懐かしいメロディ。原由子「涙の天使に微笑みを」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日はもう1本。原由子「涙の天使に微笑みを」(1997年リリース) です。




1991年までは断続的にソロ活動を行うなど、サザンオールスターズと並行して活動してきましたが、1991年のシングル「負けるな女の子!」のリリース後はソロ活動が無くなり、音楽活動はサザン1本のみに絞られます。(とはいえ、サザンのアルバム『世に万葉の花が咲くなり』『Young Love』にはそれぞれ1曲ずつ、原さんのボーカル曲が収録されています)

しかし、1997年に突如としてソロ活動を6年ぶりに再開させます。サザンの活動真っ最中でしたが、10月に香取慎吾さんとコラボレーションした「みんないい子」をリリースし、その1ヶ月後にこの「涙の天使に微笑みを」をリリースします。

この曲は佐藤夕美子さん主演のNHK総合連続テレビ小説「甘辛しゃん」の主題歌として書き下ろされました。このドラマは平成9年度下期の朝ドラに当たるため、大阪放送局の制作となっています。


「甘辛しゃん」のワンシーン。中央がヒロインの佐藤夕美子さん、右は岡田義徳さん。

「甘辛しゃん」は、兵庫・神戸市を舞台にした物語で、元々は母子家庭で暮らしていた神沢泉とその母・ふみですが、ふみが住み込みで働いていた造り酒屋「榊酒蔵」の当主だった榊信太郎はふみに惚れて再婚、榊姓となった泉とふみが、「榊酒蔵」で過ごす家族の物語と、信太郎亡き後、亡き実父の夢と信太郎の遺志を継いで、造り酒屋の女性当主として懸命に頑張る泉の姿、そして純米吟醸酒を作り上げていく姿を描いた作品でした。途中には信太郎の実の息子で、泉の義理の弟にあたる拓也との許されぬ恋を描く場面もあるなど、異色の作風となったことや、朝ドラで初めて直接的に阪神・淡路大震災を取り上げたことも話題になりました。ヒロインの榊泉に選ばれたのは当時芸能活動を休止していた佐藤夕美子さんで、1863人が参加したヒロインのオーディションから選ばれてヒロインの座を射止めました。母のふみは樋口可南子さん、義父となる酒屋当主の信太郎は風間杜夫さん、義理の弟・拓也を岡田義徳さん、そして信太郎の父で元々当主を務め、泉の酒職人となる為の教えをする庄一郎を植木等さんが演じました。最高視聴率は30.0%を記録し大ヒット作品となりました。

そんな朝ドラの主題歌を担当したのが原さん。2017年に桑田佳祐さんが「ひよっこ」で主題歌を担当する20年も前に、朝ドラ主題歌に抜擢されていたのでした。桑田さんは「ひよっこ」の主題歌「若い広場」で初めて朝ドラに曲を提供したと報じられましたが、実際には、この「涙の天使に微笑みを」が、桑田さんが作詞・作曲・編曲を担当し書き下ろしている為、この曲が初の提供曲となります。

歌詞は桑田さんが作詞した、ドラマのストーリーに沿った切なくも希望を見出だすような、女性の心境を描いた歌詞です。

結えない髪を濡らすは雨
One Way Lover 夜明けはBlue...

「One Way Lover」は片想いを意味します。中々振り向いてくれない、見向きもしてくれない。そんな相手のようです。そんなブルーな哀しい気持ちを映し出す雨。そんな雨でないと、自分の髪を結えないのです。これはギチギチに固まった心を、暗い気持ちでないと解きほぐれないという暗い過去を背負った女性を映し出したものの表れだと思います。

涙の理由(わけ)を教えて 何故?
Lonesome Flower 微笑みを咲かせて

「Lonesome Flower」は落花を意味します。落ちた花がもう一度咲くことはありませんが、少しでも微笑みを見せて欲しいという願いから「咲かせて」という言葉に繋がったと思います。

夜がこんなに寂しいなんて 生きるのが辛くなる
そして いつか失くした夢のかけらが 星空を駈けてゆく

これはヒロイン・泉の波乱な人生に当て嵌めた歌詞だと思います。泉は父を交通事故で失っており、さらに兵庫・篠山で居を構えていた家と水田を台風で失うという過去も描いています。父、そして生家を失った子どもの哀しさ・切なさは想像に難くありません。だからこそ生きることがむしろ辛くなるのでしょう。しかし、亡き父の夢を、私だけでも実現させたいという気持ちが、星となって駈けていくように、強くなっています。

涙の天使が私に宿り 見えない運命(さだめ)に翻弄(もてあそ)ばれる

「涙」=「悲劇や波乱の象徴」という意味合いになっており、榊酒蔵での住み込みでの生活の反発、義父・信太郎の死、酒職人としての辛い修行、母・ふみの不慮の死、義理の弟・拓也の震災による死など、数えきれないほどの不幸や苦難が劇中にあります。その運命に弄ばれる泉の半生は1人の人間として、酒職人として逞しく育っていく過程になっていきます。

いつの世も 心にしみるは懐かしいメロディ この街を流れる

そんな泉の支えになるのは、街を流れる懐かしい曲。この曲は、そんな泉の心の拠り所になれるような曲になれるようにという想いも詰まっています。

ピアノとストリングスから始まるイントロ、暖かみのあるピアノとキーボードのセカンド・イントロ。単にキャッチーなポップス、バラードにするのではなく、心に残るような普遍的なメロディ・アレンジになっています。1番はピアノ・ストリングス・キーボード・オルガンのみで構成され、2番から徐々にバンド演奏になっていきます。ピアノは原さん自身による演奏です。エレクトリック・ギターは小倉博和さん、ベースは樋沢達彦さん、ドラムスは小田原豊さん、キーボード・オルガンは桑田さんが演奏しています。特に桑田さんによるオルガンの音色は昭和モダンの雰囲気を醸し出しており、昭和歌謡好きの桑田さんならではの音作りとなっています。小倉さんのギター、樋沢さんのベース、小田原さんのドラムスも、歌の邪魔にならないように奏でられており、非常にバランスの取れた曲になっています。ストリングスアレンジは島健さんが手掛けており、この曲から現在に至るまでサザン・桑田さんの曲にストリングスアレンジを手掛けるようになります。

原さんのソロ曲で1・2を争うほど好きな曲。今月に原さんの31年ぶりのソロ・アルバムがリリースされますが、是非過去の原由子ソングも味わって欲しいです。