FRBは利下げの時機巡り熟慮を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の日経社説。

 

比較的説得的だが、問題なしとしない。

 

確かに、一方で、先週末金曜日に発表されていた

5月米雇用統計では(失業率上昇を除き)

市場予想をかなり上回る強い結果となり、

他方で今週水曜日夜に公表されたばかりの5月米CPIでは

今度は市場予想を下回るインフレ減速を示す弱い結果となるなど

まちまちの経済指標の中で、

容易ではない今週木曜日早朝のFOMCではあったが、

金融引締めを直ちには緩めない姿勢を示した

パウエルFRBの手綱裁きは

少なくとも合格点には達していると評価すべきだろう。

 

(もっとも、パウエルFRBのアキレス腱(2+2=2.5 !?)

未だに残っていると言わざるを得ない。)

 

筆者も気になって、テイラー・イエレン流の

CPIと失業率という月例データを使用できるタイムリーな

現在あるべき米政策金利を改めて求めて見たところ、

5月米失業率4.0%と5月総合CPI前年比+3.3%を使用すると

あるべき米政策金利は5.13%となり、

確かに2か月前の3月米失業率3.7%

同月CPI+3.5%を使用した

3月時点でのあるべき米政策金利は+5.61%であったため、

なるほど1~2回の利下げが

5月時点でも可能でなくもないことが理解できる。

 

もっとも、ワシントンDCにあるブルッキングス研究所の

ブルックス研究員の指摘によれば、

米CPIの季節調整にはコロナ禍以降に年初に厳しい数値となり、

その後穏やかな数値が続くという歪みが

2年連続で生まれてきているように見受けられるため、

昨年10月のCPIデータがそうだったように、

今年5月CPIデータという単月のデータだけで

趨勢的な動きを判断するには

あまりにも時期尚早であり、パウエル議長自らが

「一つの数値にすぎない」と明言した点は心強い。

 

いずれにしても、問題は、FRBではなく、

むしろ我が国の日銀の金融政策にあるとみるべきだ。

 

変動為替相場制の下では、

同制度が本来持つ「隔離効果」によって、

我が国の金融と財政政策を駆使すれば、

外的なショックからは、

GDP世界第3位や第4位に既に落ちぶれてしまったとはいえ、

大国の日本の経済が物価と通貨安定ならびに

持続的な成長を達成できないはずはない。

 

例えば、2022年春にFRBとともに

金融政策の正常化に動きだしてさえいれば、

現在の大幅円安と日本経済のインフレ加速を

上手く制御できた可能性が高い。

 

だが、2%を既に大きく上回り、

加速するばかりのインフレの中で、

マイナス金利を解除しただけで、

事実上のゼロ近傍での政策金利を継続したままで、

今日の6月日銀会合で国債買取規模を微調整したところで、

通貨大幅安とインフレ加速をどれほど阻止しうるのだろうか。

 

誠に遺憾ながら、植田日銀は黒田日銀同様に、

日本経済にとっての物価と通貨の番人ではなく、

政府の番犬に過ぎないと懸念せざるをえない。

 

今日の日銀会合では植田日銀にそのような懸念を

払しょくしてくれることを大いに期待したいものだが…。

 

 

 

 

 

米連邦準備理事会(FRB)が政策金利の据え置きを決め、金融引き締めをすぐには緩めない姿勢を確認した。根強いインフレ圧力を踏まえ、利下げを始める時期を慎重に見極めようとするのは妥当な対応だろう。

 

先行きには不透明感も強い。経済・物価情勢をこれまで以上に入念に点検し、適切な政策判断につなげてほしい。

 

12日の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではメンバーが予想する経済・物価や金利のシナリオも更新した。2024年の物価見通しを引き上げたうえで、年内の利下げ回数の中心的な想定を従来の3回から1回に減らした。

 

米国のインフレは今年1〜3月に減速が止まった。パウエルFRB議長は記者会見で利下げに動くべきかどうかを巡り、インフレ収束に向けて「確信を得るには、まだ時間がかかる」と語った。

 

足元では12日発表の5月の消費者物価指数で上昇率が鈍るなど、改善の兆しもみえる。パウエル氏は「正しい方向への一歩だが、1つの数値にすぎない」と述べ、判断を急がない意向を示した。

 

米国では5%超の高い政策金利がすでに1年ほど続く。景気は底堅さを保つが、個人消費などに弱含む気配もみえる。労働市場では雇用増や賃金上昇が続く一方で、企業からの求人は減り始めた。

 

利下げは早すぎるとインフレの再燃を許し、遅すぎると景気の失速を招く。物価に細心の注意を払いつつ、景気の軟着陸を確かなものにするためにも政策変更のタイミングを熟慮してほしい。

 

市場は米利下げの開始を秋以降と読む。ユーロ圏やカナダはすでに政策金利の引き下げに動いた。主要国で金融政策を巡る方向性の違いが大きくなると、新興国や途上国を含めた国際的な金融市場に影響が及ぶ可能性もある。円安が長引く日本も無関係ではない。

 

各国は20カ国・地域(G20)などの舞台で国境をまたぐ資金の動きに目を配り、市場や金融の安定を確保するよう努めるべきだ。