意図せざる「銀行国有化」は早期解消を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の日経社説。

かなり説得的。

ご参考まで。

 

山形県のきらやか銀行を傘下に持つじもとホールディングス(HD)は6月下旬の株主総会で、議決権の63%を国が握る見通しだ。2024年3月期に無配に転落したため、国が公的資金の見返りとして保有する優先株に議決権が生じる。事実上の「国有化」は本来避けるべき異常な事態だ。

 

きらやか銀はリーマン危機や東日本大震災に際して公的資金に頼った。震災後に仙台銀行と統合し、じもとHDが発足したが、最近も業績悪化を受け23年9月に180億円の公的資金を注入された。その結果、じもとHDが抱える公的資金は現在780億円に及ぶ。

 

昨年時点ではじもとHDの24年3月期決算は黒字転換する計画だったが、きらやか銀の取引先の相次ぐ破産などで損失が膨らみ、200億円超の最終赤字になった。

 

国が公的資金の見返りに持つ優先株は通常なら議決権が無いが、無配のときに議決権が生じる。じもとHDが無配に陥る結果、国の議決権が63%に達する。

 

巨額の赤字を出すのは経営の失敗であり、公的資金を抱える企業ならその責任は一段と大きい。じもとHDときらやか銀の経営陣が引責辞任するのは当然だ。

 

金融庁が最後に公的資金を注入してから1年もたたない。にもかかわらずじもとHDの赤字がかさみ、公的資金の返済期限の延長も取り沙汰されている。公的資金を入れるときの見通しは甘くなかったのか、監督は十分だったのか。行政も責任は免れない。

 

企業や家計に資金を届ける銀行は経済の要であり、収益を競う民間企業が担うのが健全な姿だ。国が63%の議決権を握る状態は望ましくない。じもとHDは手立てを尽くして経営を立て直し、早期の復配で脱「国有化」してほしい。

 

銀行の実質国有化の例に03年のりそなHDがある。政府が預金保険法に基づき金融危機対応会議を開き、危機を防ぐ意志を示して議決権取得を決めた。

 

じもとHDは金融機能強化法に基づく対応で、明確な意図は示されず、無配転落でなし崩し的に「国有化」に至るように映る。関係者は説明責任を果たすべきだ。

 

金融機能強化法で公的資金を受けた地方銀行はなお数行残る。公的資金を支えに地域に潤沢な資金をもたらす意義はあるが、確実な返済が大前提だ。じもとHDの「国有化」を、各行が経営を締め直すきっかけにしてほしい。