今週のウィークリー:パウエルFRBは再利上げに迫られる!? | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

遅ればせながら、「今週のウィークリー:パウエルFRBは再利上げに迫られる!?」をお届けいたします。

ご参考になれば幸甚です。

中丸ウインク

 

 

2024年2月5日

 

「節分天井・彼岸底」今年は違う?

 

野村証券の証券用語集によれば、「節分天井・彼岸底」とは、「節分の時期(2月上旬)に高値をつけて、彼岸の時期(3月中旬)に安値をつけるという、相場の言い伝え」であり、年初から新春相場が始まると、節分の時期まで上昇を続け、その後は3月決算などのイベントを控え調整局面になり、しだいに下落していくという相場の動きを言い表している」とのことです。

 

2024年の節分は、先週末土曜日の2月3日でした。今年の彼岸は3月20日の春分の日に当たるのでしょうか。いずれにしても、問題の核心は、相場格言にある「節分天井・彼岸底」とは、今年は違うのか、否かということではないでしょうか。

 

熱すぎる米労働市場 vs 慢心し続ける国際金融市場

 

折しも、日本時間で先週金曜日夜に公表された米1月雇用統計では、かなりのポジティブ・サプライズが生まれました(添付資料①ご参照)。明らかに、米労働市場の需給は極めて引き締まってきているようです。

 

同統計に対する筆者の第一印象は、それは驚きに違いないものの、やっぱりそうかという、想定内という感じを否めませんでした。[1]むしろ私が驚いたのはVIX(恐怖指数)が13%台に一段と低下して、市場の慢心がかえって再強化されたかに見えたことでした。なお、恐怖指数の過去の平均値は20%前後です。

 

いずれにしても、米1月雇用統計の特徴は次の3点に絞られるでしょう。 第一に、非農業部門の就業者数が前月比で35万3000人増え、伸びは市場予想の18万人程度を大きく上回りました。また、2023年11月は18万2000人増、12月は33万3000人増に、これらも大幅修正されました。

 

第二に、失業率は前月と同じ3.7%でしたが、市場予想の3.8%を下回りました。24カ月連続で4%を下回るのは1970年以降で初めてとなると別添の日経記事は指摘しています。

 

第三に、平均時給が前年同月比で4.5%上昇し、市場予想の4.1%を大きく上回りました。特に、前月比で見ると0.6%も増加して、昨年12月の同0.3%上昇から一段と加速しました。なお、前月比+0.6%とは、単純年率でみても+7.2%の大幅上昇に相当します。

 

このように、明らかに物価上昇を大きく超える賃金上昇が生まれてきている米経済ですが、率直に言って、このままではアメリカでも英国で危惧されてきている賃金と物価との間のtit for tatの「しっぺ返し」戦略[i]という悪循環にさえ、今後陥りかねないリスクが米国経済でも台頭してきているのではとの懸念さえ生まれてきても不思議ではありません。

 

なお、もともと「物価高に負けない賃金上昇」という、極論とも言い得る日本の「しっぺ返し戦略」の落とし穴については後述します。

 

パウエルFRBが今年再利上げに迫られるリスクはゼロにあらず

 

本年初めてのFOMCを1月末日に終えたばかりのパウエルFRB議長に関して、「「3月までに確信できるレベルに達する可能性は低い」と早期の実施に否定的な姿勢を示した。」と2月2日付の日経社説は明言しました(参考②ご参照)。しかし、先週末の1月米雇用統計の結果を受けて、パウエルFRBは今年むしろ再利上げに迫られるリスクさえ、ゼロではなくなってきているではないでしょうか?

