2023年11月マンスリー   最終版 | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アセモグルら)

2023年11月マンスリー

 

消費税撤廃と日銀利上げで

消費と投資の好循環と日本復活を目指せ!

 

2023年11月27日

 

 

読売27日付社説「企業決算好調 賃上げと投資を加速する時だ」の問題点

 

読売新聞は11月27日朝刊で「企業決算好調 賃上げと投資を加速する時だ」」と題する社説を掲載しました。しかし、問題なしとしません。

 

確かに、今期業績予想は前年比10%強の増益予想なのですが、本来、企業業績と相関性が高い鉱工業生産や同出荷指数は、直近の9月統計で見ても、7~9月に連続3か月の前年割れが続いています。つまり、今期業績予想は同社説にはない大幅円安(対ドル10%強の下落)要因が大きいものとみられます。

 

しかも、7~9月期の実質GDPは、総合的なインフレと称されるGDPデフレーターが前年同期比で+5.1%もの国内インフレを示す中で、3期ぶりに前期比でマイナス成長に陥り、さらに悪いことには、日本経済の双発エンジンの個人消費と企業設備投資が同時に2期連続で前期比マイナスに陥ってしまっています。

 

そのようなインフレとマイナス経済成長というスタグフレーションの兆しが既に7~9月期に見えるなかで、政府・日銀は異次元の金融政策と大盤振る舞いの財政政策という双子の過激な総需要刺激政策で、むしろインフレを加速させかねず、また株式・不動産・為替等の資産バブルが一段と増幅しかねません。

 

そもそも賃上げや設備投資は、民間主体によって、経済全体の中で内生的に(自ずと)決まるものです。

 

政府・日銀は自らが制御可能である財政政策と金融政策を用いて、物価安定と持続的な経済成長を目指さなければなりません。

 

したがって、高止まる物価高と日本経済の双発エンジンの消費と投資の悪循環のなかで、一方で金融政策の正常化を急ぎ、他方で、その副作用として避け難い金利上昇からの悪影響を相殺するためにも、消費税撤廃に向けた5%への恒久的消費税率の引き下げを急ぐべきでしょう。

 

一時的な円安頼みで、絵に描いた餅と言わざるを得ない賃上げと投資の加速を唱えるのではなく、経済の客観的で科学的な論理に基づき、政府と日銀の財政と金融政策の正しいポリシー・ミックスを同社説は提唱すべきではないでしょうか。

 

 なお、同社説が日本経済はいまだにデフレから脱却していないかのように主張するのは、まるで政府・与党の瓜二つの主張なのですが、明らかに欺瞞に過ぎないとの厳しい批判を免れないでしょう。

 

というのも、デフレとは、物価の趨勢的な下落を意味し、不況と同義ではありません。物価の趨勢的な上昇はインフレであり、現在の日本経済は物価高でインフレであるため、デフレでは決してありえないのです。

 

ただし、インフレと不況は共存し得ます。それが経済の最悪の状態(物価高で失業増)と呼ばれる悲惨なスタグフレーションに他なりません。

 

  

もし噓が真実に勝てば

 

 奇しくも、26日付東京新聞が社説で「週のはじめに考える もし嘘が真実に勝てば」と題して、実に説得的で興味深い記事を掲載しています。

 

 同社説によれば、かつて、米国の作家マーク・トウェインは、「真実が靴を履いている間に、噓は世界を半周する」といったそうです。

 

 また、「誰かの善行などいい話は知れわたりにくいのに、悪い話だと、すぐに広まるという趣旨の<好事は門を出でず、悪事は千里を行く>という古い中国の箴言(しんげん)も思い出します。」とも紹介しています。

 

 そのうえで、「これは、トランプ氏や選挙だけの話でも米国だけの話でもありません。あらゆる領域で噓やフェイクは生み出され続けるでしょう。私たちは、情報をうのみにせず、冷静に判断する力を一層養うことで、そうした敵と闘い続けていくほかありません。」としています。

 

 しかし、考えてもみれば、真っ赤な嘘は、我が国の政治経済体制の下でこそ、いま最も蔓延してきているのではないでしょうか。

 

 現下の我が国の一般国民にとっての最大の悩みは生活費高騰の危機(cost of living crisis)ともいえる物価高による生活苦、すなわちインフレ税の痛みではないでしょうか。

 

実は、物価安定目標の具体的な指標として、政府・日銀が過去10年間も国民に約束してきたはずの生鮮食品を除くコアCPIは、既に2022年度に3%上昇を記録済みなのです。3%は2%を超えていないのでしょうか(苦笑)?

