長期・分散重視の金融教育を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アセモグルら)

金融経済教育推進機構

 

掲題の今朝の日経社説。

一理あるものの、

問題なしとしない。

 

金融と経済は不可分だ。

 

日本経済は少子化や

長期消費停滞等に代表される失われた30年間で、

特に2022年4月以降に加速してきた大幅円安を背景に

株価や不動産などの資産バブルが増幅されてきている。

 

その結果が2024年8月5日の日本発ブラック・マンデーだ。

 

1987年10月の米国発ブラック・マンデーでは

世界中の株価がおしなべて一営業日に約20%急落した。

 

2024年8月5日の日本発ブラック・マンデーでも、

日経平均株価は8月1日から5日までの3営業日間において、

累計20%を超える下落を記録した。

 

これら日米の二つのブラック・マンデーの共通点は、

一方で、1987年のブラック・マンデーでは

米独間の金融政策に矛盾が生じ、

他方、2024年真夏の日本発ブラック・マンデーでは

日米間の金融政策に矛盾が生じたことにあろう。

 

いずれにせよ、1987年米国発ブラック・マンデーは、

その後、株安と円高を恐れた日本政府・日銀による

過度の金融緩和政策を背景に、

平成バブルの膨張を許して、

その後、究極的な崩壊につながった。

 

現在の日本経済は既述の少子化と長期消費停滞に加えて、

通貨安、インフレという4重苦の中にあり、

早晩、8月5日の日本発ブラック・マンデーを超える

戦後最大の金融危機を招いても不思議ではない。

 

このような未曾有の経済・金融危機に際して、

8月5日の日本発ブラック・マンデーに対する

真摯な診断書と効果的な処方箋を描かずして、

単に長期・分散重視の金融教育のみを主張する同社説は、

極めて無責任との批判を免れまい。

 

なぜなら、いくら長期・分散重視といっても、

持続的な成長た期待できる米経済ならともかくとして、

それが期待できない日本経済は

このままでは慢性的な長期不振にさえ陥りかねないためだ。

 

つまり、長期・分散投資は必ずしも魔法の杖ではない。

 

 

 

金融や投資についての知識普及を目指す官民組織が動き出した。新しい少額投資非課税制度(NISA)の下、投資が身近になりつつあると同時に、最近の急な株安・円高では動揺も広がる。各家計が将来を見据え、長期の姿勢で臨む大切さを理解できるよう新組織は役目を果たしてほしい。

 

8月から本格始動した金融経済教育推進機構(J-FLEC)は国と日銀、銀行や証券の業界団体が出資して設立された。

 

日本は金融教育が手薄で、担い手もバラバラだった。今回J-FLECに機能を移管した金融広報中央委員会の最近の調査によると、「学校などで金融教育を受けた」との回答は7%にとどまり、20%の米国を大きく下回る。

 

学校や企業の職場などに機構が認定するアドバイザーが講師として無料で出向く。どんな金融商品を買うべきかではなく、年代ごとに持ってほしいお金に関する知識や判断力を習得できる講義内容にする。個別の相談にも応じる。

 

アドバイザーはファイナンシャルプランナーや証券アナリストなど一定の資格と実務経験を持つ専門家を認定し、金融機関から報酬を得ていないことを条件にした。中立・公平性を保つための仕組みといえる。

 

国は金融教育の普及率を20%に高める目標を掲げるが、それで十分とは言えまい。全国にあまねく広げる必要があり、企業や業界団体との連携も欠かせない。

 

個人の投資において最も大事なことは自らのリスク許容度を知り、長期で考える姿勢だ。新NISAを始めた人は投資の対象や時間を分ける「長期・積み立て・分散」への理解を深めてほしい。金利ある世界となり、利息が元本に組み込まれて収益を生む、複利効果への理解も重要性を増す。

 

資産が形成された後も教育は必要だ。老後には望ましい資産取り崩し法を知るべきだ。SNSを通じた投資詐欺も広がる。相手の信用度を見極め、甘い投資話に乗らないのも金融教育の一環だろう。