大人の別離。小川知子・谷村新司「忘れていいの -愛の幕切れ-」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日は小川知子・谷村新司「忘れていいの -愛の幕切れ-」(1984年リリース) です。




フォーク・バンド「アリス」のリーダーとして活躍していた谷村さんは、アリスの活動時からソロ活動を始めます。(同じアリスの一員の堀内孝雄さんよりも早い) ソロで注目を集めたのは、山口百恵さんに提供した1978年のシングル「いい日旅立ち」の大ヒットでした。フォーク・ニューミュージック・ロックの印象の強いアリスですが、その世界観とは異なり、歌謡曲にシフトチェンジした独自の音楽は、1980年に「昴 -すばる-」のヒットにより確立させます。しかし、そんな順風満帆な谷村さんの活動とは真逆に、堀内さんはそんな谷村さんの活動に嫉妬を抱きます。先にも述べた提供曲のヒット、ソロでのヒット、そしてアリスの曲では「谷村さん作詞、堀内さん作曲」というパワーバランスで保たれており、ヒット曲の多くも大半がそういった作品が多かった (「冬の稲妻」「ジョニーの子守唄」「秋止符」「狂った果実」など) のに対し、アリス最大のヒット曲が谷村さん作詞・作曲の「チャンピオン」であったことなど、堀内さんがアリスでの立ち位置に悩んでいたことも、谷村さんへの嫉妬に繋がりました。こうした経緯からアリスは1981年11月で「活動休止」に至ります。

1982年にソロ活動を再開すると、ハイペースで曲を作り、発表していきます。1980年代は年に1枚は必ずアルバムをリリースし、1982年・1984年・1985年は年に2枚のアルバムをリリースするほどの勢いでした。そんな中で1984年に発表したのが、この「忘れていいの -愛の幕切れ-」でした。

そもそもこの曲自体は谷村さんのアルバム『抱擁 -SATIN ROSE-』(1984年リリース) の収録曲の1曲「忘れていいの」という曲が元となっています。この「忘れていいの」のBメロの歌詞を書き換え、アレンジャーを変更してデュエットソングにしたものが、この「忘れていいの -愛の幕切れ-」になりました。谷村さんがTBS系ドラマ「金曜日の妻たちへ」を見たことがこの曲を作るヒントとなり、「金曜日の妻たちへ」に出演していた女優の小川知子さんが、以前歌手活動もされていたことも含めてオファーしたところ、小川さんが快諾したことでこのデュエットが実現しました。

歌詞は谷村さんによる、男女の別離の悲哀を描いたものです。対話になるような部分もあります。

忘れていいのよ 私のことなど
一人で生きるすべなら知っている 悲しいけれど この年なら

女性は男性に優しく語りかけるところから、この歌の物語は始まります。別れる2人ですが、女性は「私のことは忘れていいのよ」と諭すように語り掛けています。この物語の男女は2人とも妙齢のようで、「この年から」と自ら言っているように、ある程度年を重ねて独り身なら、一人で生きていても大丈夫なのよ、と自嘲的に話しています。

もういいわ もういいわ おこりはしないわ

「もういいわ」を繰り返して話すことから、どこか諦めがついたような状況にも感じます。どうやら男性側に非があるような別れ方のようで、散々男性のことを怒ってきたのでしょう。でももう怒り疲れて呆れた様子が、この「もういいわ」に込められているように思います。

不思議ね 別れの予感を感じてた 心の中で少しづつ

男性に怒ることに疲れを感じていた頃から、徐々に女性の中では「別れ」というものが心の中で意識するようになってきていたのかもしれません。

甘い夢 見ていた二人に 不意に訪れた 悲しい愛の幕切れ

男性は何処かで2人は結ばれると思っていたようです。しかし、女性の堪忍袋が切れた今では
それは単なる甘い夢に過ぎず、悲しい幕切れになってしまう現実に戸惑いを感じています。

笑って見送る 私は平気よ
貴方を乗せたこのバスが 見えなくなるまでは 笑っている

悲しい別れですが、何とか平静を装って、明るく別れを告げようと努めています。バスに乗っていく男性を見送り、見えなくなるまでは笑顔でいようという、女性の強い気概を感じます。その一方で、バスが見えなくなり、1人になったら悲しさで泣くかもしれないという、何処か寂しさと切なさを秘めた、違う女性の一面も感じます。

