失われた30年の教訓 人材生かす経済に転換を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の毎日社説。

 

一理あるものの、

問題なしとしない。

 

日本経済の長期停滞を決定付けたのは、

必ずしも平成バブル崩壊だけではない。

 

ましてや、人材や不確実性などという

恣意的で曖昧模糊としたものではあるまい。

 

なかんずく、精神論ではない。

 

そうではなく、もっと、経済原則に反する

客観的な足枷や制約条件があるはずだ。

 

例えば、令和バブルは平成バブルを

株価面では2024年3月に既に超えたが、

平成バブル崩壊前の三重野元日銀総裁による

バブル退治に懲りたからといって、

異次元金融緩和で円安・株バブルを再び煽ってみても、

日本の物価安定と持続的経済成長の果実は

いつまで経っても見込めない。

 

日本の長期停滞の根源には

GDPの約6割も占める消費の長期停滞がある。

 

消費の長期停滞は平成バブル生成・崩壊で

はじまったわけではない。

 

また、消費の長期停滞と

人材や人的資本の形成・育成問題とはほぼ無関係だろう。

 

①我が国経済の最大の問題とみて間違いない消費長期停滞は、

特に、1997年4月の消費税率5%への恒久的引き上げで

一段と悪化したことは明らかである。

 

5%消費税直後に日本経済のマイナス成長と

大幅円安が生まれ、

同時にドル高に連れ高となったタイバーツを

はじめとする東南アジアや東アジアの主要国を巻き込む

アジア地域のほぼ全面的な通貨危機が発生した。

 

しかし、それだけにとどまらず、

アジア通貨危機が次にはブーメランのように日本経済に

跳ね返ってきて我が国の深刻な景気悪化や

金融危機を引き起こす日本を取り巻く

アジア経済地域全体の悪循環にまで

増幅したことは誠に驚きだった。

 

特に、1998~1999年の連鎖的な日本の金融破たん

(山一証券倒産、北海道拓殖銀行のみならず

日本長期信用銀行などが次々に廃業に追い込まれた)の

悪夢を知らない人は皆無ではないだろうか。

 

②加えて、消費長期停滞が次に深刻化したのは、

2014年4月における消費税率の

8%への恒久的引き上げ時だった。

 

アベノミクスの1丁目1番地であった

異次元金融緩和は2013年4月に既に開始されており、

当時の急激な円高は反転し輸出主導で景気回復に向かい、

ほぼ1年間で2%インフレ目標政策はほとんど達成されていた。

 

しかし、誠に遺憾ながら、

アベノミクスはその開始後の1年後には

消費税率の8%への恒久的引き上げを断行し、

日本経済は再び厳しい景気後退に陥り、

当時の黒田日銀総裁はハロイーン・バズーカ砲を放ち、

その後に異次元金融緩和の際限のない増幅は、

マイナス金利やイールド・カーブ・コントロールという

長期金利の釘付け政策にまで及んできたことは周知の事実。

 

結果、いまや日本通貨の大幅安や

平成バブルを超えた令和の株高などの

資産バブルは乱高下・増幅するばかりで、

政府・日銀はいまや日本経済のみならずその金融市場を制御できない。

 

その典型例こそが、2024年の昭和の日に当たる

昨日4月29日の政府財務省による覆面での

ドル売り・円買い介入ではなかったか。

 

政府日銀はマクロの財政と金融政策で日本経済を的確に制御できず、

我が国の株式市場、国債市場、そして為替市場にも直接大規模介入に忙しい…。

 

明らかに、日本はいまや政治、経済、金融面での戦後最大の危機に直面しており、

その帰結は容易ならざるものになることは不可避であろう。

 

いずれにしても、失われた30年の教訓は、誠に遺憾ながら、

「人材生かす経済に転換を」と主張する同社説には存在しまい。

 