 

また、生鮮食品とエネルギーを除くコアコア消費者物価は、明らかに電気・ガス及びガソリン関連事業者への政府補助金による価格低下の影響を受けてきていないのですが、10月に全国ベースで7カ月連続の前年同月比+4.0%上昇を記録して、日本銀行が目標とする2%物価安定目標の2倍にも達してきています。

 

さらに、より重要な今後のインフレ見通しですが、10月末の物価展望レポートの中で日銀自身が23年度と24年度において物価安定目標のコアCPIは2%を上回るとの見通しを示して、従来の見方を上方修正して来てさえいるのです。

 

 それにもかかわらず、岸田政権は、「物価高に負けない賃金を目指す」とし、「デフレからの脱却を確実なものにする」などと強弁して、補正予算でGDP比2%を超える大盤振る舞いの財政刺激策を採用しようとしています。

 

他方、植田日銀総裁は、日本経済にとって輸入インフレとは独立した総合的インフレを示すGDPデフレーターが4~6月期の前年同期比+3.5%から7~9月期に同+5.1%も上昇したのにもかかわらず、基調的インフレは2%物価安定目標に未達だとして、マイナス政策金利を含む異次元金融緩和政策を継続することが日本経済にとって必要だと強弁してきています。

 

  要するに、インフレが明らかに2%を超えてきている中で、岸田総理と植田総裁は共に2%インフレは未達との嘘を吹聴して、それぞれ積極的な財政政策と金融政策によって、インフレを一段と加速しかねない過剰な総需要刺激政策を継続・増幅させようとしていると見ざるを得ません。

 

善は悪に、正義は不正義に、そして真実は噓に勝つ-。この基盤を失えば、その上に立つ「社会」という建物は、ひとたまりもないでしょうから。」と東京新聞は結んでいます。

 

誠に遺憾ながら、我が国が直面する物価高騰に関する嘘によって、日本のインフレ加速と資産バブルの一段の増幅は制御不能となり、日本社会はひとたまりもなく崩れていくのではと危惧せざるを得ません。

 

 

生活費高騰の危機をもたらしているアベノミクスと決別を

 

 我が国がひとたまりもなく崩れていかないようにするには、我々はいったいどうすべきなのでしょうか。

 

 再び、本小見出しのような東京新聞11月22日付社説に光明を見出せるかもしれません。

 

 「新たな経済対策の財源となる2023年度補正予算案の国会審議が始まった。最大の論点は、対策が物価高に苦しむ暮らしの支援に資するかどうかだが、対策の目玉である減税は、即効性に疑問が残る。より効果的な対策に向け大幅修正もためらってはならない。…

 

 … 家計や中小企業が物価高の犠牲となる一方、一部大企業のみが潤う構図だ。いびつな状況の改善が経済対策の目的のはずだが、的を射た内容とはとても言えない。

 

 目玉である所得税・住民税の減税が実施されるのは来年6月以降で、事務作業によっては大きくずれ込む可能性もある。

 

 消費の刺激や家計を支援するための減税は即効性が最優先されるべきであり、この減税時期の設定は理解に苦しむ。

 

 総額約13兆1992億円の補正予算の財源は67%の約8兆8千億円を国債で賄う。減税財源は今回の補正の枠外であり24年度に国債増発で財源を捻出する見通しだ。税収の増収分の還元が国債増発にいつの間にかすり替えられた。

 

 「大胆な金融政策」「機動的な財政出動」を柱とする故安倍晋三首相主導の経済政策「アベノミクス」は今も踏襲される。

 

 一部に恩恵をもたらしたが、過度な円安とエネルギー高騰、物価高を招き、家計が苦しさを増す元凶だ。総務省調査では、消費に占める食費の割合を示すエンゲル係数は1~9月に月平均26%を超え、比較可能な00年以降の平均を上回った。日銀による銀行経由の国債引き受けも野放図な財政出動を招くなど、アベノミクスの弊害は鮮明になっている。

