今日は、「トリスタンとイゾルデ」。私にとっては、初のワーグナー。
この作品、ドイツのリヒャルト・ワーグナーが1857年~1859年に作曲したもの。1865年にミュンヘンで初公演されたそうです。
中世のアイルランドの王様に嫁ぐイゾルデ。その王の使いのトリスタンが、イゾルデと恋に落ちてしまい・・・・密会を続けるのですが、王にばれてしまう。王は、悩んだ挙句に許すのです・・。しかし、トリスタンは、王の部下に剣で刺されてしまい死んでしまう。イゾルデも後を追って死んでしまう。
というもの。「中世にありがちな、王の妻と、騎士(ナイト)の恋愛物語」なのだそうです。
素人には難しいといわれる、ワーグナーのオペラ。
3幕の構成なのですが、1幕80分x3=240分。賞味4時間の大作。
多くの場合、20時開演のMETなのですが、今日は19時開演。休憩を挟んで、0時に終了。という、演じる人にも観る人にもちと辛そうな公演に、私も覚悟を決めておりました。。。。
ワーグナー、好きな人はすごく好きなのでしょうね。今日は、通(ツウ)な感じの方々で、19時開演にもかかわらず、ほぼ満席。金曜日なので、正装してる人も多く、いつもながらに素敵なMETです。
しかし、今日は、ハプニングもたくさん。私にとっては忘れられない、オモシロ経験になったのですよ。
まず、公演の初め。舞台に出てきたのは、スーツ姿のおじさん。
「えー、今日予定してましたトリスタン役のBen Happnerは病気で出演が不可能になりました。その代わりを務めるのは、Gary Lehmanです。彼は、ロスを拠点に活躍する若い歌手で、今日がMETへの初めての出演になります。」
会場、ざわざわ。(えー、初めてで主役なの!?)
「彼は才能豊かで、今後期待できる若者です。実は、「トリスタンとイゾルデ」を歌うことも、彼は、今日が人生で初めてなのです・・・」
わっはっはー。会場、大爆笑。
(「まじー?」だよねえ。)
そんなこんなで始まったこのオペラ。
若くて新鮮なトリスタン役の男性。、突然の大舞台に、最初は硬めだったのですが、それでも一生懸命さ、将来有望な声のたのもしさをかもし出していました。王女イゾルデ役は、ベテランの女性。体格も含めて貫禄十分。
舞台は、進んでいくのですが。
1幕の途中で、突如、停電。
幕が降り、また、スーツのおじさんが。
「電気系が不調により、復旧までお待ちください。」
あらら、こんなこともあるんだ。
待つこと10分くらい?電気がようやく灯り、舞台が再開しました。
そしたら・・・・イゾルデ役の女性が変わってる!!ベテラン役の女性は、幕の途中で降板してしまったんです。
(まじー??何があったんだろう。)
ということで、主役2人共、当初の配役と違う代役での、大作への挑戦。となりました。
小さなミスはいくつかあったのだけど、主役2人、すごい頑張ってましたね。。。大健闘賞だ。周りの出演者もすごくサポートしてるのが、観てる側にも伝わって、別の意味での感動を誘いました。
ハプニングを重ねて、公演が終わったのは・・・0時40分。
なのに。
観客は、ほとんど途中で帰ることもなく、最後まで聴いてたんです。私の周りは、老夫婦も多く、「大丈夫・・?」って余計なお世話だけど心配してたんですけどね。
METとしては、ありえない、いくつもの出来事を経て、深夜0時40分に終了した公演に・・・。
みんなの反応は、ものすごく暖かかった!!
私が今まで聴いた中での、最高の「ブラボー」が飛び交い、特に、今日の大舞台を乗り越えた主役2人に対して、鳴り止まぬ拍手と「ブラボー」、スタンディングオペレーションが、約10分も続いたのです。
日本語だったら「お疲れ、お疲れ。よく頑張ったな!」
みたいな。
中央にいる主役2人。今宵は、彼らにとって素晴らしい1夜になったことでしょう。
出演者、観客ともに、暖かい雰囲気で終わり、劇場を後にしたのは、0時50分。
雨交じりの天気の中、誰もが感動を持ち帰った、なんだかスゴイ公演でした。
ちなみに、この作品の指揮者は、今のMETを代表する、James Levineというオハイオ州出身の方。この人が指揮をすると、音の響き、張りが違います。(最近、マイアミのS子さんの影響で、「のだめカンタービレ」漫画を読んでる私。指揮者への注目度も強化。)
ワーグナーの作品、初めてナマで聴いたのだけど、チェロの美しさが光ってました。チェロって、こんな音が表現できるんだ。。。って感動。これも今日の発見。
でも、なにより、アメリカ人の明るさ、寛容さ、新しくチャレンジする人への偏見なしの応援・・・みたいなものを、感じた、いい夜になったのでした。
そう、この大陸では、ベテランも新入りも同じく、実力あるもの、頑張るものは受け入れられる。
私も頑張らなきゃねー。