それは①通貨急落とインフレ加速、

②消費長期停滞、

③少子化という3重苦に苦しむ日本経済を救う、

①金利の正常化および

②消費税撤廃に向けた消費税率の5%への恒久的引き下げという

明確で客観的なマクロ経済政策面でのポリシー・ミックス以外にあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 景気の長期低迷による「失われた30年」から抜け出せるかどうかの正念場だ。経済の活力を取り戻すには、国や企業が過去の失敗を真摯(しんし)に反省し、人を重視した社会に転換する必要がある。

 

 円相場が約34年ぶりの安値水準に沈んでいる。日米の金利差が背景とされるが、日銀が17年ぶりに利上げしても、相場の流れは変わらなかった。春闘は2年連続で大幅な賃上げとなったが、物価高に追いつかない。家計は生活防衛を強いられ、「日本は貧しくなった」と感じる人が増えている。

 

 「世界第2位の経済大国」は遠い昔の話となった。来年には国内総生産(GDP)でインドにも抜かれ、5位に転落する見通しとなっている。

 

 なぜこうなったのか。

 

 著書「日本の経済政策」で失われた30年を検証した小林慶一郎・慶応大教授は「国も企業も目先の成果を追うことにこだわって道を誤った」と分析する。

 最大の誤りは、バブル崩壊後の1990年代以降、企業が長らく働き手をコストとしか見なさず、人員削減や正規から非正規雇用への切り替えなどを進めたことだ。

 

 当時は、中国の台頭などで経済のグローバル化が加速し、対応を迫られていた。国際競争力が低下する中、収益確保の「即効薬」としてリストラに走った。新卒採用も大幅に絞られ、いわゆる氷河期世代を生んだ。

 

 政府・日銀の政策も的外れだった。大型の財政出動が繰り返されたが、景気刺激効果は一時的で国の借金を膨らませただけだった。

 小泉純一郎政権は「聖域なき構造改革」を旗印に不良債権処理を加速させたものの、経済を底上げできなかった。むしろ新自由主義的な発想で進めた雇用改革などが格差を拡大させ、消費者心理を悪化させた。

 

 約11年に及ぶ日銀の異次元の金融緩和策の副作用も大きい。脱デフレを掲げる第2次安倍晋三政権が推進したアベノミクスの看板政策だった。国債を大量購入し、市中に出回るお金の量を増やしたが、物価上昇率を2%に上げる目標をなかなか達成できなかった。

 

 円高の是正や株価回復で潤ったのは輸出企業や富裕層ばかりで、恩恵が国民全体に広く行き渡るトリクルダウンは起きなかった。格差が広がり、経済や社会を支える中間層を細らせた。

 

 「金利のない世界」が常態化したことで、政府は国債の金利負担を気にせず、バラマキ的な財政支出を続けた。

将来不安の払拭が必要

 多くの企業は資金調達が容易になったにもかかわらず、低収益の事業を継続した。リスクを覚悟で画期的な事業に挑むアニマルスピリットが失われた。

 

 国の財政の悪化や、企業の人件費圧縮の姿勢は働き手の将来不安を高めた。年金や医療など社会保障制度の持続可能性が疑われ、所得も増えない中、個人消費が盛り上がらなかったのは当然だ。

 

 長期低迷から脱するためには何が必要か。

 

 小林教授は「働き手が安心して力を発揮できるよう、国や企業は不確実性の払拭(ふっしょく)に努めるべきだ」と指摘する。

 

 政府は財政規律を取り戻し、社会保障制度改革に真正面から取り組む。企業は社員教育など人材投資を強化する。こうした対応こそが求められている。

 

 経済的な事情などで希望する仕事に就けなかった人が、キャリアアップを目指せる仕組みも不可欠である。

 

 国は新たな知識や技能を身につけるリスキリングへの支援を打ち出す。企業や大学と連携を強め実効性を高めるべきだ。北欧のように全額を公費で賄い、無料で学べるようにするのも一案だろう。

 

 起業に失敗した若者らの再起を支える政策も充実させなければならない。

 

 人口が減り続ける日本が生き残るには、年齢や性別、国籍に関係なく、一人一人が活躍できる社会を構築するしかない。希望をもって働ける環境を取り戻すことこそが、失われた30年の教訓を生かす道である。