 

 岸田文雄首相はアベノミクスとの決別を決断すべきだ。国民の暮らしや財政規律を犠牲にして一部の大企業が潤う、いびつな経済政策に終止符を打たねばならない。」

 

 以上の22日付東京新聞社説は極めて説得的です。

 

それでは、いびつな経済政策に終止符を打ち、最適な経済政策を確立し、インフレなき持続的で包括的な経済成長を実現するためにはどうしたらよいのでしょうか。

 

 高インフレを抑制するためには、まずもって金融政策の正常化を粛々と進める以外にありません。一時的ではない物価高に対応するための補助金や給付金などの財政支援をいつまでも続けるわけにはいかないことは自明です。

 

同時に、金融政策の正常化を進めるなかで避け難いと見られる、金利の少なくない上昇からの景気後退という副作用を減殺し、包括的で持続的な経済成長を達成するためには、消費税撤廃に向けた5%への恒久的な消費税率引き下げは必須と見られます。

 

 そこで以下では、金融政策の正常化と消費税撤廃に向けた消費税率の5%への恒久的な引き下げというポリシー・ミックスの意義を、概念だけでなく実際の経済実態を踏まえて、出来るだけ数値的に示すことにしましょう。

 

まずは金融政策の正常化を議論し、次に消費税撤廃に向けた恒久的な消費税率大幅引き下げの効果を検証します。

 

 

 Bingでもテイラー・ルールで在るべき政策金利を楽々計算(8月29日ウィークリーから転載) 

 

(中丸) 政策金利のあるべき水準を判断するのに有名なテイラー・ルールがあります。そのルール・ベースの金融政策とは具体的にどのようなものですか?そして、最新の経済データを使用して、FRB、ECBそして日銀の今あるべき政策金利水準を推定してみて下さい。

 

(Bing)   テイラー・ルールとは、1993年に米国の経済学者ジョン・ブライアン・テイラーが提唱した、実質金利とインフレ率と産出量ギャップに基づき適切な政策金利を決める方程式のことです。具体的には、次の式で表されます。

 

it​=rt∗​+πt​+0.5(πt​−πt∗​)+0.5(yt​−yt∗​)

 

ここで、it​は政策金利、rt∗​は均衡実質金利、πt​はインフレ率、πt∗​は目標インフレ率、yt​は実際の国内総生産(GDP)の自然対数、yt∗​は潜在産出量の自然対数です。この式は、インフレ率が目標値から乖離した場合や、需給ギャップが均衡値から乖離した場合に、政策金利を上げるか下げるかを示しています。

 

最新の経済データを使用して、FRB、ECBそして日銀の今あるべき政策金利水準を推定してみます。以下の値を用いました

 

項目

FRB

ECB

日銀

政策金利(%)

4.25-4.50

5.00

0.00-0.10

均衡実質金利(%)

2.00

2.00

1.00

インフレ率(%)

5.3

5.3

0.6

目標インフレ率(%)

2.0

2.0

2.0

実際のGDP(兆ドル/兆ユーロ/兆円)

22.7

14.9

5.6

潜在GDP(兆ドル/兆ユーロ/兆円)

23.1

15.1

5.7

 

これらの値をテイラー・ルールの式に代入すると、以下のようになります。

iFRB​=2+5.3+0.5(5.3−2)+0.5(ln(22.7)−ln(23.1))≈6.8

iECB​=2+5.3+0.5(5.3−2)+0.5(ln(14.9)−ln(15.1))≈6.8

i日銀​=1+0.6+0.5(0.6−2)+0.5(ln(5.6)−ln(5.7))≈−0.1

 

以上の結果から、テイラー・ルールに基づくと、FRBとECBは現在よりも政策金利を約2ポイント上げるべきであり、日銀は現在とほぼ同じ水準で政策金利を維持するべきであると言えます。ただし、テイラー・ルールはあくまで参考的な指標であり、実際の金融政策決定には他の要因も考慮されることに注意が必要です。

 

 (中丸) ありがとう。FRBと日銀だけに絞って、次のように経済データを修正して再計算してみてください。米インフレ率は3.2%、日本のインフレ率は3.3%でした。

 

ところで、日米のインフレ率は既に逆転していますよ。2023年7月データですが…。

 

