インド総選挙 強権統治の限界みえた | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アセモグルら)

掲題の今朝の朝日社説。

かなり説得的。

 

もっとも、日本はインド同様に

自由民主主義とはいえず、

今回の与党自民党を中心とした

政治とカネのスキャンダルに見るように、

既に、選挙権威主義に分類されてしかるべきなのかもしれない。

 

いずれにしても、ご参考まで。

 

 

 民意に丁寧に向き合わず、強権的な統治を進めれば、多くの国民が背を向ける。3期目を確実にしたインドのモディ首相は、この教訓を胸に刻む必要があろう。

 

 5年に1度の総選挙が開票された。543議席のうち、モディ氏が率いるインド人民党は240を得た。前回より60以上少なく、10年前に政権に就いて以来初めて単独過半数に届かなかった。

 

 与党連合で290議席超と、かろうじて下院の多数を維持した。一方、国民会議派を軸とする野党連合は230議席以上と躍進した。モディ氏は「国民は我々に全幅の信頼を寄せた」と胸を張ったが、薄氷の勝利だった。

 

 モディ政権はインフラ整備や製造業の育成、外資誘致に熱心に取り組んだ。この10年でインドのGDPは世界10位から5位に伸び、モディ氏は次の任期中に日独を抜いて3位にすると強調していた。

 

 だが、1人当たりのGDPは今でも中国の5分の1に満たない。人口の1割が貧困層とされ、都市と地方の不均衡など課題は残されたままだ。

 

 経済成長の陰で拡大する格差の弊害を覆い隠そうと、宗教対立をあおり、少数派の抑圧と引き換えに多数派の支持を固めようとしたのではとの疑念も拭えない。

 

 実際、人民党が掲げるヒンドゥー至上主義はインド国内の亀裂を深めている。モディ氏は1月、モスク(イスラム礼拝所)の跡地に建てられたヒンドゥー教寺院に支持者を集めて落成式典を開いた。選挙集会では、人口の約14%を占めるイスラム教徒を「侵入者」と呼んだ。

 

 多民族、多宗教のインドをまとめ、安定的に発展させるには、多様な民意に目配りする営みが欠かせない。モディ氏は、信仰の自由を保障し、民族の統合と統一を促進するとしたインド憲法の理念に立ち返らねばならない。

 

 モディ氏が自賛する「世界最大の民主主義国の内実にも疑問符がつく。選挙を前に今年に入り、野党指導者が続けて逮捕された。スウェーデンの調査機関はインドについて「自由民主主義」ではなく、選挙制度はあるが自由や公正さに欠ける選挙権威主義」に分類している。

 

 インドは非同盟を貫きつつ、近年は人口や経済規模から新興・途上国の代表格として影響力を増している。中国との対抗を意識して、日米などはモディ政権を取り込もうとしている。だが、それは自由や民主主義、法の支配など基本的価値を共有していることが前提だ。問題を直言できる関係をインドと築きたい。