自民裏金事件を考える それでも政治は正せる | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

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「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の昨日の東京新聞社説。

かなり説得的。

遅まきながら、ご参考まで。

 

 

 《治安の悪化に困り果てた町長は犯罪者集団に防犯対策の強化を話し合うよう求めた》。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件をきっかけとする政治改革の動きを例えるために、ほかに適切な比喩があるだろうか。国会議員が自らを取り締まり対象とする法律をつくる矛盾にほかならない。

 

 党総裁の岸田文雄首相が設置した政治刷新本部のメンバー38人のうち28人は党内六つの派閥に属する。うち5派閥はパーティー収入を過少報告したとして刑事告発され、捜査の結果、安倍、二階、岸田各派の会計責任者らが政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で在宅・略式起訴された。

 

 法律を守らない派閥に属する議員たちが集まって再発防止策を議論するのだから「期待しない」人が75%(共同通信世論調査)に達するのも無理はない。刷新本部は26日の通常国会召集前に中間取りまとめを決定する。2週間足らずの議論で抜本的な改革案が示せるというのだろうか。

◆派閥解消と復活の歴史

 政治腐敗の根を断つには、裏金の温床となった派閥の政治資金パーティーをなくすだけでなく、派閥自体を解消することが国民に分かりやすい。法改正は必要なく、派閥が自ら解散すれば済む。

 

 派閥頼みの政権運営を続けてきた首相が自ら率いた岸田派の解散を率先して表明したのは政権維持のための捨て身の選択だろう。

 

 政治刷新本部の議論では党として派閥を解消するか賛否が割れており、仮に派閥解消を決めても本当に実行できるのかは疑わしい。自民党の歴史は派閥解消と復活の歴史でもあるからだ。

 

 1988年に発覚したリクルート事件の翌年に党議決定した「政治改革大綱」は、無理な資金集めや内閣・党人事への介入を派閥の弊害に挙げ、総裁や副総裁、党三役らの派閥離脱を「派閥解消の第一歩とする」決意を示した。政治資金パーティーも派閥などによる開催自粛の徹底を明記した。

 

 党の分裂を経て93年に下野した後、94年に党改革の一環で派閥解消を打ち出し、各派閥事務所も閉鎖したが、議員グループとして生き残り、徐々に復権していく。

 

 派閥重視の岸田首相は昨年12月まで岸田派会長にとどまり、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長は今も自分の派閥を率いる。派閥順送り人事が繰り返され、各派は年1回パーティーを開いてきた。

 

 志を同じくする議員が集い、議論を深めることは否定しない。派閥に新人議員を教育する機能があるとしても、数の力で政策や人事を曲げることは是とできない。

 

 自民党は派閥解消を断行し、真の近代政党として生まれ変わる必要がある。政治刷新本部では、これまで派閥が担ってきた人事調整や議員教育などの機能を、党が担うための統治機構改革について議論を深めるべきではないか。

 

 政治資金の透明性を高める法改正も急務だ。裏金に手を染めても有力議員なら罪に問われないのでは「法の下の平等」が揺らぐ。野党や公明党は規正法に違反した会計責任者だけでなく議員本人も処罰される連座制の導入を唱え、自民党にも同調する意見がある。実効性のある法改正を求める。

 

 政治資金パーティーの規制も最優先課題だ。企業・団体がパーティー券を購入すれば、法が禁じる議員個人や派閥にも献金できるに等しい。企業・団体へのパーティー券販売を禁じるべきだ。

◆政治資金は使途公開を

 政党が議員個人に支出する政策活動費は使途公開の義務がなく、不透明極まりない。国会議員に毎月100万円が支給され、使途報告の義務がない調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)と合わせ、使途公開を強く求める。

 

 自民党はこうした政治資金改革に難色を示してきたが、それが許される状況とはとても思えない。国会が金権腐敗政治を正せなければ「国権の最高機関」「唯一の立法機関」に値しない。

 

 こうした状況を招いた責任は私たち有権者にもある。眼前の腐敗にまみれた議員たちを選んだのは私たち自身だからである。

 

 希望は、有権者には自らの代表を選ぶ権利があることだ。4月には国会議員の補欠選挙、25年夏には参院選、同年秋までには衆院選があり、期待を裏切った政党や議員を退場させることができる。

 

 金権腐敗を嘆き、絶望するだけでは状況を変えられない。国会や政府の動きを注視し、声を上げ、選挙権を行使する。その積み重ねが政治を正すと信じる。