掲題の今朝の日経社説。
一理あるが、問題なしとしない。
一言でいえば、「巧遅は拙速に如かず」。
なお、故事ことわざ辞典によれば、
「「巧遅は拙速に如かずとは、上手だが遅いよりも、下手でも速いほうがよいということ。」
「巧遅」とは、出来はよいが仕上がりまでが遅いという意味。
「拙速」とは、出来はよくないが仕事が早いという意味。
場合によっては、ぐずぐずしているより、上手でなくとも迅速に物事を進めるべきだということ。
兵法家の孫子が、戦争は戦術がよくないものであったとしても、迅速に行動し早く終結させるのがよいと説いた言葉に由来する。」
可及的速やかに、マイナス政策金利の解除を含めた
金融政策の正常化に動くべきだ。
第一に、日銀が2%物価安定目標に未達だというのは、
恣意的であり、詭弁にすぎない。
例えば、政府・日銀が2%物価安定の目標の
ベンチマークとしてきている、
生鮮食品を除くコアCPI上昇率は、
既に2022年+2.3%、
2023年+3.1%と
2年間連続で2%を超えてきている。
(しかも、電気・ガス事業者への政府・経産省補助金分
-0.8%の物価押し下げ効果を足し戻してやれば、
真のコアCPI上昇率は+3.9%に跳ね上がる。)
第二に、日本では欧米を超える「生活費高騰の危機
(cost of living crisis)に直面しており、
日銀は一般消費や一般国民にとっての、
物価と通貨の番人とは言い難い。
例えば、変動の大きい生鮮食品を除く(コア)食料品価格は、
2022年に前年比+8.1%、
2023年に同+7.9%もの高い上昇率を2年連続で記録している。
したがって、物価と通貨の番人であるためには、
既に2022年春頃から明らかになってきていた
日本のコアCPI2%物価目標超えという事実に基づき、
加えて、ほぼ当時に開始された米FRBによる大幅連続利上げに対処すべく、
日銀の金融政策の正常化を急ぐべきだったのである。
(なお、手前味噌ながら、筆者は当時からそう主張してきた。)
日銀が2%物価安定目標政策に忠実であれば、
その後の日本通貨の大幅安や生活費高騰の危機を回避できたはずだ。
流石に、直近の昨年12月では、コア食料品上昇率が
前年比+6.7%までやや減速してきているものの、
本年1月には再び大幅円安が台頭してきており、
日銀の大胆な金融刺激策の継続とあいまって、
生活費高騰危機が今後再び再燃する恐れなしとしまい。
第三に、日銀は一般国民のための物価と通貨の番人ではなく、
政府の番犬に過ぎまい。
名目賃金は既に上昇してきている。
しかし、物価がそれ以上に上昇してきているために、
実質賃金は過去約2年間弱も低下し続けてきている。
実質賃金上昇は今年はもちろんここと、このままでは、
おそらく永遠に見果てぬ夢に終わるだろう。
なぜなら、日銀はいまだにインフレ抑制を第一の目標とせずに、
むしろ政府同様に「デフレからの完全脱却を目指す」とするかのように、
異次元金融緩和策を未だに止めない。
したがって、日銀は賃上げとインフレとのイタチごっごのままで、
賃金上昇を凌駕する物価上昇は避け難い。
このままでは、「物価上昇に負けない賃上げ」
という政府・日銀の政治的スローガンは、
絵に描いた餅のままに終わるだろう。
最後に、日銀はいずれやってくるマイナス政策金利の解除後も、
政策金利水準の実質プラスを目指して、
粛々と利上げを繰り返し実施することで、
金融政策の正常化を目指さなければならない。
なぜなら、インフレ調整後の実質金利が
マイナスのままであるという期待や予想が
市場で優勢である限り、(物価の安定はもとより、)
株式、不動産、為替レート等の資産価格は
理論的に見ると無限大に発散しかねず、
実際にも、乱高下が避けられないと見られるためだ。
その証左のひとつが、本年1月の日本市場で起きつつある
政治とカネ、日銀カネ余り、
そしてモラルハザード(倫理弛緩)相場」
とみるべきではないか。
いずれにしても、今週のウィークリーでも述べたように、
日本経済はインフレとマイナス経済成長の併存という
スタグフレーション色が濃厚であると見ざるを得まい。
民間主導の消費と(設備)投資という持続的経済成長のための
双発エンジンが不振のままでは、日本経済の好循環はやってこない。
自らが招いている資産バブル沸騰中の
金融市場という蜃気楼に惑わされているためか、
物価と賃金の好循環という絵に描いた餅をいまだに、
夢想する植田日銀と岸田政権は、
早晩、日本経済の厳しい現実と向き合わざるを得まい。
いずれにしても、以上4点から、同社説は問題なしとしない。
日銀が10年以上続けた大規模な金融緩和策の出口を本格的に見据え始めた。賃金上昇を伴う物価上昇の定着へ「見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっている」と公表資料に明記した。
マイナス金利政策の解除など金融政策の正常化は、民間の活力を最大限に引き出すための「金利のある経済」へ向けた大きな一歩となり得る。円滑な出口に向けた環境を入念に整えてほしい。
23日に終えた金融政策決定会合では緩和策の現状維持を決めた。一方、新たに公表した先行きの経済・物価見通しでは、目標とする内需主導の2%の物価上昇が実現する確度を巡り、「高まっている」との表現を加えた。
植田和男総裁は記者会見で、根拠として「これまでの物価見通しに沿って経済が進行しているということが確認できた」と語り、今後の目標達成に自信を示した。
新たな見通しでは、2024年度の物価上昇率の予測を前回の2.8%から2.4%へと下方修正した。昨秋以降の原油価格の下落を反映したもので、家計や中小企業を苦しめる海外発のインフレ圧力の減退を示すといえる。
25年度は1.7%から1.8%へと上方修正した。物価上昇の主役が海外要因から賃金など内需主導に切り替わりつつ、目標の2%に近づいていく姿を描いた。
今後は春季労使交渉の行方に加え、賃金上昇を適正に価格に転嫁する動きが広がるか、「物価超え」の賃金上昇が実現し消費を刺激するかを見定めることになる。
海外経済に不透明感が漂うなか拙速な判断は景気や市場を混乱させるリスクを伴う。年初から相場が大きく上昇した株式市場も、金融政策を巡る思惑に敏感になっている。精緻な情勢判断や丁寧な市場との対話を改めて求めたい。
出口への円滑な移行には、マイナス金利解除後の政策運営の姿を市場に示すことも重要になる。植田氏が会見で「現時点での物価・経済・金融見通しを前提とすると、大きな不連続性が発生するような政策運営は避けられる」と明言したことは評価したい。
マイナス金利解除後の利上げは情勢を見極めつつ慎重に検討する方針を示したほか、市場安定のための長期国債の購入は続ける姿勢を示唆した。政策金利の最終的なメドをどこに据えるかを含め、金融政策の将来像を巡る情報発信に力を入れてほしい。