本日は安全地帯「ワインレッドの心」(1983年リリース) です。
1982年に「萠黄色のスナップ」でデビューを果たした安全地帯でしたが、デビューシングルの「萠黄色のスナップ」、2枚目の「オン・マイ・ウェイ」、3枚目の「ラスベガス・タイフーン」は全て売上が良くなく、安全地帯の知名度も上がらない状態でした。シンガー・ソングライターの井上陽水さんのバックバンドを行うなど、売れる前には様々な仕事も行った安全地帯でしたが、ここまで売れない状態を危惧したレコード会社、そして音楽プロデュースを任されていたアレンジャーの星勝さんは、ボーカルでソング・ライティングを一手に担っていた玉置浩二さんに、「陽水さんに曲を書いてもらうのはどうか」と提案します。しかし、自分たちで手掛けた曲で勝負をしたかった玉置さんはこの要求を断り、「曲は俺が作る。それができないのなら (郷里の) 北海道に帰ります」と言い放つほど、自作でのオリジナルソングに拘りました。とはいえ、プロデューサーやレコード会社からヒット曲を嘱望されたことから、確実にヒット曲を生み出さなくてはならない状況に陥った玉置さん。本来の安全地帯の路線はアメリカのロックバンド「ドゥービー・ブラザーズ」のような音楽性を目指していたのですが、玉置さんは多くの人が聴けるような「歌謡曲っぽい売れそうな曲」を制作することになります。こうして出来上がった曲の一つがこの「ワインレッドの心」で、さらに同時に「恋の予感」「碧い瞳のエリス」「プルシアンブルーの肖像」といった後の作品の原型となる曲も制作していたといいます。
この曲はサントリー「赤玉パンチ」のCMソングに起用されました。
歌詞は陽水さんによるもの。元々陽水さんに依頼する前に何人かの作詞家に詞をお願いしていたそうですが、最終的には陽水さんに依頼し、完成形の歌詞に至ったといいます。とはいえ、陽水さんも歌詞を3度ほど書き直しており、作詞用のノートがこの曲で1冊分使い切る程、推敲に推敲を重ねたものとなりました。
歌詞は大人の夜の恋を描いたものです。
「もっと勝手に恋したり」
「もっとKissを楽しんだり」
子供や学生の時のような甘酸っぱいだけが恋ではありません。大人になればもっと自由気ままに恋をしたっていいし、何度もキスをしたっていいのです。何事も楽しむことが大人の振る舞いなのかもしれません。
「忘れそうな想い出を そっと抱いているより」
「忘れてしまえば」
ちょっとやそっとの一夜限りの恋を想い出にするのではなく、出会う限りは忘れて新しい恋をしたほうがいい、と言っています。
「今以上、それ以上、愛されるのに」
「あなたのその透き通った 瞳のままで」
有名なサビのフレーズですが、本気で惚れた女性には「恋」ではなく「愛」へと大きな想いに変わっていきます。「あなたの透き通った瞳」を見て、大きく感情が変わったように思います。
「あの消えそうに 燃えそうなワインレッドの」
「心を持つあなたの願いが かなうのに」
「ワインレッド」という色は、とても情熱的な色をしていて、熱く燃えるものを秘めていますが、どこか読めないという印象を抱きます。(個人的にですが) 出会った女性はまさに燃える心を秘めていながらも、どういう感情を持ち合わせているのが解りにくい気がします。僕と打ち解けたら、あなたの願いを叶えてあげるのに、と言っているように思います。
前述の通り、歌謡曲をベースにしたメロディーであることから、耳に馴染むサウンドになっています。ギター担当の矢萩渉さんも、最初に玉置さんからこのメロディーを聴かされた際、「それまでの曲と全然違っていた」と話すほど、売れ線系のメロディーだったと話しています。また星さんも「本人(玉置さん) にとってはやりたい路線ではなかったかもしれないが、玉置には色んなタイプの曲も書ける才能があるなと思った」と話すほどコンポーザーとしての玉置さんの才能も高く評価しています。色んな作風の曲を書くという点では、後の安全地帯や玉置さんソロの曲、そして中森明菜さんや斉藤由貴さんへの提供曲などへ繋がっていきます。アレンジは安全地帯と星さんによるもので、歌謡曲風味のサウンドにロックテイストを加えたものとなっています。特に矢萩さんのエレクトリック・ギターがほぼ全てに渡ってリードしており、イントロのフレーズや間奏のギター・ソロではその高い演奏技術を余すこと無く披露しています。
この曲がCMソングになったこともあり、安全地帯として初のヒット曲となり、オリコン1位を獲得しました。大人の燃えるような恋、そしてアダルトでムーディーな雰囲気を味わいたい珠玉の1曲だと思います。