早すぎた名曲。ラッツ&スター「Tシャツに口紅」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日はラッツ&スター「Tシャツに口紅」(1983年リリース) です。




1980年に「ランナウェイ」でデビューし、すぐさまミリオンセラーとなってスター街道まっしぐらとなった「シャネルズ」。日本にはまだ馴染みが薄かった「ドゥー・ワップ」というジャンルを普及させた功績は大きく、その後もリリースする作品は全てヒットしてきました。リード・ボーカルの鈴木雅之さんの美声は勿論のことですが、バス・ボーカルの佐藤善雄さんの存在感ありながらも、安定した土台としてのコーラス、リードテナー・ボーカルの久保木博之さんのキレイなハモリとコーラス、そしてテナー・ボーカルで作詞や振り付けなどを行い、シャネルズ人気を集めた田代まさしさんの「黒塗りした4人組」は日本のミュージック・シーンで注目を集めました。

しかしながら、「シャネルズ」というバンド名に対して、某高級ブランドから物言いが付くこともありました。英語のスペル等を変えるなどして活動を継続してきましたが、それでもクレームが来たこともあり、1983年に「ラッツ&スター」に改名します。その一発目のシングルは現在でも親しまれる「め組のひと」で、このシングルが80万枚以上を売り上げる大ヒットとなります。

この波に乗るべく2枚目のシングルとしてリリースされたのがこの「Tシャツに口紅」でした。

シャネルズ時代のシングル作品は、アメリカのオールディーズ風の作品が書ける井上大輔さん(1980年〜1981年初頭は井上忠夫名義) が作曲・編曲を担当し、ヒットさせていました。初期は井上さんと作詞家の湯川れい子さんのコンビが、後期は作詞を田代さん、作曲を雅之さんが担当していました。(一部の作詞は「麻生麗二」名義で売野雅勇さん、作曲はシュガー・ベイブメンバーでギタリストの村松邦男さんが担当) ラッツ&スター改名後の「め組のひと」も「麻生麗二」名義の売野さんと、井上さんが手掛けていました。しかしこの曲はそれまでの作家陣をガラッと変え、作詞を松本隆さん作曲を大瀧詠一さんが担当しました。

元々ラッツ&スターメンバーと大瀧さんはシャネルズデビュー前から懇意にしていた仲で、和製ドゥー・ワップを当初から評価していたのは大瀧さんと山下達郎さんだと言われていました。1980年のレコードデビュー前となる1978年に大瀧さんがリリースしたアルバム『LET'S ONDO AGAIN』に2曲メンバーが参加した曲が収録されています。(名義は「竜ヶ崎宇童(鈴木雅之さんの変名で、宇崎竜童さんの作曲作品に参加した為)」と「モンスター(シャネルズの変名で、参加した曲にまつわる)」) 「め組のひと」も当初は大瀧さんが作曲を手掛ける予定でしたが、大瀧さんがアルバム『EACH TIME』の制作で多忙だったことから、大瀧さんの推薦で井上さんが作曲を手掛けたそうです。そのような経緯もあり、メンバー待望の「大瀧作曲作品」とも言えます。また、松本さんがラッツ&スターに歌詞を書くのも初めてでした。

歌詞は女性との別れを描いたものですが、男性が女性をフるものとなっています。その情感を歌いこなす雅之さんの歌声にウットリしてしまいます。

夜明けだね からへ 色うつろう空
お前を抱きしめて

舞台は夜明け前の港。2人で訪れた静かな港で夜明けを迎えます。ロマンチックな雰囲気となっています。そこで「俺」は「お前」を抱きしめるのです。色が出てくるところはまさに松本さんらしさ溢れる歌詞です。

別れるの?って 真剣に聞くなよ
でも波の音がやけに静かすぎるね

実は「俺」は「お前」に対して別れを切り出していたのでした。「俺」にとってこのデートは最後のデートで、キッパリとケリを付けるためのものでした。「お前」はまだ未練が残っていて「本当に別れるの?」と「俺」に聞いています。普通ならこういう別れ話は真剣になるのは当然でしょうが、「俺」にとっての「お前」はそもそも真剣に向き合って愛を育んでいない存在だったのかもしれません。(もしかしたら数ある女性の中のひとりとかかもしれません) だから「お前」に対して「真剣に聞くなよ」と思ったのでしょう。この真剣な感じと雰囲気も相まって、波の音がやけに静かに聞こえます。

色褪せた Tシャツに口紅
泣かない君が 泣けない俺を見つめる

抱きしめたときに付いた「俺」のTシャツに口紅が。「色褪せたTシャツ」は「お前」への愛情の薄さ、ベッタリ付いた口紅は「俺」への愛情の深さを現したものだと思います。そして「絶対に泣いたら終わりだ」と思って泣かないようにする「お前」と、この別れに何とも思わない「俺」の感情の真逆さがよく出ています。

鴎が驚いたように 埠頭から翔び立つ

鴎が人間の恋模様を見て驚くことは無いとは思いますが、2人の人間がここまで想いの深さが違うものかと思うと、鴎すらビックリするという表現。埠頭から翔び立つのは鴎だけではなく、「俺」と「お前」も新たな想いで翔び立つのかもしれません。

大瀧さんのナイアガラ作品らしく、イントロはイギリスのロックバンド「シャドウズ(The Shadows)」の「Theme of Young Lovers」を模倣したものとなっています。またサビのメロディーは制作中だった大瀧さん自身の『EACH TIME』の収録曲「恋のナックルボール」に転用しています。アレンジは井上鑑さんによるものとなっています。

雅之さんはラッツ時代の作品では特に気に入っている作品ですが、「め組のひと」に比べて売上が10分の1以下だったことで「早すぎた名曲」と評しています。私もラッツ&スター作品では特にこの曲が好きです。大瀧ナイアガラサウンドとラッツのドゥー・ワップの融合を是非。




2016年の大瀧さんのセルフ・カバーアルバム『DEBUT AGAIN』には、編曲も殆ど同じの大瀧さんによる歌唱のバージョンも収録されています。(違うのはコーラスがラッツ&スターメンバーのものではなく、大瀧さんによる一人多重コーラスであるのと、間奏の桑野信義さんによるトランペット・ソロがマリンバのソロになっている)