日本政治この1年 自民党の旧弊が噴出した | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今日大晦日の毎日社説。

かなり説得的。

ご参考まで。

 

 自民党政治の旧弊と「1強支配」のほころびがあらわになった1年だった。岸田文雄首相は「令和の政治改革」に毅然(きぜん)として取り組まなければならない。

 

 火急の問題は自民派閥の政治資金パーティーを巡る疑惑である。最大派閥・安倍派がパーティー券収入の一部を議員に還流させて組織的に裏金を作っていた可能性がある。

 

 東京地検特捜部が政治資金規正法違反の容疑で派閥や所属議員の事務所を捜索した。直前まで政権中枢を担っていた松野博一前官房長官らから任意で事情を聴いた。

家宅捜索のため、清和政策研究会(安倍派)の事務所があるビルに入る東京地検特捜部の係官ら=東京都千代田区で2023年12月19日午前9時58分、玉城達郎撮影拡大
家宅捜索のため、清和政策研究会(安倍派)の事務所があるビルに入る東京地検特捜部の係官ら=東京都千代田区で2023年12月19日午前9時58分、玉城達郎撮影

 政治資金の透明化を図るのが規正法の趣旨である。裏金作りがシステム化されていたのなら、根の深い構造的な問題だ。政権から安倍派を排除したからといって済む話ではない。

派閥の裏金疑惑が直撃

 だが、首相の動きは鈍く、危機感は感じられない。年明けに政治改革を議論する党の組織を立ち上げると表明しただけで、具体的に何をやろうとするのか見えてこない。うみを出し切る覚悟が求められている。

記者団に囲まれながら首相官邸に入る松野博一官房長官(中央、当時)=東京都千代田区で2023年12月14日午前8時39分、竹内幹撮影拡大
記者団に囲まれながら首相官邸に入る松野博一官房長官(中央、当時)=東京都千代田区で2023年12月14日午前8時39分、竹内幹撮影

 

 派閥均衡に配慮した当選回数順送りの人事の弊害も露呈した。

 

 首相が「適材適所」とうたった9月の内閣改造では、副大臣、政務官に女性が起用されなかった。公職選挙法違反の疑いが持たれた副法相、過去の税金滞納が発覚した副財務相ら3人の政務三役が相次いで辞任に追い込まれた。

 内閣支持率は自民が政権復帰した2012年以降で最低を記録し、党の支持率も下げ止まらない。第2次安倍晋三政権から続いてきた「自民1強」の状況が大きく揺らいでいる。

東京地検特捜部が自民党の大野泰正氏の関係先を家宅捜索したことについて記者団の取材に応じる岸田文雄首相=首相官邸で2023年12月28日午前10時6分、竹内幹撮影拡大
東京地検特捜部が自民党の大野泰正氏の関係先を家宅捜索したことについて記者団の取材に応じる岸田文雄首相=首相官邸で2023年12月28日午前10時6分、竹内幹撮影

 

 21年秋に就任した岸田首相は「聞く力」「丁寧で寛容な政治」をアピールし、変化を印象付けた。官邸主導によるトップダウンの手法が目立った安倍政治からの転換に映ったが、旧来型の派閥政治に逆戻りしたのが実態だ。

 

 政権維持にきゅうきゅうとして「聞く力」は党内に向けられ、施策も国民感覚とのずれが目立つ。

 

 年頭の記者会見で「異次元」とアピールした少子化対策は、児童手当の拡充など年3・6兆円規模に増やす方針を決めた。しかし、支持率が低迷する中、負担を伴う財源問題は踏み込み不足だ。防衛費増額に伴う増税の開始時期の決定も2年続けて先送りした。

 

 そのような中で所得税などの減税を唐突に打ち出したため、「選挙目当て」「増税隠し」との批判を浴びた。ちぐはぐな政権運営が続く中で裏金疑惑が噴き出し、迷走に拍車が掛かっている。

 

活発な党内議論失われ

 

 にもかかわらず、刷新を求める声が党内から上がらない。

 

 安倍長期政権以降、各派閥はポストの恩恵を受ける総主流派となった。活発な議論が影を潜めた結果、次世代を担う実力者が育っていない。

 

 閣僚や党幹部には世襲が目立つ。過去最多の5人が起用された女性閣僚も、3人は世襲だ。多様な人材育成を怠ったつけだろう。

 

 自民1強が続いたため党内に緩みが広がり、政治の危機に際して機敏に対処できていない。

 

 野党も存在意義を問われている。分裂を繰り返してバラバラだったことも、自民1強を許した一因だ。政権交代の現実味が薄れ、政治から緊張感が失われた。自民政治の旧弊が噴出する今こそ、一致して政権と対峙(たいじ)し、新たな選択肢を示さなければならない。

 

 地方では新陳代謝を求める動きが出ている。

 

 4月の統一地方選では道府県議や市議の女性比率が過去最高となった。今秋以降の地方選でも自民系候補が苦戦しているのは、既存勢力に対する有権者の不信と不満の表れだろう。

 

 1988年に発覚したリクルート社を巡る金権汚職事件を受け、自民は翌年に政治改革大綱をまとめた。政治資金の透明化や派閥解消を目指すことが記されたが、今や空文化している。

 

 「政治とカネ」に関わる不透明な体質を抜本的に改め、国民の暮らしを守る政治を実践しなければ、失われた信頼は取り戻せない。