 

そもそも、米実質GDPは10-12月期に前期比年率3.3%の高成長を記録したことは、1月マンスリーで述べた通りです。昨年2023年の通年でも、2.5%増と市場予想を超える強さを示しました。

 

上図は、最新の米経済月例統計(失業率とCPI)を用いて、あるべき米国の政策金利推移を推定したものです。先週末に公表されたばかりの1月失業率と昨年12月CPI統計も同推定に反映されています。
 
たしかに、パウエルFRBの現在の政策金利水準は、筆者による最新の推定値5.5%とほぼ同じであり、(月例統計の失業率とCPIを用いたイエレン財務長官流の)テイラー・ルールと整合的です。
 
より重要なのは今後の米経済の行方であることは明らかですが、本日(本年2月5日)時点でアトランタ地区連銀は、GDPナウの中で、2024年1~3月期の米実質GDP成長率が前期比年率で+4.2%成長になると予測しています。
 
加えて、既述の通り、1月米労働統計では、前年比で+4.5%、前月比で+0.6%(単純年率で+7.2%)もの平均時給の大幅上昇が見られたことも既に判明してきています。
 
であれば、CPIで見たインフレが、今後何らかの要因で再加速しないとも限らず、パウエルFRBが今年は利下げどころか、再利上げに迫られるリスクも皆無とは言えないのではないでしょうか。
 
事実、米コアCPIは昨年12月まで前月比+0.3%上昇を2か月連続で記録してきています。米1月CPI統計は来週2月13日(火)に公表予定であり、かなり注目されます。
 

「パウエルFRBのアキレス腱」再説

 
なお、筆者は、かねてから、パウエルFRBにはかなり深刻なアキレス腱があると指摘してこざるを得ませんでした。既に昨年秋のウィークリーでも紹介済みではありますが、以下再説しておきましょう。
 
米経済はインフレ調整後の実質ベースで、6四半期連続で前期比プラス成長を続けてきています。特に、(個人)消費と(企業設備)投資という民間主導の持続的成長に不可欠な双発エンジンが好調を持続して、米経済の好循環が続いてきています。
 

しかし、FRBは昨年12月の最新の経済見通し要約(SEP(SUMMARY OF ECONOMIC PROJECTIONS))の中でも、9月までのそれまでと同様に、今後3年を超える長期の実質GDP成長率を1.8%、同じく長期のインフレ率を2.0%としました。

 

 

したがって、FRBは長期の名目GDP成長率がそれらを合算する3.8%と推定していることになります。

 

そうであれば、FRBが想定する中立政策金利は、名目で僅か2.5%に止まる筈はないではありませんか。過去の名目中立金利は歴史的な名目GDP成長率の平均値約5%とほぼ整合的であることが知られているためです。

 

いずれFRBは中立政策金利の引き上げに迫られるのでしょうが、金融市場の反応を恐れて、「触らぬ神に祟りなし」とでも決め込んでいるのでしょうか。

 

いずれにしても、FRBが中立の名目政策金利が2.5%に過ぎないと未だに見ている、客観的根拠の薄い推定値や前提が、金融市場の過度な慢心を招いていると解釈することも可能です。

 

これがルールベースの金融政策で最近では信頼を高めてきたパウエルFRBにもアキレス腱があると、筆者が常日頃から主張してきている根拠なのです。

 

筆者の懸念が杞憂に終わると願いたいものですが…。

 

 

 物価上昇に負けない賃上げ」は「しっぺ返し戦略」(tit-for-tat)の悪循環

 

さて、ここで日本経済の議論に円滑につなげるためにも、英国経済で言われて来ている、物価と賃金上昇を共に狙う経済戦略は、好循環よりもむしろtit for tat(しっぺ返し)戦略の中で悪循環に陥りやすいというリスクをここでおさらいしておきましょう。

 

(なお、本節の以下の記述はBingとBardを使用しています。)

 

英国経済で言われている、賃金と物価上昇とは好循環ではなく、tit for tat戦略の悪循環というのは、以下のような意味です。

  • 賃金と物価が相互に上昇することは、実質賃金や実質所得が増えることを意味しないので、個人の生活水準や将来見通しを改善することにはならない。
  • 物価上昇は輸入物価の高騰など一時的な要因によるものであり、経済の潜在成長率や労働生産性が高まらない限り、持続的ではない。
  • 名目賃金上昇は労働分配率を高めることで企業収益を圧迫し、雇用や設備投資を抑制することにつながる。
  • このように、賃金と物価の上昇は、経済の実力に見合わない名目値の操作によるものであり、結局は経済の停滞や不安定化を招くことになる。
  • これは、tit for tat戦略と呼ばれる、相手の行動に応じて同じ行動をとることで利益を最大化しようとする戦略の悪循環に例えられる。例えば、労働者が物価上昇に対して賃上げを要求し、企業が賃上げに対して値上げを行うというような状況である。

