本日はTMN「Love Train」(1991年リリース) です。
1990年にTM NETWORKからTMNへリニューアルし、それまでのテクノ・ポップ路線からハードロック路線へと移行、ファンの度肝を抜かしました。とはいえ、戦略家的な一面も持つ小室哲哉さんには考えがあってこの路線に移行したと思われます。当時1989年〜1990年頃はバンドが大きく台頭してきた時期で、ハードロックバンドも世間に浸透してきていました。この路線への変更はそうしたマーケットを獲得し、既存のファンのみならず新規のファンを取り込もうと思ったかもしれません。実際のところは1987年に宇都宮隆さんがアメリカで体験したヘヴィメタルのコンサートを観賞した際に大きく影響を受けたことと、同じくして小室さんがガンズ・アンド・ローゼスやモトリー・クルーといったメタルバンドの活躍を目の当たりにし、速いテンポとハードロックの2つのイメージが重なったことから「いつかはTMでこの感覚を音にする」といった動機があったと話しています。そんなハードロック路線となったTMNの最初のアルバム『RHYTHM RED』はいきなりヒットし、衰えぬTM人気を世間に知らしめました。またこの頃から小室さんのソロ活動やプロデュースワークが始まり、TMNの活動と並行して行っていきます。また、当時はまだインディーズで活動していたテクノ・グループの電気グルーヴとのコラボレーションも話題となり、その後の電気グルーヴの躍進にも繋がることとなりました。
年が明けた1991年。4月から新たな作品のレコーディングを開始します。『RHYTHM RED』とはまた異なる作風となるのですが、その第一弾となったのがシングル「Love Train/We love the EARTH」でした。
両曲とも三貴「カメリアダイヤモンド」のCMソングとして書き下ろされ、「We love the EARTH」の方が先に作られて先行でオンエアされました。「We love the EARTH」は「LOVE EARTH 〜勇気の川編〜」で、この「Love Train」は「LOVE EARTH 〜RED ROCK編〜」として使われました。
↑1:35〜「勇気の川編」、2:35〜「RED ROCK編」です。
「Love Train」は『RHYTHM RED』リリースに伴うツアーの終了直後に制作され、レコーディングされています。小室さんはこの曲を作る際に当時かなり普及が進んだカラオケを初めて意識して作ったと話します。タイトルはザ・ビートルズ(The Beetles) の名曲「Day Tripper」から着想を得て、「トリッパー」→「トリップ」→「乗り物の名前」→「トレイン」という連想ゲームのような形で浮かんだそうです。
作詞は小室さん自身によるもの。この曲の作詞に1週間も掛かったそうで、「Train」の前に何を付けるかで悩んだといいます。
「Love Train もどれない」
「このまま君を連れ去って」
この曲はサビからスタートとなります。2人の愛を運んだ列車は突如として駅に停車し、僕だけ降ろされます。ここで2人の愛は終わりを告げ、君だけが列車に乗ったまま、走り去っていきます。
「Love Train あきらめた」
「二人の愛をもう一度」
僕は諦めかけていました。しかしまだ希望は残っていると見つめ直し、もう一度2人の愛を取り戻そうと決めます。
「Love Train おそすぎた」
「誘惑に君はふるえて」
一方の車内。君は他の男性からの誘惑を一身に浴びます。この誘惑に惑わされたい、けれどもどこかで拒否しようとしている。そんな葛藤を感じます。「ふるえて」は怖いという震えよりも、心の中の葛藤を表したものなのだと思います。
「くちづけの後」
「こらえきれず涙あふれる」
結局君は男性に体を許してしまい、口づけを交わすこととなりますが、やはり心はまだ僕のことを想っているのか、後悔の涙なのか、あるいはもっと愛されたかったと言う寂しさや切なさを秘めた涙なのか。僕も君も未練を感じます。
作曲・編曲は小室さんで、前述したようにカラオケで歌えるようなメロディーにすることを心掛けて制作したといいます。『RHYTHM RED』でも大々的に使ったシンクラヴィアは、本作でも活躍していますが、ハードロック路線から離れ、打ち込みドラム・ベースとポップなシンセサイザーを用いており、TM NETWORK時代への回帰を図ったテクノ・ポップサウンドで構成されています。基本的には小室さんとシンクラヴィアのオペレーター、そして葛城哲哉さんによるエレクトリック・ギターで演奏されています。イントロからディストーションを効かせたギターフレーズは葛城さんが考案したもので、『RHYTHM RED』のハードロックさも残しつつ、ポップさを体現したサウンドとなっています。このギターフレーズは、「Love Train」から「踏切の遮断機」をイメージしたといいます。またド頭のシンセサイザーは、この1991年に大ヒットした小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」のギターフレーズを意識したものだそうです。
TMへの回帰を目指した作品ともいうべき作品。TMNの代表的な作品として今も愛されています。
このMVには東京パフォーマンスドールが出演していますが、そのメンバーだった若き日の篠原涼子さんが出演しています。また、小室さんの当時の愛車が映ったり、木根尚登さんがサングラスではなくメガネを装着している姿が見れます。
追記:TM NETWORK関連の記事が増えましたので、TM NETWORK、メンバーの記事は「TM NETWORK・小室哲哉関連」というテーマにします。過去の記事もこちらに集約しました。