「骨太」の名に値する成長戦略示せたか | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の日経社説。

問題なしとしない。

 

同社説の日本経済の見方には根本的な問題がある。

 

日本経済は物価の趨勢的な下落というデフレでなく、

物価の趨勢的な上昇という完全なインフレ下にある。

 

しかも日本のインフレは我が国の政府・日銀が

目標としてきていたはずの前年比2%上昇を

2022年4月に超えて久しい(25か月連続)。

 

なぜ、日経社説は政府の骨太方針が示した

「デフレから完全に脱却し、

成長型の経済を実現する千載一遇の歴史的チャンス」等と嘯き、

物価上昇でインフレ税と10%消費税率のダブルパンチで、

消費者の実質可処分所得が落ち込み

消費と経済が停滞している日本経済の現状と

その真の因果関係を探ろうとしないのだろうか?

 

実際、2024年1~3月期実質GDPは

2四半期ぶりに前期比マイナス成長に陥り、

特に実質個人消費は4四半期連続で前期比縮小が続いている。

 

つまり、日本経済の現状は、インフレと

個人消費の落ち込みを中心として

景気低迷というスタグフレーション色が

濃厚であることが真の問題なのだ。

 

政府が言う「デフレからの完全脱却を図る」などとは、
完全に的外れに他ならないのだ。

 

要するに、一時的ではないインフレを

まずもって日銀の金融政策でしっかりと制御しない限り、

インフレと消費と経済の長期停滞という

スタグフレーション的な日本経済に存在する

トレードオフ(二律背反)をいつまでたっても解決できない。

 

いずれにしても、政府の成長戦略は骨太の名に値せず、

骨抜きの誤った経済戦略と言わざるを得ない。

 

いずれにしても、物価安定と持続的な経済成長を

達成するためには、金融政策であっても

財政政策であっても、一時的な弥縫策では対処できない。

 

昨晩、岸田首相はまたしても、

一時的な財政政策面での物価対策の検討を表明した。

 

だが、一方で、インフレを超える政策金利を伴わない

実質ベースでのマイナス政策金利の下で、

金融政策面でのかなりの景気刺激政策を続けて、

他方で、一時的な財政バラマキを繰り返そうとする岸田首相は

秋の総裁選と政権維持は目指していても、

国民経済のためにインフレなき

持続的な経済成長を企図しているようには少しも見えない。

 

こうして、誠に遺憾ながら、

我が国の戦後最大の

政治・経済・金融危機はますます深刻化して、

早晩、制御不能となることが必至と見ざるを得まい。

 

 

 

 

 

政府は21日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を閣議決定した。日本経済を新たな成長軌道に乗せる指針となるが、「骨太」の名にふさわしい戦略を描けたとは言いがたい。

 

骨太の方針が示した「デフレから完全に脱却し、成長型の経済を実現させる千載一遇の歴史的チャンス」との認識に異論はない。

 

物価と賃金の上昇が鮮明になり、日本経済はすでにデフレとはいえない状況だ。需要が足りずに物価が下がり、賃金が増えずに経済全体が縮む。そんな負のスパイラルからはほぼ抜け出せた。

 

とはいえ、賃上げはまだ物価の上昇に追いついていない。消費は力強さに欠ける。企業が新しい価値を生み出し、稼ぐ力を高めないかぎり、本格的な賃金上昇を伴う持続的な経済成長は望めない。

 

それを実現するには、なによりも経済の屋台骨を支える産業の育成が重要になる。

 

骨太の方針は、次世代半導体の量産を後押しする法整備を盛り込んだ。人工知能(AI)や自動運転に欠かせない先端半導体の供給網を国内に築くため、財政支援の枠組みを整える。

 

世界的な競争から取り残された日本の半導体産業をよみがえらせる、最後の機会かもしれない。政府が可能な限りの支援をするのは理解できる。

 

一方、巨額の財政支援はいつまでも続けられるわけではない。民間が政府の力を借りずに、自立して半導体産業の発展を支えられるようにするまでの道筋を示す必要がある。今回の方針からそれを読み取れないのは残念だ。

 

人口減への対策も十分とはいえない。一般ドライバーが有料で客を運ぶ「日本版ライドシェア」について、タクシー事業者以外も参入できるようにするのを先送りしたのは全く理解できない。人口減が急速に進むなか、必要な改革を遅らせる余裕はないはずだ。

 

財政政策をめぐっては、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を2025年度に黒字化する目標を3年ぶりに復活させた。新型コロナウイルス禍で膨らんだ歳出を平時の状態に戻すため、一歩踏み出す姿勢を示したのは評価したい。

 

岸田文雄首相は記者会見で、物価高対策として電気料金などの新たな負担軽減策を検討すると表明したバラマキを繰り返さないよう、慎重な制度設計を求めたい。