さんの名盤であり、リゾート・ミュージックの決定盤ともいえるアルバム『FOR YOU』のレコーディングが始まります。当初は年内完成予定だったところが大幅に遅延した結果、1982年のリリースにずれ込みます。また、近藤真彦さんのシングル「ハイティーン・ブギ」の作曲・編曲と、フランク永井さんのシングル「WOMAN」の作詞・作曲・編曲・プロデュースといった仕事も重なっており、一気に多忙となります。この時期に制作されたのがこの「あまく危険な香り」でした。

この曲は根津甚八さん・倍賞千恵子さん主演のTBS系ドラマ「あまく危険な香り」の主題歌として書き下ろされました。


「あまく危険な香り」のワンシーン。

このドラマは根津さん演じるトラック運転手・雨宮高志と、倍賞さん演じる亡き夫が経営していた会社の会長を務める小田切悦子の愛憎劇を描いたもので、高志の婚約者で悦子の家政婦をしていた風吹ジュンさん演じる中川信江の不審な交通事故死から、様々な思惑を描きながら高志と悦子の間に愛が生まれるもの…というストーリーとなっています。NHK大河ドラマ「黄金の日日」(1978年) で石川五右衛門、「獅子の時代」(1980年) で伊藤博文を演じ、その甘い顔立ちから女性ファンを集めていた根津さんと、「男はつらいよ」シリーズで車寅次郎の妹・さくらを演じて人気を不動のものにしていた倍賞さんによるドラマで、その他にも1981年に「スローなブギにしてくれ」で注目を浴びた若手の浅野温子さんや、バンド「ザ・ロッカーズ」で活躍していた陣内孝則さん、重鎮の岡田眞澄さんらが出演していました。

シングル「あまく危険な香り」は、このドラマに合わせて書いた曲でしたが、その内容も相まってアダルトな路線だった為、当初は誰かベテランの歌手を招聘して歌ってもらうことを考えていましたが、担当ディレクターが達郎さんが歌うことを勧めたことで、達郎さん自身で歌唱することになりました。

1983年にレコード会社を移籍して以降、アルバム『MELODIES』からは達郎さんの作詞が基本になるまでは吉田美奈子さんの作詞が殆どとなりますが、この曲では珍しく達郎さん自身が作詞を手掛けています。ドラマの内容に沿った、悲しい愛の物語となっています。

あなたの思わせぶりな口づけは
耐え切れぬ程の苦しさ

ふとしたことがキッカケで出逢った男女。あなたが僕に向けるその仕草、そして口づけは僕にとっては憎き相手である以上、それまで大切に想っていた亡き相手に申し訳なく感じるのです。心のなかでかなり苦しみ悩んでいる様子が窺えます。

心は暗がりの 扉の影で
報われぬ愛の予感に震える

そんな暗い心は重く閉ざされた状態ですが、これから起きる愛の予感に、自分の心が揺らぎそうになっています。でもその愛が報われることはありません。

息をひそめた 夜にまぎれて

その愛は、お互いに求め合っていたとしても、報われることはありません。

忘れかけてた 愛の香りよ
いちどは 傷ついたはずの心で
信じ合えるには あまりに悲しすぎる

かつて愛していた女性に向けていた、その「愛」の香りを、今のあなたと触れ合うことで思い出してしまったのです。しかしその香りは「あまく危険な香り」で、その愛の香りは報われぬ愛の予感なので、結ばれる結末にはありません。ただでさえあなたによって傷ついた心なのだから、それでお互いを信じ合えるには、あまりにも難しい話です。

達郎さんが得意とするシカゴ・ソウルのサウンドで、カーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield) の影響を指摘する声もあります。直近の『FOR YOU』が明るく開放的なサウンドに対し、アダルトな大人の音楽を感じさせる仕上がりとなっています。達郎さんはカッティング・ギターは勿論ですが、珍しく間奏のピアノ・ソロも演奏しています。リード・ギターは松木恒秀さん、エレクトリック・ピアノは難波弘之さん、ドラムは青山純さん、ベースは伊藤広規さん、パーカッションは浜口茂外也さんと達郎さんが演奏しています。

落ち着いたストリングスが空間を支配するかのように流れていますが、このストリングスアレンジを担当したのは、バンドのプロデュースを始めたばかりで、後にBOØWY・GLAY・JUDY AND MARYなどのプロデュースをする佐久間正英さんによるアレンジ。佐久間さんが達郎さんの仕事を行ったのはこの曲が最初で最後となっています。

アダルトなシカゴ・ソウル。売上もよく、比較的好評だったといいます。この路線が後の自省的な歌詞に繋がっていったのかもしれません。