春の恋の予感。大瀧詠一「恋するふたり」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日は大瀧詠一「恋するふたり」(2003年リリース) です。





長い自身の新譜制作が途絶えていた大瀧さんですが、12年ぶりに制作・リリースされた新曲「幸せな結末」は、木村拓哉さん主演のフジテレビ系ドラマ「ラブジェネレーション」の主題歌となり、当時の「月9」人気、木村さん人気、そして当時のポップス界では小室哲哉さんプロデュースに終息の気配が見られ、こういった大人の上質な曲が再び人気となっていたこともあり、大瀧さんの作品で一番の売上を記録し、ミリオンセラーに近い売上となりました。大瀧さんの動向が再び注目されますが、コンスタントな発表は結果的に無く、1990年代の発表はこの「幸せな結末」のみで終わり、再びラジオ番組へのゲスト出演や、『A LONG VACATION』『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』などの過去の旧譜のリマスタリング、音源復刻監修を行うようになります。また、度々ラジオ番組で語っていた「ポップス史」の研究も継続して行われていました。

とはいえ、山下達郎さんなどの以前からの仲間からは新作を嘱望されることも多かったのですが、大瀧さん自身はのらりくらりとかわして、はぐらかしたりしていました。

そして6年の時が経って2003年、再び大瀧さんが動きだし、またしても「月9」ドラマの主題歌の制作を行いました。それがこの「恋するふたり」でした。

この曲は江口洋介さん主演のフジテレビ系ドラマ「東京ラブ・シネマ」の主題歌として書き下ろされました。


制作発表時。江口洋介さんとヒロインの財前直見さん。

当時の「月9」らしいラブコメディのドラマとなっており、タイトルの「シネマ」とあるように映画業界の配給会社を舞台にした作品でした。百貨店勤務から、小さな映画配給会社を設立した高杉真先(江口さん) の夢は、自分が買い付けた映画で人を幸せな気持ちにさせることで、映画を見ると熱くなる男でした。とはいえ、タイの映画が一度ヒットしただけで、自転車操業の状態で倒産危機にある真先の会社。真先の後輩で副社長の千葉吉成(宮迫博之さん) 、社員の日向暎二(玉山鉄二さん) と共に頭を悩ませます。恋は後回しにしてきた人生でしたが、大手映画配給会社のバイヤー・卯月晴子(財前直見さん) と出会ったことで、大きく運命が動き出します。

6年ぶりの新作でしたが、「幸せな結末」同様に、作詞は「多幸福(おおのこうふく)」という名義で、大瀧さんとドラマスタッフによる変名で手掛けられ、アレンジも井上鑑さんに一任する形となり、大瀧さんは作曲のみを担当しました。

春はいつでも トキメキの夜明け
奏でるメロディー 恋の予感響かせ

春は出会いの季節。ここで運命の相手と出会うかもしれません。そんなときめいた季節に聴く好きな曲。ワクワクとドキドキで胸が高鳴ります。恋の予感を感じさせます。

Boy meets girl  Girl meets boy
青い空の下で 奇跡のようにめぐり逢う

男性は女性に出逢い、女性は男性に出逢います。春の清々しい陽気の下、運命の恋が始まろうとしていました。

甘い君のささやきに
忘れかけた 淡い記憶 色づいていく

ふと君にささやかれると、それまで忘れかけていた青春や恋の想い出が蘇ってきました。ドラマの内容ともリンクしており、真先も晴子も、仕事と映画が優先で恋は後回し、気付けば年を重ねて30代になっていました。そんなふたりが出逢ったことで、忘れていた恋の感触を思いだしていくのです。

虹の彼方に 映し出す物語
映画みたいに ステキな夢を見る

ドラマとリンクさせた「映画」の文字ですが、上手い具合に溶け込んでおり、違和感を感じさせません。ラブロマンスのような恋を、夢では無く現実でこれから創り出していこうとしています。

揺れてふいにふれた 指先が
胸の鼓動隠し 小さくふるえてる

電車に乗った時か観覧車に乗った時か、様々な場面で揺れることがありますが、そんなときに意図しないのに指先が触れて、ドキドキすることがあります。胸は高鳴りますが、ドキドキしているところを隠そうとしますが、体は小さく小刻みに震えています。

Boy meets girl  Girl meets boy
恋するふたり
誘われた心に さらわれていく季節

運命の出逢いから恋を楽しむふたり。春はそんな奇跡を起こす季節でした。

大瀧さんの一連のナイアガラ作品と同様、過去の作品や、洋楽からのオマージュが含まれているのが特徴です。仮タイトルが「春立ちぬ」としていたことからもわかりますが、ベースのアレンジは過去に曲提供した松田聖子さんの「風立ちぬ」を元にしているほか、Jimmy Clantonの「Venus in blue jeans」やFrankie Avalon「Togetherness」などの曲を下敷きにしていると思われます。そしてナイアガラ作品に通ずる「壮大なアレンジ」もこの曲には施されています。ドラムは旧友の林立夫さんが参加しています。ベースはナイアガラ作品常連の長岡道夫さんが参加していると思われます。(『EACH TIME』以降は長岡さんのみがベースを弾いているため) キーボードもアレンジャーの井上さんが参加していると思われます。

しかしながら、この曲はドラマ自体が評判にならなかったこともあり、結果的に売上も著しくありませんでした。そして、この曲以降、大瀧さんは新作を書くことが無く、2013年に大瀧さんが逝去されたことで、生前最後の作品となってしまいました。

トキメキの季節に「恋するふたり」。それは忘れかけていた記憶を呼び起こすように、楽しんでいる姿を映した、春の素敵な様子を描いた大瀧さんの魂を込めた曲なのです。



そしてこちらは「Title Back Version」となっており、ドラマのオープニングに使われたものです。ミックスと大瀧さんの歌唱のテイクが製品版と異なります。レコーディングにいかに手こずったのかが窺えます。解りやすい点としては、製品版には無い「手拍子」があるのがこの「Title Back Version」です。




そしてこちらは2020年にリリースされたアルバム『Happy Ending』に収録されたアルバムバージョン。下敷きにしてるミックスは「Title Back Version」で、手拍子が復活しています。そして最後には「ネタ」として、大瀧さんの曲「FUN×4」で締めています。