怪談サークル とうもろこしの会 -262ページ目

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昼過ぎ、近所の路地を歩いていると、向こうの方に変な二人組がいるのが見えた。
男が、もう一人の男の首をしっかり掴んでいる。掴んでいるのは片手で、もう一方の手はぶらんと投げ出されている。掴まれている方の男は両手を使って、自分の首を掴む手をさらに掴んでいる。
小さなアパートのコンクリート舗装されていない駐車場みたいなスペースに、二人は立っている。二人とも、派手な模様がびっしり描かれたダウンと、やっぱり派手派手しい模様のズボンを履いていた。なんだか似たような服装をしているので、兄弟かもしれないと思った。そして奇妙なことに、その体勢のままで二人、ぴくりとも身じろぎもしない。向こうから50代くらいのおばさんが歩いてきたけど、彼らには一瞥もしないで横を通り過ぎていった。
近づいてみると、首を掴まれている男は眼鏡をかけた短髪で、なんというか、首を掴まれているにふさわしいような目をしていた。何も行動を起こせずに怯えながら耐えて、なんとか危険が向こうから通り過ぎていくのを待つだけという、そんな目。掴んでいる方の男は人相が悪く、木村祐一にそっくりだった。怒っているようにも見えたけど、よく分らない。とにかく目の前の男の首を掴むことに何のためらいもないことは、一目で見てとれた。
もしかしたら警察を呼んだ方がいいのかもしれない。そう思って近くでジロジロと観察してみたのだが、二人とも、本当にぴくりとも動かない。まばたきもしなければ、呼吸をしているようにすら見えない。もちろん何かを喋り出す気配もない。掴んでいる方はともかく、首を掴まれてる方が身じろぎもしないのはさすがにおかしいと思ったけど、どれだけ見つめても反応ひとつない。ただずっと、人相の悪い男が眼鏡の男の首を片手で掴んだまま、じっとしているだけ。そして二人とも、めちゃくちゃな柄の服を着ている。
なにか納得はいかなかったけど、関わり合いにならないようにその場を去った。路地の角を曲がる時にもう一度振り返ってみたが、やはりどちらも少しも動いてはいなかった。
歩いて高円寺の図書館に行き、その足で中野のドンキホーテに寄った。用事をすませてから、新井薬師の喫茶店でボンヤリと時間を過ごした。
帰り道、気になったので昼と同じ路地を通ってみた。すっかり薄暗くなった冬の夕暮れの中を歩いていくと、彼らが、同じ場所に同じ格好のまま立っているのが遠くに見えたので、慌てて別の道へと引き返した。

12/21


ここ最近、働きもしないでピクサーのアニメをずっと見ている。
ピクサーというかジョン・ラセターというかの好きな物語というのは、そのだいたいが
「ニセモノ野郎がホンモノのふりをしようとしてアクセク努力するうちに、ついにホンモノになる」というストーリーなので、
まさにまだ世の中に認められてない少年たちが見るにふさわしいものだと思う。
昔のマガジンで言えば「特攻の拓」か「カメレオン」だろうか。
別に無理に昔のマガジンに例えることはないんだけど。
まあつまり、まだ何者でもなくてちゃんと働いてもいない29歳の僕が
めちゃめちゃ共感できるアニメばかりなので
バイトにも行かず、ずっとコタツに入ってボンヤリ眺める毎日なのだということ。

12/20


ラブさんの家でM1を見る。
ラブさんとは僕のネットラジオにも時々出る、まあ変わった人だ。
ひどいことばかり言うのだが、彼の場合なんとなく
「まあ仕方ないから、あの人は……」
と許されるというか、諦められているというか、といった人間である。
そんな彼にM1の批評を思う存分してもらい、それをラジオに録ろうと思ったのだ。
ところがレコーダーが動かない。
いくらスイッチをカチカチ動かしても、まったく電源が入らないのだ。
今まで兆候らしきものがなかったのに、完全に沈黙状態に入ってしまった。
このレコーダーは副会長から貰った(借りた?)大切なものなので、
なんとか直そうとラブさんと二人、色々いじってみたり、壁にたたきつけたり、ひっぱり合ってみたり、ハイボールをたらしてみたり、焼酎の水割りの中に30分漬け込んでみたり、言い忘れたが僕もラブさんも相当に酔っ払っていたので、普通の時では出来ないような思い切った治療を試してみたのだが、まったく直る気配もない。

仕方ないので、その日のうちにネットで新しいレコーダーを注文した。
ズームのH2。
H4という最新機種がでたためか値下げされていたが、それでも14800円。
痛い出費だ。
正月に帰省した折に、パパンとママンにお年玉をねだって補填しようと思う。
お金ちょうだいちょうだいよお!と寝転がってジタバタしながら叫び続ければ
深いため息とともに1万五千円くらいはくれると思うのだ。

ちなみに副会長がもしレコーダーを返せと言ってきたら
「お前にはこれで充分だよ」と、ステカセを渡そうと思う。
「そうだ、ステカセキングを目指せばいいじゃない!」と。