日本の物価上昇は、エネルギー価格や原材料価格の高騰、円安などの影響を受けています。政府は、物価上昇に負けない賃上げを労使代表者に要請していますが、これは物価と賃金の悪循環に繋がる可能性も指摘されています。

悪循環になる可能性:

  • 賃金上昇が企業のコスト増加に繋がり、更なる物価上昇を招く。
  • 物価上昇が家計の購買力を低下させ、消費の落ち込みに繋がる。
  • 消費の落ち込みが企業の収益悪化に繋がり、雇用環境の悪化に繋がる。

 

悪循環を防ぐために:

  • 政府による経済政策: 財政政策や金融政策を通じて、経済成長と物価安定を両立させる。
  • 企業による生産性向上: イノベーションや効率化を進め、コスト上昇を吸収する。
  • 労働組合による責任ある行動: 物価上昇率に見合った賃金上昇要求を行う。
  • 国民全体の理解と協力: 経済状況を理解し、長期的な視点に立った行動を取る。

 

「物価上昇に負けない、賃上げを目指す」とは神のお告げ?

 

ところで、1月マンスリーでも指摘済みのように、日本経済は、一方で、少子高齢化の下で人口減少が深刻化し、他方で、内需の長期不振が続く中、日本経済は大幅円安の純輸出の好調さを除き、消費と(設備)投資という民間主導の持続的成長に欠かせない双発エンジンが2期連続の実質前期比マイナス(縮小)に陥ってきていいます。

 

日本経済全体でも7~9月期には前期比で3四半期ぶりに実質GDPがマイナス成長に転じていることも周知の通りです。

 

昨年10~12月期(Q4)には大幅円安を背景に純輸出が伸びて、実質GDPが全体でもプラス成長に転じた可能性はあるものの、家計調査や資本財出荷などの11月までの現在入手可能な月例統計で見る限り、所詮、民間内需はQ4においても不振が続いているとみられます。

 

大企業を中心とした経団連や、大労組を中心とした連合等の寡占的な、いわば「エリート」層に賃上げを求めても、企業の大宗を占める中小企業では、「ない袖は振れない」はずです。

 

物価高に負けない賃上げを目指す」、あるいは「物価上昇を上回る賃上げを目指す」等という政府・日銀を中心とした経済学の基本に矛盾して、賃金と物価の悪循環というインフレ・スパイラルを煽りかねない誤った政治的プロパガンダを、我が国の主要メデイアがまるで真に受けているかにさえ見えるのは、誠に遺憾と言わざるを得ません。

 

物価を安定することに焦点を当てさえすれば、消費や投資が自律回復する中で、内需回復によって賃上げも、名目のみならず、インフレを調整した実質ベースでも、自ずと達成できるはずです。

 

もっとも、金融政策の正常化の過程では、避け難い大幅な利上げに伴う景気後退リスクを軽減するためにも、消費税撤廃に向けた5%への消費税率の恒久的引き下げと、利上げはセットでなければなりません。

 

いずれにしても、政府・日銀がいまだに強弁しているかに見える、物価の趨勢的な下落というデフレの中に、いま日本経済がいるはずもありません。

 

 現在の日本経済は物価の趨勢的な上昇というインフレの中にあることは明々白々です。むしろ、インフレと長期内需不振というスタグフレーション色が日本経済では今、濃厚なのです。 

 

まるで神からのお告げの様に政府・日銀が強弁するプロパガンダを、有難く頂くかのように同調して見せる日本の主要メデイアほど、一般読者を惑わし、また一般国民を落胆させるものはないでしょう。

 

 

変動為替相場制下の「隔離効果」を思い出そう!

