消費主導の経済回復を本格的な流れに | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

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個人消費の5四半期ぶり増加を本格回復の起点にできるか(東京・新宿の高層ビル群)

 

掲題の今朝の日経社説。

消費主導の経済回復とは眉唾物と批判せざるを得ない。

 

まず第一に、日本の実質GDP水準は4~6月期に

前期比で2期ぶりにプラス成長に転じたと

日経を含む我が国の主要メデイアは盛んに喧伝しているが、

同期の実質GDPは前年同期比で見ると-0.8%と

かなりのマイナス成長に過ぎない。

 

我が国の実質GDP水準の過去における最大値は、

今回の最新GDP統計でも、

2023年4~6月期に記録した約563兆円。

 

これに対して、2024年4~6月期実質GDP水準は

約559兆円に止まっており、差額4兆円分、

すなわちちょうど前年同期比でみた今年4~6月期の

実質GDPの前年同期比マイナス成長分と同値の

-0.8%の負の需給(デフレ)ギャップ

(総需要<総供給)が生まれている。

 

第二に、特にGDPのの約6割を占める個人消費だが、

そのGDP推定の要となる家計調査によると

2024年4~6月期の実質消費支出水準は平均97.6であり、

同年1~3月期のそれの平均97.9から、

やや低下している。

 

また、普通乗用車と小型乗用車を足し合わせた乗用車販売総額は、

次に重要な個人消費を推定するための

需要なインプット・データなのだが、

2024年4~6月期に前年同期比で平均-10.7%減少し、

同年1~3月期の前年同期比の平均-9.3%減少から、

減少率をやや拡大させていた。

 

したがって、今回のGDP統計では

2024年4~6月期実質個人消費が約297兆円と、

同年1~3月期の約294兆円から増加したと内閣府は推定しているが、

10%消費税率と約3%のインフレ税率のダブルパンチ、

正確には両者の掛け算部分を加えてトリプルパンチの中で、

個人消費が伸びたと推定する根拠は

かなり乏しいと見ざるを得ない。

 

第三に、今回の4~6月期GDPにおける大きな特徴のひとつは、

GDPデフレーターと称する付加価値ベースで図った

国内インフレ率が前年同期比で+3.0%と記録されていることである。

また、同統計は2023年度のGDPデフレーター、

すなわち国内インフレが+4.0%もあった事実を同時に記録している。

 

結局、4~6月期GDP統計でみる日本経済の真の姿は、

GDPデフレーターの上昇という国内インフレ加速と共に、

総需要が総供給に-0.8%も足りないという負の需給ギャップ、

すなわちデフレ・ギャップが相変わらず継続していることにある。

 

一言で言えば、インフレとデフレ・ギャップの存在という

スタグフレーションがキーワードでなければならない。

 

したがって、「消費主導の経済回復を本格的な流れに」

などとする日経の主張はかなりの眉唾ものとみざるをえない。

 

例えば、冒頭での繰り返しになるが、

前期比ベースでの消費回復にも

疑問符がつく4~6月期のGDP統計でも、

個人消費は前年同月比で見れば、

-0.2%の減少を記録しているからだ。

 

また、実質賃金が本年6月に

約2年間ぶりにプラス転換されたのは事実だが、

その持続性は予断を許すまい。

家計の実質可処分所得がインフレで失われているのに、

個人や家計の消費の回復はきわめて困難と言わざるを得ない。

 

いずれにしても、4~6月期GDPの

2次速報値は9月9日(月)公表予定

再度、内閣府のGDP推定が信頼に足るものかどうか、

そして主要メデイアの報道も信憑性があるか否か、

9月20日頃の総裁選と

その直後の解散総選挙も取りざたされていることもあり、

入念なチャックが怠れまい。

 

 

 

 

停滞が続いた個人消費に反転の兆しが出てきた。内閣府によると2024年4〜6月期の実質国内総生産(GDP)速報値は年率に換算した前期比で3.1%増え、2四半期ぶりにプラスとなった。消費は5四半期ぶりに上向いた。

 

一部自動車メーカーの認証不正問題による生産調整が峠を越え、設備投資や輸出を含めて幅広く押し上げた。一時的な反動増の面も強いが、消費には所得増という好材料がある。本格的な回復への流れを絶やさぬようにしたい。

 

消費は前期比1.0%増。自動車以外にも衣料品や外食などで前向きな動きがみられた。設備投資も0.9%増とプラスに転じた。

 

名目のGDPは前期比の年率で7.4%増えた。年換算値は607.9兆円に達し、海外の投資家が日本経済の復活の目安として意識してきた600兆円を超えた。四半期の数字を1年分に換算した参考値ではあるが、大台乗せへ順調な歩みを示したといえよう。

 

市場では7〜9月期以降も緩やかな成長が続くとの予想が多いが、消費の本格回復には物価高を上回る所得増の定着が欠かせない。賃上げ継続と生産性の向上で賃金と物価の好循環を実現できれば、消費者の節約志向も和らぎ、企業も価値やコストに見合う値段をつけられるようになる。

 

その点、働く人たちの所得の総額である雇用者報酬の実質値が4〜6月期に前年同期比で0.8%増えたのは注目に値する。物価高がさほど広がっていなかった21年7〜9月期以来のプラスだ。

 

気がかりなのは最近までの市場の急変動の余波だ。円安の修正が続けば、輸入物価から国内物価へと及ぶ上昇の圧力は和らぐ。一方で株価が再び不安定になると消費者の心理が冷え込みかねない。

 

中東情勢の緊迫で原油の国際市況が高騰し、輸入物価を押し上げる心配もある。政府・日銀は海外経済や国境をまたぐ資金を注視し市場安定に万全を期すべきだ。

 

自民党総裁選の候補者には財政や社会保障の持続性に留意し、家計や企業が安心してお金を使えるような建設的な政策論争を期待する。秋以降、政府の物価高対策の効果が順次切れるが、安易な財政支出を競うのは望ましくない。

 

企業は不透明な環境でこそ成長加速に挑む戦略を描くべきだ。単なる賃上げにとどまらない人材育成のほかデジタルを軸に投資計画を練り、実行に移してほしい。