米国と中国 制裁関税よりも対話を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アセモグルら)

掲題の今朝の朝日社説。

かなり説得的。

 

もっとも、バイデン現政権でなく、

トランプ新政権になれば、

一段と中国向けの制裁関税の動きが

増幅するおそれがある。

 

異次元の金融緩和で近隣窮乏化政策を

推し進めてきたと見ざるを得ない

日本政府・日銀はトランプ新政権となれば、

中国向けだけでなく日本向けの

報復関税を仕掛けてくる恐れなしとしない。

 

最近の日本の覆面ステルス為替介入は

ドル売り・円買いではあるものの、

米国との協議が一切ない日本単独のドル売り介入

そのものがアンフェアであり反米的だとして、

異端のトランプなら何を切り出してくるかも予断を許すまい。

 

米国は現在インフレと米通貨高で、

朽ちた中西部製造業地帯を中心に、

特に11月の大統領選前に

保護主義のうねりは高まることさえあれ、

収束していくとみることは期待し難い。

 

貿易と通貨はコインの裏表である。

貿易取引は最終的には通貨間の交換比率である

二国間の為替レートを媒介にして決済されるからだ。

 

米国と中国との対話を促すことは重要だ。

しかし、対話のない日本通貨当局による

覆面ステレス通貨介入ではなく、

我が国と米国との通貨・貿易・経済面での対話こそが

まず第一に重要であることを

同社説は忘れてしまっているのではあるまいか。

 

いずれにしても、ご参考まで。

 

 

 

 

 

   選挙目的の露骨な保護主義というほかない。自由貿易を主導してきた米国が自らルールを破るのは今に始まったことではないが、今回は目に余る。世界経済全体をも冷え込ませかねない危うさをバイデン大統領は認識すべきだ。

 

 中国からの電気自動車(EV)や半導体などの輸入品について、バイデン政権が「不公正な貿易慣行」を理由に高関税をかけると決めた。中国の対抗措置も予想され、貿易戦争の再燃が懸念される。

 

 対中制裁関税はトランプ政権だった2018年以降、様々な工業製品、農産品に課してきたが、最大25%だった。それをEVでは100%、レガシー半導体や太陽光パネルは50%と、尋常ではない高さまで引き上げるという。

 

 中国政府の多額の補助金で中国企業の生産能力が過剰になり、不当に割安な輸出品のはんらんを招いている――。バイデン政権が制裁関税を正当化する理屈である。

 

 だが、EVについていえば中国製は米国にほとんど輸入されていない。具体的な損害もなく、予防と称して自由貿易の原則に背いた措置をとるのは理解しがたい。

 

 米自動車各社が拠点を置くミシガン州や鉄鋼生産の中心地ペンシルベニア州は大統領選の激戦州である。製造業の雇用を守る姿勢をとり、「対中強硬」を演じることで、11月の大統領選で政権奪還を狙うトランプ氏に対抗する意図があるのは明らかだ。

 

 一方、習近平(シーチンピン)政権が「中国製造2025」と銘打って産業振興の旗を振り、自国企業に補助金や減税などの優遇をしてきたのも事実だ。

 

 それでも、過剰生産能力は、中国経済の全体構造の問題としてとらえるべきだ。高い貯蓄率を背景に投資主導型の成長を続け、国内消費が弱い。結果として中国製品が国外に浸透している面がある。

 

 さらに投資の柱だった不動産分野が不振となり、習政権は国内消費を喚起すべきところ、逆に「生産力」を強調している。習氏が「過剰生産問題は存在しない」と反論するのは無理がある。

 

 中国で消費を引き上げる根本策は貧富の差の縮小にあり、そのために例えば社会保障の充実が求められると多くの専門家が指摘している。

 

 先月、イエレン米財務長官が訪中し、「バランスのとれた経済成長」について対話を進める合意をしたばかりだ。その意味でもバイデン政権の対中外交は一貫性を欠く。

 

 優先すべきは、国内政治の都合で中国を「罰する」より、中国に改革を促すことであるはずだ。