 

今週のウィークリーの最後で、日本経済では「変動為替相場制下の隔離効果を思い出そう」と指摘しておきたいと思います。というのも、「FRBは利下げ開始の見極めを入念に」と題する2月2日付日経社説(添付資料②)を、一理ありながらも、問題なしとしないためです。

 

同社説は、末尾にある結語に向けて、「米経済の軟着陸は世界経済の安定成長に欠かせない。国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しで24年の世界の成長率を昨年10月時点から0.2ポイント引き上げ、前年並みの3.1%とした。米国の上方修正が大きな支えだ。」としました。

 

続けて、同社説は、「日銀が賃金と物価の好循環のもと、金融緩和の出口に踏み出せるかにも関わってくる。FRBには景気の軟着陸と物価安定を両立させる最適解を探り当ててほしい。」と結んでいます。

 

しかしながら、日銀金融政策の正常化は、内外のデータを前提として、客観的な基準に基づき、主要経済大国の一つである日本経済が自らの意思で決めるべきです。

 

また、そのように独立して自律的な金融政策が実現可能であるとするのが変動為替相場制の基本原則です。それは国際金融論では、変動為替相場のもつ「隔離効果」と呼ばれています。

 

いずれにしても、日本の中央銀行による金融政策正常化の無作為を、世界の基軸通貨とはいえ、米金融当局に依存し、あるいは責任転嫁するかのような同社説はかなり問題と言わざるを得ません。

 

米経済は消費と投資が好循環する持続的経済成長を維持し続けてきているのは既に指摘ずみです。

 

利下げどころか、再利上げとまではいかなくても、少なくとも現行の政策金利水準の長期的な維持が予想されそうであることは既述の通りあり、ここでは繰り返しません。

 

 

問題なのは、米経済ではなく、あきらかに日本経済です。日本経済は大幅円安や株高などの資産バブルに惑わされているだけで、消費と投資が2期連続実質で前期比縮小する悪循環の中にあります。

 

2月15日公表予定の日本の2023年10~12月期GDP統計では、純輸出の改善で持ち直す可能性はあります。しかし、経済の鏡といわれるGDPが、我が国では昨年7~9月期に3期ぶりの実質前期比マイナス成長に陥ってしまっており、その後もこれまで消費と投資の悪循環が続いていることはおそらく間違いないでしょう。

 

日本経済の消費と投資の悪循環の主要因には、10%という高い消費税率水準に加えて、高進してきたインフレ税による実質可処分所得のかなりの落ち込みがあります。

 

サミュエルソンの古典的乗数・加速度係数モデルに基づく消費と投資の好循環と悪循環のシミュレーション(11月マンスリー)を見れば、「神風」でも吹かない限り、標準的な経済学に基づけば、このままでは賃金と物価の好循環など期待できないはずです。

 

いずれにしても、現下の戦後最大の政治経済の危機は、最大のチャンスになり得ます。

 

今では明らかに古色蒼然となってしまったアベノミクスとその旧三本の矢にとって代わる、国民ファーストの経済政策を構成する消費税撤廃、金利正常化、恣意的な産業政策撤廃からなる新3本の矢さえあれば、日本大復活の可能性が拓けます。

 

我が国のおそらく最後のチャンスとなる夢がかなうか否かは、ひとえに、私たち一人一人の自覚と意思だけにかかっていることは言うまでもありません。

 

 

中丸友一郎

元世界銀行エコノミスト

 

添付資料:①  米就業者数、1月35.3万人増 市場予想上回る (日経記事2月2日付)

 

【ワシントン=高見浩輔】米労働省が2日発表した1月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が前月比で35万3000人増えた。伸びは市場予想の18万人程度を上回った。失業率は2年間連続での4%割れとなった。労働市場は強さを保っている。 

2023年11月は18万2000人増、12月は33万3000人増に修正された。雇用の勢いは21〜22年からは減速傾向にあるものの水準はなお高い。教育や医療、政府部門など景気動向に影響されない分野の伸びが引き続き大きかった。

