小澤さん逝く 音楽で世界を近づけた | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の朝日社説。

極めて説得的。

ご参考まで。

 

 

 小澤征爾さんの訃報(ふほう)が届いた。西洋の名だたる交響楽団や歌劇場で一時代を築き、日本の音楽家として突出した成功を収めた人である。

 

 指揮者という稀有(けう)な存在の意味について、改めて考えずにいられない。

 

 音楽の歴史は古いが、職業指揮者が登場したのは19世紀以降のことだった。楽器を持たず、音一つ発することもない「音楽家」の存在を疎む風潮もあったと聞く。

 

 それがいまや、「悪いオーケストラはない、悪い指揮者がいるだけ」などと言われるほどの重責になった。時に100人もの個性の強いプロの奏者たちを率いて音を操り、すべての責任を引き受ける。

 

 そんな厳しい世界で小澤さんが名声を得られたのはなぜだろう。膨大な勉強量、楽曲を深く理解して独自に表現する力、魅力的な人柄。理由はいくらでも挙がるだろうが、同じく世界の第一線で活躍し共演もしたピアニスト・内田光子さんの言葉が印象的だ。

 

 「小澤さんは、とにかくものすごく指揮がうまい人です。本当に『極端にうまい』と言っても良いくらい、指揮がうまい」。そう評して、こう続ける。「オーケストラで弾いている楽員たちを呼吸させるのがうまいんですね」

 

 ほかの奏者からも「呼吸感のある指揮は分かりやすく、余計なストレスもなく指揮姿からすべてを感じ取り演奏をすることができる」との声があがる。当の小澤さん自身も「息をみんなにうまく吸ってもらう」のがいい指揮者だと語っていた。

 

 わずかな狂いも許されない張り詰めた緊張感のただなかで、無理強いすることなく大勢の人を生かしながら動かし、自身が理想とする高みへと引き上げる。

 

 そのために、だれもが無意識にやっているはずの「呼吸」が重要だという視点には意表をつかれる。しばしば組織のリーダーにもなぞらえられる指揮者の仕事の奥深さを実感する。

 

 新幹線もなく国内移動すらままならぬ時代に世界へ飛び出した小澤さんは、クラシック音楽になじみのない人々の希望をも背負う立場だった。

 

 それでいて、「世の中の人よりもっとお風呂の中で歌をうたう音楽の良さを忘れかけているのではないかと思ったりする」と自らを省みる。上り詰めてなお、おごることなく多くの人たちをその懐に招き入れ、率直に生きた。

 

 長野県松本市水戸市に新たな芸術文化を根付かせ、内外で後進の教育にも力を注いだ。その足跡には、いまも多くを教えられる。