(Bing) わかりました。米インフレ率と日本のインフレ率を修正して、FRBと日銀の政策金利を再計算してみます。以下のようになります。

 

iFRB​=2+3.2+0.5(3.2−2)+0.5(ln(22.7)−ln(23.1))≈4.7

i日銀​=1+3.3+0.5(3.3−2)+0.5(ln(5.6)−ln(5.7))≈1.9

 

この結果から、FRBは現在よりも政策金利を約0.2ポイント下げるべきであり、日銀は現在よりも政策金利を約1.8ポイント上げるべきであると言えます。ただし、これはテイラー・ルールに基づく単純な計算であり、実際の金融政策決定には他の要因も考慮されることに注意が必要です。

 

ところで、おっしゃる通り、日米のインフレ率は2023年7月に逆転しています。IMFの世界経済見通し2023年7月改訂版によると、米国のインフレ率は2023年7月に前年同月比3.2%となり、日本のインフレ率は同3.3%となっています1。これは、コロナ禍による需要減退や供給不足などが影響したと考えられます。日銀が公表した基調的なインフレ率を捕捉するための指標によると、生鮮食品やエネルギーを除くコア指標も7月にいずれも過去最高の上昇率を記録しています2。このような高インフレが持続するかどうかは、今後の経済状況や政策対応によって変わってくるでしょう。

 

(中丸) ありがとう。次に、以下のように修正して再度FRBと日銀のテイラールールに基づくあるべき政策金利を求めてみて下さい。米国の(コア)インフレ率前年比+4.7%、日本の(コアコア)インフレ率前年比+4.3%です。

 

(Bing)  どういたしまして。FRBと日銀の政策金利を再計算してみます。米国の(コア)インフレ率を4.7%、日本の(コアコア)インフレ率を4.3%に修正すると、以下のようになります。

 

iFRB​=2+4.7+0.5(4.7−2)+0.5(ln(22.7)−ln(23.1))≈6.2

i日銀​=1+4.3+0.5(4.3−2)+0.5(ln(5.6)−ln(5.7))≈2.9

 

この結果から、FRBは現在よりも政策金利を約0.75ポイント上げるべきであり、日銀は現在よりも政策金利を約3.0ポイントも引き上げるべきであると言えます。ただし、これはテイラー・ルールに基づく単純な計算であり、実際の金融政策決定には他の要因も考慮されることに注意が必要です。

  

 

FRBはルール・ベースで信頼回復、裁量主義の日銀は国際信用失墜(8月29日ウィークリーから転載)

 

 

(中丸) いずれにしても、現在のFRBの政策金利は上限値が5.5%であり、3~4%のインフレ率を調整した実質政策金利はかなりのプラスに転じてきています。

 

しかし、日銀の政策金利は依然としてマイナス0.1%の負の政策金利が続いており、日米インフレ率の逆転を許した日銀の実質政策金利はマイナス3~4%と著しくインフレ助長的であり、資産バブルを一段と増幅させかねません。

 

日銀は、早晩、物価安定のために、実質金利をFRB並みにプラス圏に転じさせる必要があり、インフレ高進を前提とすれば、政策金利が名目水準で4%を超えるどころか、日米の名目政策金利水準の高低差の逆転にさえ急激に追い込まれかねません。

 

日本の戦後最大の経済危機が迫っていると見ざるを根拠がここにあります。

 

いずれにしても、日米の金融政策はある意味、今、両極端の極みに立っているともいえるでしょう。

 

一方で、FRBはルール・ベース、他方、日銀は裁量主義の金融政策ということでしょう。その信頼性は前者では高まり、後者では低下し揺らぎ続けているように見えます。

 

物価と通貨の番人であるべき日銀にとって、金融政策の正常化を図るために、ジャクソンホールFRBセミナーは「外圧」を理由として、リフレ派を含む国内の金融緩和継続派を抑え込む絶好の機会であったかもしれません。その格好のチャンスを逃したかに見える植田日銀総裁は、いつまで政府の番犬であり続けるつもりなのでしょうか。東京大学経済学部の元学部長としての矜持を少しは示してほしいと願うのは筆者だけでしょうか。

 

遺憾ながら、君子豹変しない限り、日銀はインフレと資産バブルの一段の増幅を許していくと見ざるを得ません。

 

 

サミュエルソンの古典的な乗数と加速度係数による消費と投資の循環モデル:日本経済についてもエクセルで容易に構築可能!