 失業率は前月と同じ3.7%だった。市場予想の3.8%を下回った。24カ月連続で4%を下回るのは1970年以降で初めてとなる。

平均時給は前年同月比で4.5%上昇した。市場予想の4.1%を大きく上回った。前月比でも0.6%増え、前月の0.3%から加速した。

過熱状態が正常化に向かいつつある顕著な例は転職を中心とする自発的な離職の減少だ。

2022年4月に450万人まで増えてグレートレジグネーション(大離職)と呼ばれたが、23年12月には339万人と新型コロナウイルス禍前の水準まで落ち着いた。

企業の引き合いが和らいだ影響が大きい。アトランタ連銀によると、転職した人の賃金上昇率は22年7月に8.5%に達し、同じ職場にとどまる人の5.9%を上回っていた。23年12月はそれぞれ5.7%と4.9%に鈍化し、伸びの差は縮まった。

米バンクレートの調査ではこれから1年間で転職を考えている人が23年3月時点で全体の56%にのぼり、前年の51%から増加していた。1990年代半ば以降に生まれたZ世代に限ると78%に高まる。理想の転職先を見つけるのは難しくなりつつある。

人手不足が解消されたわけではない。企業のレイオフ(一時解雇)は23年12月時点でも161万人と、15〜19年平均の180万人を下回って推移する。求人も900万件とコロナ禍前の記録を150万件上回ったまま下がりきってはいない。

23年は25〜54歳の働き盛り世代の労働参加率が上昇し、賃上げ率の鈍化と堅調な雇用増が両立した。経済の軟着陸を目指す米連邦準備理事会(FRB)にとって理想に近い展開だったが、働き手の回復傾向がどこかで止まればこのバランスも崩れかねない。

FRBのパウエル議長は1月31日の記者会見でも勝利宣言を急がず、時間をかけて経済動向を見極める考えを強調した。

 

添付資料:②  FRBは利下げ開始の見極めを入念に(日経社説2月2日付)

 

米連邦準備理事会(FRB)が利下げ時期の見極めに入った。開始の条件に「インフレ率の2%目標への収束に、より確かな自信を得る」ことを挙げ、パウエル議長は「3月までに確信できるレベルに達する可能性は低い」と早期の実施に否定的な姿勢を示した。

判断に慎重を期す姿勢は妥当だろう。歴史的な金融引き締め路線は高インフレの鎮圧へ詰めの情勢判断を残すのみとなったが、新型コロナウイルス禍後の経済・物価情勢は移ろいやすい。政策転換には細心の注意が必要だ。

31日まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)では4会合連続で政策金利を据え置いた。パウエル氏は記者会見で利上げ局面の終幕を正式に表明した。

2022年3月から1年あまりの急激な利上げと昨夏以降の高金利維持のもと、インフレは着実に減速し、FRBが目標に据える物価指標では3%割れが続く。

米経済はFRBが巡航速度とみる1.8%を上回る高い成長率を保つ。労働市場も引き続き堅調だ。パウエル氏は景気や雇用が大きく調整せずにインフレが減速し続けることは可能だとの見方を示し、今後の物価指標などを注視する考えを示した。

その際、インフレの根深さを過小評価していないかの見極めは怠れないだろう。拙速な利下げが物価高の再燃につながると金融引き締めを迫られ、結局は景気を犠牲にするリスクがあるからだ。

反対に過去の利上げの影響がこれから本格的に表れる可能性もまだ消えておらず、景気が急失速する懸念もある。米商業用不動産の市況が低迷するなか、昨春の銀行破綻で浮かび上がった中小銀行の財務体質のもろさも残る。

不測の事態にも柔軟に対応できるよう市場と対話しつつ、備えを万全にしてほしい。「量的引き締め(QT)」と呼ぶFRBが持つ資産を減らす作業でも、圧縮ペースの緩和へ議論を進めるべきだ。

米経済の軟着陸は世界経済の安定成長に欠かせない。国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しで24年の世界の成長率を昨年10月時点から0.2ポイント引き上げ、前年並みの3.1%とした。米国の上方修正が大きな支えだ。

日銀が賃金と物価の好循環のもと、金融緩和の出口に踏み出せるかにも関わってくる。FRBには景気の軟着陸と物価安定を両立させる最適解を探り当ててほしい。

 

 

[1] ちなみに、元財務長官のサマーズ氏は「驚きだが、衝撃的ではない」と先週末に放映されたブルーンバーグ・ウォール・ストリート・ウィークのインタビューで答えています。