掲題の今朝の日経社説。
一理あるが、問題なしとしない。
同社説は昨日午後の植田総裁記者会見を視聴していたのだろうか。
日銀の国債購入減額に異を唱える国民は多くはあるまい。
問題は植田日銀の物価や通貨の安定に向けた
問題先送りの姿勢や
市場との対話をことさらに強調し、
むしろ責任転嫁を図るかのような逃げの姿勢にある。
実際、そのような意見や質問も記者会見では散見された。
いずれにしても、真の問題は、国債購入減額を含めた
日銀の金融政策正常化の全体像とその姿勢及びそのペースにあろう。
① 政府日銀が注目し国民に対して公言し約束してきていたはずの
コアCPIの前年比は既に過去2年間を超えて2%を超えてきている。
② 今年3月に既に実施したマイナス金利解除後も
政策金利は事実上ゼロ金利に据え置かれてきている。
③ 同時に実施されたイールドカーブ・
コントロール政策撤廃とは名ばかりで、
実際には3月以降も毎月6兆円の国債買取(QE)を続けてきており、
10年物国債利回りは事実上1%近傍に釘付けされてきている。
④ したがって、日本の長短金利はインフレ調整後では
全てが実質マイナス圏に沈み込んできている。
⑤ このような先進諸国G7では極めて異常な、
インフレ下で長短金利を実質マイナス圏に
深く沈み込ませるような極端な日銀の金融(刺激)政策そのものが、
インフレと資産バブルを助長させ、増幅させているのは明らか。
いずれにしても、植田日銀による、基調的なインフレは
2%に未達だ等とする「日銀文学」が昨日記者会見でも
繰り返されていたが、そのような強弁や欺瞞はもはや許されない。
なぜなら、過去2年間を超えて消費者は
2%をかなり超えるインフレ税負担を
政府・日銀によって課税(収奪)されてきているからだ。
同時に、インフレ放置では、家計の実質可処分所得が落ち込み、
消費を中心に経済の長期停滞も不可避であり、
実際本年1~3月期実質GDPは前期比でマイナス成長に陥っている。
特に、インフレは、直近でも、
PPIや企業向けサービス価格でみるとその加速が歴然だ。
例えば、CPIの川上にあるとされるPPIは
3~5月間に前月比でそれぞれ+0.3%、+0.5%、+0.7%と加速し、
前年比ではそれぞれ+0.9%、+1.1%、+2.4%を記録して、
米国の5月PPIの前年比+2.2%を我が国のPPIが凌駕してきている。
さらに、日本の企業向けサービス価格指数も
5月データはまだ未発表ながら3月、4月に
前月比+0.9%、同+0.7%と加速し、
前年比でもそれぞれ既に+2.4%、+2.8%を記録してきている。
PPIも企業向けサービス価格指数も日銀自体が公表しており、
これらのインフレ加速を日銀が知らないはずもあるまい。
こうして、日本経済を取り巻くインフレ加速と通貨大幅安
(購買力平価に比較して既に約50円も円安)の現状を直視して、
可及的速やかに日銀の金融政策の正常化を急ぐことこそが、
わが国の中央銀行の使命ではないのか。
要するに、植田日銀は黒田日銀同様に、
物価や通貨の番人ではなく、
政府の番犬でしかないということなのだろう。
アベノミクスの3番煎じのキシダノミクスが続く限り、
日銀の迷走と、日本経済の危機が続き、
深刻化するばかりだと危惧せざるをえない。
日銀が夏場以降、長期国債の買い入れを減らしていく方針を決めた。日銀が大量に抱える国債の残高は徐々に縮小する。事実上の量的引き締め(QT)といえる。
健全な金利形成や財政の信認という観点からも計画的な資産圧縮は望ましい。市場との対話を通じて長期的な展望を確立し、市場の安定につなげてほしい。
14日の金融政策決定会合では政策金利を据え置いた。長期国債の購入規模は7月末に開く次回会合までは現状維持とし、その先は「長期金利がより自由な形で形成されるよう」減らすことにした。次回会合で今後1〜2年程度の具体的な減額計画を決定する。
植田和男総裁は記者会見で、買い入れの減額が「相応の規模になる」と語った。決定まで時間をかける点には「丁寧に市場の意見も聞きつつ、7月に具体策を発表する」と述べ、市場との意思疎通を重ねたうえで本格的な国債購入の減額に着手する考えを示した。
日銀は3月まで11年続いた異次元緩和で国債を大量に買い続けた。保有する長期国債は590兆円規模に膨らみ、発行済み残高に占める割合は2013年当初の1割強から5割超に高まっており、主要国でも異常な状態にある。
日銀が国債を大量に保有したままだと市場の金利形成にゆがみが残る。長い目で財政運営の規律が緩む懸念もぬぐえない。保有資産を徐々に減らして金融政策の正常化に踏み出すことは評価したい。
今回の措置には円安対応の色彩もにじむ。4月の会見では植田氏が円安の影響を軽視している印象を与え、円売りに拍車がかかった。14日の会見では「最近の円安の動きは物価の上振れ要因であり、政策運営上、十分に注視している」と強調した。
政府と歩調を合わせて円安への警戒を示す意味は大きい。ただし円安阻止を目的に一気に資産圧縮を進めると長期金利が急伸し、市場や経済が混乱しかねない。重要なのは、保有国債の適正化に向けた長期的な視点での展望を練り、市場の不安を和らげる工夫だ。
植田氏は追加の利上げを巡っては「見通しにおおむね沿ったデータの出方になっているが、もう少し確認したい」と語り、景気や賃金・物価を見極める考えを示した。ここでも政策金利の最終的な到達点のイメージを広く伝える努力を続けてほしい。結果的に市場の安定への近道になるはずだ。