見つめていないで 背を向けていいのよ

別れが名残惜しいのか、女性の顔を見つめる男性。そんな男性にそっと背中を押そうと声を掛けます。

上着の襟が立ってるわ
自分でちゃんと直すのよ 今日からは

今までは男性に尽くしていた女性。いつも上着の襟を立っていたところを直していました。しかし、別れる今日からは直してくれる女性は居ません。ちゃんと自分で直すのよと男性に言い聞かせて、最後に襟を直してあげている光景が目に浮かびます。

指先の冷たい女は 臆病者だから 一人じゃ生きていけない

そんな襟を直す女性の指先が冷たく感じた男性。「指先の冷たい女性は臆病者」という言葉を思いだし、本当は1人で生きていけないでしょ、と自分の大切さを最後に吐き捨てるように話しています。

手を振る貴方に」《さよなら
心は乱れる」《愛した人よ
どうかあなた」《どうか
どうかあなた」《あなた

行かないで 行かないで

バスに乗り込む男性。女性に手を振り「さよなら」と呟く男性。その姿を見た途端に、さよならを決めていて笑って見送ることまで決意していた女性の心が揺れ動きます。本当は別れたくない、そんな想いが強くなり、「行かないで! 行かないで!!」と男性に対して思いの丈を叫んでいます。

遠ざかる愛が消えていく
涙あふれても逃げない バスが行くまで

結局、男性が乗り込んだバスは女性の元から離れて走り去って行きます。元々遠ざかっていた愛が、バスが見えなくなったらその愛は消えます。未練とも思える「行かないで!」と叫んでいた女性も、バスが走り去る現実を目の当たりにすると、最後は気丈にしようと、バスが見えなくなるまでは見送ることを決意します。

ピアノ・ストリングスをメインにした歌謡バラードで、アレンジャーの馬飼野康二さんがアレンジを担当しました。シンプルなアレンジながらも悲哀を感じるアレンジに仕上がっています。多くは小川さんの歌唱となっていますが、とても上手いです。女優としての経験値から出る表現力は谷村さんの歌唱を食いそうになるほど。最後のサビはハモりも披露しており、オールマイティーの歌唱力となっています。

そしてこの曲の最大の話題は、最後のサビで谷村さんが小川さんの胸元に直で手を入れるという演出でした。この演出は小川さんと谷村さんの2人で決めたもので、胸元が開いたドレスを衣装に選んだ小川さんを見た谷村さんが「手を入れたくなっちゃう衣装だね」と発言。それを「いいわよ」と返したことで生まれたものでした。歌番組でもこの演出を取り入れ、これが大反響となったことでこの曲がヒットしたとも言われています。

大人の酸いも甘いも経験した2人の別離。デュエット曲で一番、ムーディーかもしれません。



当時の歌番組から。思い切り手入れてます。





ちなみに、このデュエット曲は谷村さんが音楽番組に出演すると、近年は小川さん以外の方と一緒に歌うことが多いです。ここではYouTubeに上がっている、他の方とのデュエットも。

まずは岩崎宏美さんとのデュエット。岩崎さんが艶っぽく歌っています。これはこれで好きです。あと、この動画の冒頭でトークしていますが、どんだけ谷村さん胸に手に入れたいの・・・(笑)




続いては大地真央さん。宝塚譲りの歌唱力、そして美貌。さすがです。今では歌声を披露することが無いので、ある意味貴重な動画です。




そして都はるみさん。キーは原曲と違いますが、こちらも味わい深い歌唱を聴けます。


番外編。こちらは小川さんとものまねタレントの岩本恭生さんによるもの。日本テレビ系で放送されていた「ものまねバトル」で、岩本さんが谷村さんに扮したもので、デュエット相手はアジャ・コングさん。歌い終わった後に小川さんがご本人登場で岩本さんと歌っています。その際に、胸に手を入れる演出も行っています。



そして最後は、デュエットの元になった谷村さん1人の「忘れていいの」。アレンジは服部克久さんによるものです。