夏と恋の終わり。山下達郎「悲しみのJODY (She Was Crying)」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日は山下達郎「悲しみのJODY (She Was Crying)」(1983年リリース、アルバム『MELODIES』収録) です。




今でこそ「クリスマス・イブ」の大ヒットもあり冬やクリスマスのイメージが強いですが、オールドファンや40代以上の方は、「夏だ、海だ、タツローだ」という標語があるように、夏男のイメージを達郎さんは持たれていました。1980年に「RIDE ON TIME」をリリースすると開放的なサウンドがウケて大ヒット、続く1982年にはさらに開放的なリゾート・ミュージックをイメージしたアルバム『FOR YOU』が大ヒット。特に収録曲「SPARKLE」「LOVELAND, ISLAND」が世間に認知されると、前述した夏男のイメージが完成されることになり、サザンオールスターズやTUBEが出てくるまでは、夏の曲の顔とも言うべきミュージシャンとなりました。

しかし、本人は夏男のイメージを嫌い、1983年発表のアルバム『MELODIES』では、その脱却を狙い、「高気圧ガール」などの従来の開放的な曲を残しつつ、「夜翔 (Night-Fly)」「ひととき」「メリー・ゴー・ラウンド」のような落ち着いた曲が多くなりました。また、歌詞もそれまで吉田美奈子さんに詞を依頼していましたが、シンガー・ソングライターとして自分が詞を書こうと思い立ち、『MELODIES』から殆んどの歌詞を達郎さんが書いています。その結果、内省的な歌詞になっていき、次作『POCKET MUSIC』や次々作『僕の中の少年』に繋がっていくことになります。

そんなアルバムの1曲目を飾ったのがこの「悲しみのJODY」でした。元々は1982年~1983年に達郎さんがパーソナリティを務めたTBSラジオの「Sounds with Coke」という番組の為に書き下ろしたテーマソングでした。メロディーとアレンジを流用して新たに歌詞を付けたものが、この曲となります。サブタイトルの〈She Was Crying〉は、「Sounds With Coke」の頭のアルファベットを1字ずつ拝借してつけたものだと言われています。

歌詞は「脱・リゾート・ミュージック」を狙い、夏の終わりの失恋をイメージした歌詞になっています。恋人とのすれ違いを、失ってから初めて気付き、そして後悔する男を描いた、その当時の「男は男らしく」の時代とは反対の頼り無さげな男性像になっています。タイトルに「JODY」とあることから、歌詞に出てくる女性は「JODY」と呼ばれていますが、女性像は誰にでも当てはまるようになっているほか、達郎さんの歌詞が抽象的ということもあり、虚構の女性像となっています。

JODY 君となら きっとわかり合えた
ひと夏が過ぎ去った浜辺は もう誰もいない

君とならわかり合えるはずだった、そして結ばれると思ったのに、一夏の最後は儚い終わり方をした僕。この夏によく来ていた海岸に来ても、彼女はおろか、夏では無い今、誰もいません。寂しく浜辺に佇む自分がひとり、居るだけです。

JODY 悲しみを消してあげたかった
一人きり泣いていた姿を 僕は見ていた

僕は彼女のことを好きだからこそ、寄り添って、悲しみを消してあげようと頑張りました。でもどうしようもできなかった。後悔だけが募ります。

君の肩を そっと抱いて
歩く夢 今も残っているのさ
ずっと……

夏の楽しかった想い出は、今も僕の大切な想い出として脳裏に焼き付いていますが、悲しい別れをした今では夢にまで出てくるこの想い出がより一層寂しさを募らせます。それと同時に、それほどまでに大切な女性であったことを改めて思い知らされるのです。

JODY 君の事 もっと知りたかった
だけどもう遅過ぎる OH JODY
二度と会えない

思えば君のことはよく知らなかったかもしれません。もっと深く君のことを知りたかった、そして愛を育みたかった。でも別れた今、もう遅すぎるのです。もう彼女のことは二度と会えません。悲しい夏の別れだったのでした。

通常は青山純さん(ドラム)・伊藤広規さん(ベース)・椎名和夫さん(ギター)・難波弘之さん(キーボード) といった強固なリズム隊を中心としてレコーディングを行っていた達郎さんですが、「こういったタイプの曲調はスタジオ・ミュージシャンの演奏では個性的にならない」という達郎さんの意向でドラム、ベース、エレクトリック・ギター、12弦ギター、ピアノ、オルガン、ヴィブラフォン、パーカッションといった楽器は全て達郎さん自身の演奏となっています。勿論、コーラスも達郎さんによる一人多重録音となっています。きらびやかな開放的なサウンドは影を潜め、何処か閉塞感あるようなサウンドに仕上がっています。また、それまでは意図的に16ビートの曲を作っていましたが、この曲では久々に8ビートで作られています。

間奏のサックス・ソロは1960年代に一世を風靡したGSバンド「ジャッキー吉川とブルー・コメッツ」のサックスプレイヤーで、作・編曲家の井上大輔さんによるものです。より一層、悲しみを嘆いているような音に聴こえます。

過ぎたひと夏の恋を憂いたリゾート・ミュージックを脱皮を図った名作。詞・曲・アレンジはさることながら、達郎さんと井上さんの演奏の完成度の高さには敬服するばかりです。





尚、翌1984年にはサウンドトラック・アルバム『BIG WAVE』にアラン・オデイによって英語詞に書き換えた「JODY」も収録されています。




そして、こちらが元の曲となる「SOUNDS WITH COKE THEME」です。