今日は、METの新作、「Satyagraha」の初日公演に行ってきました。
「Satyagraha」?なんじゃ?
サンスクリット語で、「Satya=真理」、なのだそうです。そんなわけで、真理の力とか、真理の追求、とか、そんな意味。
非暴力、不服従で知られる、ガンディーの哲学、「真理は神である」にフォーカスを当てたこの作品。
ガンディーが南アフリカで弁護士として開業していた1890年代~1910年代の実話に基づく物語。当時の南アフリカ連邦(今は共和国)では、インド系移民の差別がひどく、その権利回復運動に従事するガンディーの姿を描いています。
この時期の経験が、その後の彼の活動・・・インドでの、イギリスに対する民族運動などに生きている、のだそうです。
劇場のバナー広告。著名なPainter、Francesco Clemente という人が描いたもの。だそうです。気合が入ってますね。
公演の初日というのは、パトロンの方や関係者、常連のお客さんでいっぱいで、いつもより華やか。そういう光景を見てるだけでも、ドキドキ、楽しい限りです。今回は、インド人のお金持ちらしき人々も多く。ゴージャスなサリーを拝むことが出来ました。
席は、Side Parterre Boxesという、2階のボックス席を初体験。舞台のすぐ横で、部分的に見えない為、割と安い席。しかし、会場は見渡せるし、指揮者とオーケストラは、すべて間近に拝めます。指揮者と歌手のさりげないコミュニケーションを初めて目の当たりにして、感動。。。。
えーと、ついでに発見してしまいました。舞台に向かって、歌詞を流すモニター。サンスクリット語の歌詞が、大きな文字で映し出されて、出演者をサポート。
いやー、サンスクリット語って、難しいー。思わず見とれてしまい・・・一緒に歌ってみた。キーが上がる時は文字の色が赤になったり、下がるときは青になったりする法則。
この作品は、1979年に、Philip Glass氏というアメリカ人が作曲したもの。1980年にドイツで初演。
19世紀、200年前の古典に、むしろ見慣れている私達・・・まだ30年の年月しか経っていない作品なんて。新鮮。
そして、今回は、METとイギリスのNational Operaとの共同制作。
指揮者はアルゼンチン人で、今日がMETデビュー。演出、舞台デザイン、衣装デザイン、照明デザインの裏方メインを指揮する人々は全員イギリス人、そして、全員、今日がMETデビュー。なんだか、すべてが新鮮なオペラ。
公演は、ガンディーの経験、歴史的事実を、非常に抽象的に描いていきます。そして、歌はサンスクリット語。。。字幕はなし。時折、ステージに投影されるシーンの説明、ガンディーや関係者の名言などをもとに、自分で解釈していかなくてはいけない。
ということで、最初は非常に辛かった。だって、何歌ってるのか、何を表現してるのか、さっぱり分からないんだもの。
幕間の休み時間には、席も立たずに、冊子に首っぴき。必死であらすじを読んで、ようやく、理解しながら観れるようになりました。勝手解釈のあらすじを少々。
1幕目
たぶん、ガンディーの心の葛藤も含めて、彼なりの「真理」を悟り、人々にそれを説く最初の段階を描いてる。
最初は、前段。ガンディーのー若い頃。インドの貴族同士の戦いを目の当たりにしたガンディーが、「自分の中にある真実に目を向けなさい。」という真理を説くシーンから。
そして、1910年前後の南アフリカ。ここで民族差別を受けるインド人を指導するガンディーの姿。力で抵抗しようとするインド人達に、真実(真実の為の戦いは、自分の浄化と自分を信じることにある、みたいな)を諭していくガンディー。
2幕目
そんな彼の活動を、欧州の新聞、マスメディアが誇張して報道。ひどいバッシングを受ける・・。このシーン(↓。METのHPより)は、欧米の権威の圧力を受けながらも、ガンディーは静かに自分の信じる道を行く、みたいなシーン。
彼も、Indian Opinionというインド人内のし新聞を通じて、インド人社会にメッセージを発信していきます。
しかし、南アフリカ政府のインド人に対する不当な扱いもエスカレートしていくのでした。
3幕目
民族差別的の法律も制定され、弾圧は増す。そんな中、ガンディーは、民衆を率いて、36マイルの道のりを行進することで、抵抗活動を。逮捕される人々も続出する中、それでも、相手に対する暴力の抵抗ではなく、真実の追求を説くガンディ-であった。
みたいな。(ああ、難しい。)
私は、音楽のメロディーの美しさに惹かれました。にわかオペラ鑑賞者の私ですから、何もウンチクはないのですが、古典ばかりを聴いてきた中で、まだ生きてる人が作曲したメロディは、優しく素直に耳に心地よかった。
3時間半の公演が終わり。
さて、METの重鎮のお客様方は、いったいどう受けとめるのだろうか・・・・?
もんのすごいブラボーと拍手の嵐。
ガンジー役は、NY出身のテノール歌手、Richard Croft氏。声がまろやかで、美しかったです。
METの舞台に初めて上がる、指揮者、演出の人々。イギリスからやってきたプロフェッショナル集団に、アメリカの人々は心から拍手喝采。
そして、ガンジーの隣に立つ紳士は・・・作曲した、Philip Glass氏なのですよー。現在71歳。素敵な紳士でした。
舞台の鍵を握るのは、この(↓)2列目にいる、プロフェッショナル・チーム。ボロボロの衣装をまとい、疲弊した庶民の雰囲気で、「歌うことなく」、ほとんど常に舞台の上にいます。そして、たくさんの難しい舞台演出を、ひたすらこなしていくのです。このWorkは、本当に一見の価値あり。
ブラボーで会場は盛り上がって、観客が会場を出たのは、0時過ぎでした。
ということで、すっかり長くなってしまった記事。
そう、難しかったのだけど、何だかすごい感動をしてしまったんです、私。20~21世紀の芸術家達が作り出したこの作品が、200年後、300年後も、脈々と受け継がれていきますように。
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だんだん、今年のMETシーズンも残り少なくなってきました。5月17日(土)で終了。その後、5月19日(月)から、ABT(アメリカン・バレエ・シアター)シーズンの始まりです。
私は、今期、あと2つばかり鑑賞して、オシマイとしたいと思ってます。なんたって、あのプラシド・ドミンゴ氏が皇帝役を演じる「The First Emperor」、評価の高いフランス人歌姫、Nataie Dessayが主役を演じる「La Fille du Regiment」があるのですから・・・・。
にわかオペラファン、もう少し頑張るー。