甘酸っぱい夏の青春。Mr.Children「君がいた夏」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日はMr.Children「君がいた夏」(1992年リリース、アルバム『EVERYTHING』収録、同年シングルカット) です。




Mr.Childrenの始まりは、桜井和寿さん・田原健一さん・中川敬輔さんが同じ高校で、軽音楽部に所属していた3人と別のドラマー、キーボーディストと組んだ5人組バンドから始まります。このバンドは後に「THE WALLS」となり、高校を卒業した彼らは本格的にプロを目指すようになります。しかし、レコード会社のコンクールの最終審査を目前にしてドラマーが脱退してしまい、窮地に陥りますが、田原さん・中川さんと中学時代に同級生だった鈴木英哉さんに白羽の矢を立て、バンドに誘います。結果的にコンクールには落選しますが、後日正式に加入し、現在の4人組バンドになり、1989年には現在の「Mr.Children」にバンド名を改名します。

その後は東京都内のライブハウスを中心にライブ活動しますが、たまたまライブを観に来ていた音楽プロデューサーの小林武史さんが彼らの演奏に目を留めたことから、メジャーレーベルでのデビューの話が舞い込み、同時に共同編曲・プロデュースとして小林さんが関与することとなり、1991年にデビューアルバムのレコーディングを開始し、1992年にプロデビューを果たすこととなります。小林さんは当時大貫妙子さん・小泉今日子さん・サザンオールスターズのアレンジャー・プロデュースを行っていましたが、全く1からの状態のバンドを手掛けるのは初めてで、本人も興味や挑戦のような状態でMr.Childrenのプロデュースを始めることとなります。

デビューアルバム『EVERYTHING』は、アルバム単体でのデビュー+ミニ・アルバム形式による異例のデビューでした。これはアマチュア時代の曲をプロになったことで、正式にレコーディングして音源にしたものだからでした。その為、1990年代にはよく見られた桜井さんと小林さんによる共作は存在せず、全曲桜井さんが単独で作詞・作曲をしています。1991年12月〜1992年1月の僅か1ヶ月間でレコーディングされており、アレンジの土台となるプリプロダクションは、桜井さんが小林さんの自宅にデモ音源を持ち寄って、話し合ったといいます。また、小林さんはこの時期にはサザンのアルバム『世に万葉の花が咲くなり』のレコーディングにも全面的に関わっていたこともあり、かなり多忙な中でMr.Childrenのアルバムも制作していました。また、基本的なアレンジはアマチュア時代のものをベースにしつつ、小林さんによってアレンジが加えられ、中にはストリングスアレンジが施されたものがありました。但し、生のストリングスは予算オーバーになるため、キーボードやプログラミングで代用していました。(これは後のミスチル・サザンの作品にも使われる小林さんの手法でした) 

そんな大変な中で完成したデビューアルバムが『EVERYTHING』で、その中の1曲がこの「君がいた夏」でした。そして、この曲は1992年夏にMr.Childrenの記念すべき1st.シングルとしてシングルカットされることになります。

タイトルはアメリカで1988年に公開された青春映画「君がいた夏」(Stealing Home) をそのまま拝借したもので、アマチュア時代は「夏が終わる」というタイトルでした。

この曲のテーマはそのまま「君と一緒に過ごした夏の終わりを迎えるせつなさ」で、桜井さんが幼少期から親しんでいた山形・鶴岡市の湯野浜が舞台となっています。


湯野浜。後ろの建物はホテル・旅館群で温泉地としても有名。

この湯野浜が年々賑わいが減ってしまい、気付けばみんな居なくなっており、その寂しさと浜辺の景色が印象的だったことから作られた作品でした。とはいえ、桜井さんはリリース当時はまだ22歳とかなり若く、後の作品とは異なり、若いなりの甘酸っぱい恋をこの曲のテーマに加えており、「青い」桜井さんの若々しい歌詞が特徴的な曲です。以降の作品は小林さんによるアドバイスや桜井さんの意識の変化もあり、このような甘い作品はほぼ見られません。

夕暮れの海に ほほを染めた君が
誰よりも何よりも 一番好きだった

いきなりストレートな歌詞を投げていますが、これもまた若いなりの表現方法。夕暮れの海を見ながら、ほほを染めたように見えた君が好きだったという、ロマンチックな歌詞です。

二人していつも あの海を見てたね
日に焼けた お互いの肩もたれたまま

特別な想いが乗った海。夏が来るたびに君と一緒に見る海が好きでした。日に焼けるくらい長く、そして肩もたれたまま永く寄り添っていました。

一日中笑ってた
キリンぐらい首を 長くしてずっと
待っていたのが まるで夢のように

他愛も無い話で盛り上がったりして一日中浜辺で笑い合う2人。僕はこの夏、君に逢えるのが楽しみで、ずっと待っていましたが、一日中一緒にいれることが夢のような状態だといいます。

また夏が終わる もうさよならだね
時は二人を引き離して行く

時は無情なもので、一日中笑い合って海を見ていた二人は、夏の終わりとともに引き離されてしまいます。

おもちゃの時計の針を戻しても何も変わらない
Oh I will miss you
  (君と離れるのが寂しい)

「おもちゃ」というのが、若い思春期の青春を謳歌する年代なのだろうな、と感じさせます。大人であれば腕時計とかになりますからね。時計の針を戻しても元に戻るわけでは無く、ただただ離れる現実を受け止めなければならない虚しさを感じます。そして最後にストレートに「離れるのが寂しい」と君に言ったのでした。

後のMr.Childrenの作品と比べるとやはり爽やかなポップスを印象付けるサウンドメイクとなっており、初期ミスチルの方向性があまり定まっていないようにも感じます。桜井さんも小林さんも模索していた時期だったのでしょう。大きな起伏もあまりありませんが、ポップスとしての完成度は高いです。桜井さんのアコースティック・ギター、田原さんのエレクトリック・ギターは共にロックぽさは皆無で、まさしくJ-POPの音色を感じさせます。イントロ・アウトロのギターソロは田原さんによるスライド・ギターとなっています。中川さんのベース、鈴木さんのドラムも淡々と演奏されています。ピアノやキーボードは小林さんが一手に担っています。

この曲が、伝説的なバンドのはじまり。甘酸っぱい夏の終わりを描いたポップな曲がMr.Childrenのはじめの一歩でした。