【日本市況】日経平均1000円安、中東緊迫化でリスクオフ-金利が低下 | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今日引け後のブルーンバーグ記事。
ご参考まで。
 
上野英治郎

更新日時 

 

19日の金融・証券市場は中東情勢の緊迫化で一気に安全資産需要が膨らみ、日本株が急落して日経平均株価は終値で1000円を超す値下がりとなった。リスクオフで債券が買われ、円も上昇している。

 

イスラエルがイランに報復攻撃と米当局者-イラン国内報道は抑制的

The Tel Aviv Stock Exchange As Tensions Between Israel And Iran Hit Mark Sentiment

イスラエル国旗(テルアビブ市内)

Photographer: Kobi Wolf/Bloomberg

 

  台湾積体電路製造(TSMC)の半導体市場見通しの引き下げと米連邦準備制度理事会(FRB)高官のタカ派寄りの発言を受けて下落して始まった日本株は、中東情勢がエスカレートしたことで下げが加速した。地政学リスクの悪化で米国の長期金利が時間外取引で急低下、日本国債も買い戻しが優勢になった。為替相場では円が対ドルで買われた。

 

  米金融政策や中東情勢、日本株をけん引していた半導体市場の先行きという内外のリスク要因が一気に顕在化した。日本銀行の金融政策決定会合を来週に控え原油価格も上昇しており、各市場価格の大きな変動は日銀の政策判断に影響を与え得る。日本企業の決算も来週から始まることで、相場の変動要因が重なる。

 

日銀の年内利上げ予想が8割占める、最多10月は4割に増加-サーベイ

 

  SMBC信託銀行の山口真弘シニアマーケットアナリストは日本株の急落について、日本企業のファンダメンタルズよりも地政学リスクやTSMCの見通し引き下げが嫌気されており、投資家心理の変化による影響が大きいと電話取材で指摘した。報復の連鎖につながれば瞬間的な下落が続くため、投資家心理的にも良くない展開だと見ている。

 

  リスクオフの動きは暗号資産(仮想通貨)にも波及し、ビットコインは一時6%超下落、イーサやソラナに加え、ミームコインとして人気のドージコインも値下がりした。一方、相対的にリスクが低いとされる資産の需要が高まり、金相場は急伸し最高値に迫った。

 

19日の金融・証券市場の動き-午後3時
  • 東証株価指数(TOPIX)終値は前日比1.9%安の2626.32
  • 日経平均株価は1011円35銭(2.7%)安の3万7068円35銭
    • 一時3.5%、1346円安に
  • 長期国債先物6月物は前日比26銭高の144円67銭で終了
    • 一時は144円92銭まで急上昇
  • 新発10年国債利回りは3ベーシスポイント(bp)低い0.835%、一時0.825%と10日以来の低水準を付けた
  • 円は対ドルで0.2%高の1ドル=154円30銭
    • 一時前日比0.7%高の153円59銭

株式

  東京株式相場は急落し、日経平均終値の下落率は約1年半ぶりの大きさとなった。イスラエルがイランに対しミサイル攻撃を実施したとの報道を受け、投資家の投げ売りが加速した。

 

  中東情勢の不安定化に対する懸念や半導体受託生産大手のTSMCが前日に今年の半導体市場の成長見通しを引き下げたほか、FRB高官によるタカ派寄りの発言で利下げ観測が低下したことなどを受け、市場ではリスク回避ムード一色となった。

 

  日経平均は最高値を付けた3月22日終値からの下落率が9%を超え、調整相場入りを示す10%に近づいている。

 

  三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは「イランが報復する可能性もあり、泥沼化する懸念がある」と指摘した。被害状況がまだはっきりせず、展望ははっきりしないが、「リスクを取っていた人はポジションを落とすだろう。イスラエル内部の政権交代などがないと終わらないのではないか」と話していた。

 

  レーザーテック、東京エレクトロン、ディスコといった半導体関連株の下落が目立った。トヨタ自動車を含む自動車株も安い。半面、中東情勢の緊迫化で運賃が上昇するとの思惑から日本郵船をはじめとする海運株、原油高からINPEXといった鉱業株は値上がりした。

半導体関連株が大幅安、TSMCが24年の市場成長見通し下げる

 

日経平均株価の日中足チャート

 

 

債券

  債券相場は上昇。中東情勢の緊迫化を受けて米国債が時間外取引で急上昇し、日本国債にも買い戻し圧力が強まった。金融市場でリスク回避の動きが広がり、安全資産としての債券需要が高まった。

 

 SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジストは、リスク回避に伴う金利低下は持続しないとみているが、イスラエルとイランの報復の応報がエスカレートした場合は次元の違う話になるため、一段と金利が低下するリスクもあり、「まさに中東情勢次第で予想できない」と言う。

新発国債利回り(午後3時時点)

  先物 2年債 5年債 10年債 20年債 30年債 40年債
  144円67銭 0.255% 0.450% 0.830% 1.590% 1.875% 2.215%
前日比 26銭高 -1.5bp -2.0bp -3.5bp -3.5bp -3.5bp -2.5bp

債券先物の日中足チャート

 

 

為替

  東京外国為替市場の円相場は、リスク回避の円買い一巡後に上げ幅を縮小。対ドルで一時前日比0.7%高の153円59銭を付けた後は、154円台前半まで戻している。

  あおぞら銀行の諸我晃チーフマーケットストラテジストは、中東での対立エスカレートへの懸念から、リスク回避の株下落、金利低下、ドル買い・円買いになったと指摘。「円売りのポジションが膨らんでいたこともあり、より米金利低下に反応し、円は対ドルで上昇した」と言う。

 

  ただ、各施設には関係がなかったことへの安心感でドルの下げが一巡すると、「ファンダメンタルズ的には利下げの遠のくドルの先高観から、ドルを押し目で買う動きが出やすい」と述べた。

ドル・円相場の日中足チャート

 

 

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