朝ドラと松本隆。山下達郎「DREAMING GIRL」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日はもう1本。2本目は山下達郎「DREAMING GIRL」(1996年リリース) です。



元々ビーチ・ボーイズを始めとした洋楽ばかりを聴いていた達郎さんは、作曲・編曲・ギター演奏・コーラスなどは洋楽の影響を受けている部分もありましたが、作詞に関しては旧来の「文字コンプレックス」ということもあり、特に作詞に関しては影響を受けたミュージシャンが居ないため、「辛い作業」であることを吐露しています。ソロ初期は吉田美奈子さんの歌詞に助けられた部分も多く、自身の作詞は「パレード」「2000トンの雨 (2000t OF RAIN)」「RIDE ON TIME」「LOVELAND, ISLAND」など、限られた数でした。1983年にレコード会社を移籍し、作風を内省的でシンガー・ソングライター的なものに移行してからは自身の作詞に完全に変わりました。作詞家と比べて「詞が弱い」といった評価を受けたこともあったそうですが、自分なりの歌世界を構築していった結果、「高気圧ガール」「クリスマス・イブ」「風の回廊」「GET BACK IN LOVE」「僕の中の少年」「さよなら夏の日」などなど、数多くの名曲を世に送り出してきました。とはいえ、シンガー・ソングライターとして、セルフ・プロデュースするなかで一番辛いのが作詞で、「詞さえ無ければこの世は天国」とまでいい放っていました。

スタジオの閉鎖もあり、満足するような環境で制作出来なくなっていた中でリリースされた1995年のベスト・アルバム『TREASURES』は、1983年のレコード会社移籍以降の作品をまとめたものでしたが、これが大ヒットし、アルバム唯一のミリオンセラーとなりました。この頃にコンスタントに制作する上で、作詞を全て自分で行うことは難しいと考えた達郎さんは、作詞家を招聘することになりました。男性が書いた詞を歌いたかったとのことで、数多くいる男性作詞家から達郎さんが選んだのは、多くの歌謡曲の歌詞を手掛けた名作詞家・松本隆さんでした。


松本隆さん。

この頃の松本さんは1980年代の多忙による疲弊もあり、1989年から作詞活動を大幅に縮小し、自由に暮らしていました。この1995年頃から本格的に作詞家としての活動を再び始める頃に、達郎さんからのオファーがあり、詞を書いたそうです。また、このちょっと後には、大ヒット作となるKinKi Kidsのデビューシングル「硝子の少年」を達郎さんとのコンビで手掛けることになります。

こうして「松本隆×山下達郎」のタッグで制作した最初の山下達郎作品が、この「DREAMING GIRL」でした。

この曲は松嶋菜々子さん主演のNHK連続テレビ小説「ひまわり」の主題歌として書き下ろされました。


「ひまわり」のワンシーン。

「ひまわり」は井上由美子氏のオリジナル脚本で、バブル景気崩壊の直前に食品メーカーに勤務する南田のぞみ(松嶋さん) が、結婚して家庭と仕事を両立しようとするものの、上層部の思惑で左遷され辞職、職を探す課程で、弟が窃盗事件を起こします。そして頼り甲斐のある弁護士・赤松元基(奥田瑛二さん) と出会い、事件を解決に導いたことで弁護士の道を志し、司法試験・司法修習生を経て、一人前の弁護士に成長していく姿を描いたドラマでした。松嶋さんはこれまでドラマへの出演経験はあるもののさほど話題になることなく、1995年のテレビCM出演と、フジテレビ系「とんねるずのみなさんのおかげです」での (今では絶対に流せないような) コントが話題になっていました。この朝ドラは2000人が参加したオーディションで抜擢され、松嶋さんの代表作となりました。以降多くのドラマに出演していくことになります。共演者も夏木マリさん、三宅裕司さん、川島なお美さん、上川隆也さん、浅野ゆう子さん、寺脇康文さん、蟹江敬三さん、藤村志保さん、奥田瑛二さんといった名だたる名優が出演し、南田家の飼い犬兼語りで萩本欽一さんが声を充てていました。達郎さんは、レコーディングやライブで共にするキーボーディストの難波弘之さんと共に劇中の音楽も担当し、主に難波さんが書き下ろしで作曲を担当し、数人のミュージシャンと共にアレンジを手掛け、達郎さんは過去の作品が使われていたことから、音楽担当としてクレジットされているものと思われます。(主題歌の「DREAMING GIRL」以外にも「あしおと」「メリー・ゴー・ラウンド」「寒い夏」などが使われている) 

そんな朝ドラの書き下ろし曲でしたが、松本さんの歌詞は詞の世界観が完全に出来上がっており、やはりスゴい作詞家だなと改めて思いました。

君が跳んだ水たまりへと
街の翳(かげ)が雪崩れてゆくよ

非常に文学的な言葉から始まるこの曲ですが、恐らく達郎さんの作詞だと出てこないような歌詞。「水たまり」があることから恐らく雨が降っているか上がった後の描写。少女が水たまりを跳んでいる姿は、まさに松嶋さん演じる「南田のぞみ」で、これからステップアップしていこうとしている姿。「街の翳」はそこまでの後ろ向きで暗い過去を現しており、「雪崩れてゆく」のはその過去との訣別を意味してるのではないかと思います。

不意に微笑(わら)う ただそれだけで
胸の棘(とげ)が抜ける気がする

ハツラツとした前向きに生きていこうとする少女を見ると、どこか胸に引っ掛かりがあった自分が、スッと無くなるような気がしているみたいです。

手のひらの上に 太陽を乗せて
心の暗がり 照らし出しておくれ

それでもどこか後ろ向きになっている自分。暗い自分に灯りを点してくれないか、と少女に言っています。存在がまるで太陽みたいな少女の明るさがよく伝わります。

Dreaming Girl Dreaming Girl
雨上がりの少女

夢を見続け、その夢に向かう少女。その姿は雨上がりの虹のような存在でした。

Dreaming Girl 君と めぐり逢えた素敵な奇跡

心に灯りを点してくれる、そんな明るい少女に心を惹かれる自分。このめぐり逢いはまさに奇跡だと話します。

『ARTISAN』の時期は打ち込みが大半だった達郎さんの曲ですが、この曲では久々に生バンドによるサウンドを構築しており、またストリングスも達郎さんによるアレンジとなっています。ドラム・青山純さん、ベース・伊藤広規さん、ピアノ・難波さんという布陣は変わりなく、安定のサウンドとなっています。アコースティック・ギターは達郎さんのレコーディングに初参加となるギタリスト・佐橋佳幸さんが達郎さんと共に演奏しています。エレクトリック・ギター、キーボード、タンバリンは達郎さんによる演奏となっています。

リリースから2年後、アルバム『COZY』にも収録されていますが、達郎さんはアルバム内で一番気に入っている曲だと話します。また、松本さんからも「NHKの朝のドラマにお前が合うわけ無い」と言われたそうですが、「曲は完璧」と高評価していました。残念ながら売上は良くなかったですが、朝ドラ主題歌の中では1,2を争う名曲だと思っています。