年のはじめに考える 創刊140年「紙齢」の重み | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の昨日の東京新聞社説。

かなり説得的。

ご参考まで。

 

 東京新聞は9月25日に創刊140周年を迎えます。起源は1884(明治17)年、東京・京橋で産声を上げた夕刊紙「今日(こんにち)新聞」。初代主筆は「安愚楽(あぐら)鍋」や「西洋道中膝栗毛(ひざくりげ)」などの作品で知られる戯作家、仮名垣魯文(かながきろぶん)で、花柳界の情報や娯楽読み物など芸能文化を特長とする庶民新聞でした。

 

 その後「都新聞」に改題し、言論人の徳富蘇峰(とくとみそほう)が90(同23)年2月に創刊した「国民新聞」と合併して「東京新聞」が誕生します。太平洋戦争に突入していた1942(昭和17)年10月、国策による戦時合併でした。

 

 1面左上に記してあるのが新聞の年齢とも言える「紙齢(しれい)」です。29101号は合併以来81年余りのものですが、東京新聞の題字は今日新聞以来140年の歴史の重みも背負っているのです。

 

 創刊当時の今日新聞の題字=写真=には、真ん中に善悪を裁く閻魔(えんま)大王の顔、左右に人々を映す大きい鏡と、ニュースを追う目と鼻が描かれています。

 

 内閣制度発足(1885年)、明治憲法公布(89年)、帝国議会開設(90年)を控えて自由民権運動が活発になるなど、近代国家を目指していた激動の時代。戸惑いながらも懸命に生きる人々の息吹を伝えるとともに、世にはびこる悪を許さないという心意気が伝わってきます。

 

 ただ、140年という歴史には信頼を裏切り、読者や国民を結果的に間違った方向に導いたこともあったのは確かです。その最たるものが310万人もの日本国民を死に追いやり、近隣国や交戦国に多大の犠牲を強いた先の戦争を巡る報道・論説です。

◆戦争の一端担った反省

 岐路は1931(昭和6)年9月に始まった満州事変でした。

 

 中国・奉天郊外の柳条湖で、日本の権益下にあった南満州鉄道の線路を自ら爆破した日本の関東軍は、中国軍の仕業だとして軍事行動を拡大。満州(中国東北部)全土の占領を経て、翌年には日本の傀儡(かいらい)国家である満州国の建国に至ったのです。

 

 しかし、本紙の前身である都、国民両新聞をはじめ日本の新聞は政府や軍の発表を鵜吞(うの)みにして、報道・論説を続けます。そして行き着いたのが32(同7)年12月19日の新聞・通信社132社による「共同宣言」でした。

 

 宣言は「満州の政治的安定は極東の平和を維持する絶対の条件」「満州国の独立と其(その)健全なる発達とは同地域を安定せしむる唯一最善の途である」と強調し、満州国の存立を危うくする国際連盟の解決案を受諾しないよう「日本言論機関の名に於(おい)て茲(ここ)に明確に声明する」と述べています。

 

 この声明には、東京新聞を現在発行している中日新聞社の前身である新愛知名古屋新聞も加わっていました。いくら当時、言論機関への圧力が強くなりつつあったとはいえ、その責任を全うせず、戦争に突き進む軍事国家の一端を担った責任は免れません。

 

 東京新聞は今、一人一人の人権が大切にされ、誰も取り残されない社会を、読者の皆さんとともにつくりたいと考えています。

 

 最大の人権侵害は戦争です。国内外を問わず少しでも近づく動きがあれば見逃さない。そうした報道姿勢を貫こうと考えるのは、かつて「国策の推進と国論の動員」の先頭に立ち、国民を戦争に導いた反省からにほかなりません。

◆安保法、原発に反対貫く

 東京新聞は2014年7月1日の朝刊1面に社説「自衛隊の国軍化許さぬ」を掲載しました。

 

 この日は当時の安倍内閣が、歴代政権が憲法に反するとして認めなかった「集団的自衛権の行使」容認を閣議決定する予定で、社説は、自衛隊に「交戦権を行使する『軍隊』への道を開いてしまう」と批判するものでした。

 

 通常5面に掲載する社説を1面に載せるのは極めて異例ですが、私たちの抱く危機感を読者の皆さんに伝えたかったのです。

 

 東京新聞はこの閣議決定に基づく安全保障関連法に反対し、成立した9月19日と施行日の3月29日には、安保法に反対する長文の社説の掲載を続けてきました。

 

 原発再稼働や新増設に反対するのも、いったん事故が起きれば、戦争同様、私たちの暮らしや社会を壊すと考えるからです。

 

 暮らしや民主主義を大切に、権力を監視する、戦争や原発への反対を貫く。暮らしや社会を少しでもよくするために役立ちたい。こうした私たち東京新聞の思いを、日々の紙面から少しでも感じ取っていただければ幸いです。