バイデン大統領の「米国第一」も心配だ | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の日経社説。

一理あるものの、問題なしとしない。

 

基本的人権に立脚して、

民主主義と自由を守り、

民間主導の市場資本主義を堅持することで、

政治経済体制を日米共に

一段と発展させていくことが望まれる。

 

(国家資本主義やかつての帝国資本主義に回帰することなど、

日米をはじめとして先進主要国G7ではあってはならない。)

 

しかし、いずれの主要先進国であっても、

自国第一主義こそが望ましい。

他国を優先して、自国を蔑ろにすることほど、

自己矛盾する政策姿勢はあるまい。

 

問題は、自国を最優先としつつも、

近隣窮乏化政策に陥らず、

win-winの国際関係をいかにして構築するかにある。

 

翻って、同社説は、我が国こそが自由貿易体制の

最大の擁護者であるかのように主張しているかにみえる。

 

しかし、貿易通貨はコインの裏表である。

貿易は為替レートを媒介として、最終的に決済される。

国際貿易と国際金融では、貿易と通貨は切り離せない。

 

確かに、日本の関税率は、

米国等のそれと比較して、低位水準にある。

 

しかし、日本円は対ドルでも150円近傍にあり

購買力平価と比較して明らかに大幅な割安水準にある。

 

各国通貨を総合した名目実効為替レートや

諸外国との物価を加味した実質実効為替レートでみると

日本の実質実効為替レート(物価水準)は

1970年代の変動為替相場制移行後の最安値圏にある。

 

したがって、我が国がいくら関税率でみて

自由貿易の旗手だと自賛しても、

日本の通貨安は(世界の)自由貿易体制を

近隣窮乏化政策で脅かしているとみざるをえない。

 

2016年の米大統領選挙では、

当時の円安・ユーロ安に対するドル高を背景に、

朽ちた中西部の白人ブルーカラー層の不満が爆発したこと等で、

異端の前トランプ大統領誕生の遠因を形成したと

筆者は当時から主張してきている。

 

米大統領選を控える2024年は

円安とドル高が際立っている。

 

ユーロは対ドルでは比較的安定して推移してきている。

2022年以降、日本とはことなり、

欧米はほぼ同じように利上げに転じてきているからだ。

 

翻って、2016年当時も2024年の今も日本銀行は

マイナス政策金利を含む異次元金融緩和に拘泥してきている。

 

しかし、2024年現在、日本のインフレは

既に過去2年間も2%物価価目標を超えて、特に、

一時的な要因を除く生鮮食料品やエネルギーを除く

コアコアCPIは2024年1月でも3%をかなり超えている。

 

2022年以降、G7先進主要国がおしなべて

2%を超えるインフレに直面しているにもかかわらず、

マイナス政策金利に拘泥して、

インフレ調整後の実質ベースでの長短金利のイールード・カーブ全体を

大幅なマイナス圏に沈めているのは日本以外には存在しない。

 

その結果が日本円のこれまでの大幅な独歩安と、

インフレ高進と最近の資産バブルの沸騰に他ならない。

 

すでに、近隣窮乏化的な、過度な金融緩和政策による

通貨安政策は日本でもインフレを生み

自国の一般消費者を生活費高騰の危機で苦しめる、

自国窮乏化政策に陥っている。

 

いずれにしても、同社説が日本が通商国家として

自由貿易体制の守護神であるかのように

主張するのは眉唾と言わざるを得まい。

 

要するに、バイデン大統領の「米国第一」主義を懸念すると同程度に、

岸田政権と植田日銀に(「大日本帝国第一」主義ならぬ)、

我が国の「上級国民第一」主義に注文を付けるべきだろう。

 

 

 

 

民主主義と自由を守るために米国は戦う。現職の大統領がこう力強く宣言したことには勇気づけられる。半面、自国を優先する内向きの論理が一部に根強い点に不安を覚えたのも事実である。

 

バイデン米大統領が連邦議会の一般教書演説に臨んだ。演説はこの先1年間、どんな政策に取り組むかを議会に伝えるのが目的だ。今回は11月の大統領選に向け、共和党候補の指名を確実にしたトランプ前大統領への対決色を鮮明にしたのが最大の特徴だった。

 

「自由と民主主義が国内外で同時に攻撃を受けている」。バイデン氏はウクライナ侵攻を続けるロシアと、2020年大統領選の結果を否定するトランプ氏を同列に並べて批判した。

 

バイデン氏がウクライナ支援を継続するための予算成立に共和党の協力を呼びかけたのは当然だ。米国が手を引けば、バイデン氏が言うように危険にさらされるのはウクライナだけにとどまらない。

 

演説の場には、北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟したばかりのスウェーデン首相の姿もあった。防衛費の負担が不十分なNATO加盟国を守らない可能性に言及したトランプ氏と好対照を打ち出す演出といえる。欧州諸国も安心したに違いない。

 

気がかりなのは、産業・通商政策での変わらぬ保護主義的な姿勢だ。自国の製品を優遇する「バイ・アメリカン」の政策が成功していると自賛したことが、それを象徴する。中国に対する貿易赤字が減ったと誇示したのもトランプ氏をほうふつとさせる。

 

バイデン、トランプ両氏は世界の安定に米国が果たす役割や民主主義に関する見解は大きく異なるが、経済政策が自国優先の色彩をまとう点は共通する。バイデン氏が再選すれば、こうした政策が続くのは間違いない。

 

バイデン氏が演説で日米同盟の強化に触れたのは歓迎したい。同時に通商国家として繁栄を享受してきた日本は、米国が背を向ける自由貿易を守る覚悟も試される。