 

米国で最初にノーベル経済学賞を受賞した故ポール・サミュエルソンMIT経済学部教授[1]は経済学部生向け教科書「経済学」を出版したことで、米国だけでなく、少なくとも私の一橋大学経済学部学生時代(1974~1978)には、日本のみならず世界的にもかなり有名でした。

 

特に、サミュエルソンの消費と(設備)投資の循環モデルは乗数・加速度原理の応用モデルの古典として広く知られています。

 

折しも、既述のように、2023年7~9月期日本GDPは実質ベースで3期ぶりに前期比でマイナス成長に陥っただけでなく、個人消費と企業設備投資が共に前期比で2期連続のマイナスに落ち込んでしまいました。

 

そこで、このような消費と投資の悪循環に見える動きを、乗数と加速度原理に基づくサミュエルソンのモデルで容易に説明できないかと考えました。

 

いずれにしても、乗数・加速度モデルとは、消費に関する乗数原理と企業設備投資に関する加速度原理を合わせて、景気循環を説明しようとする古典的なモデルです。以下は、その約90年前に構築されていた古典的モデルの筆者の応用例を示してみます。

 

このモデルでは、所得(Y)は消費(C)と投資(I)及び政府支出(G)の合計として示されます。

t =Ct+It+Gt

なお、tは時間を示す添え字です。例えば、年次データであれば、tの代わりに今年の2023年を想定して見てください。

 

次に、消費は一期前の可処分所得に依存するとします。

 

C t= c(Yt-1-Tt-1)

但し、c:消費性向で一定とします。具体的には日本経済に整合的な60%を使用しましょう。したがって、このモデルでは、消費は、所得から消費税を除いた一期前の可処分所得に60%比例して増加するとします。なお、消費税(T)は消費に消費税率を乗じて決まるとします。

 

続いて、企業の設備投資は、次のような加速度原理によって決定されるとします。すなわち、

I t = v(C t-1- Ct-2)+It-1

但し、v:加速度係数で一定とし、具体的には15%を使います。つまり、この設備投資モデルでは、投資は1期前の投資水準に加えて、同じく一期前の消費の変化分に15%比例して増加するとします。

 

さらに、政府支出(G)は一定と仮定しましょう。

 

なお、以下に示すエクセル図表にある2024年のY(=GDP)は2023年7~9月期の名目GDP水準である588兆円を、Cは同期の個人消費水準である319兆円、Iは同期の企業設備投資の99兆円、Gは同期の政府消費と政府投資額の合算である153兆円等として、現実の日本経済の姿に近い数字を使用しています。

 

 

消費税撤廃で消費と投資の好循環と日本復活へのシミュレーション

 

こうして、2023年7~9月期のC,I,G等の数字を2023年のそれと同じとみなして与えてあげれば、エクセルで立ちどころに来年2024年以降の所得(=GDP)、消費、投資等の推移がシミュレーションできます。エクセル図表では2030年までを予測期間の範囲としています。

 

サミュエルソンの古典的な乗数・加速度係数モデルの応用シミュレーションの結果は末尾に図示されていますが、それらが示す骨子は次の通りです。

 

第一に、10%消費税率を前提とすれば、2030年までほぼゼロ成長が避けられないと見られることです。消費の10%を消費税として所得から差し引かれ、可処分所得が停滞するわけですから、これはある意味当然の結果と言えます。

 

第二に、現在は10%の消費税に加えて、約4%のインフレ税によって、それらを足し合わせた14%の消費税率に事実上消費税は引き上げられており、これら消費税とインフレ税のダブルパンチ[2]によって、日本経済は2030年までマイナス成長に陥りかねないことです。これは消費と投資の悪循環のケースといえるでしょう。

 

第三に、消費税率を5%まで恒久的に引き下げれば、日本経済は持続的なプラス成長を達成し得ると見られることです。

 

最後に、消費税を撤廃すれば、日本経済は持続的でかなりの高成長が可能とみられることです。消費税撤廃で可処分所得の減少が回避されることで消費と投資の好循環が生まれるケースといえるでしょう。

 

要するに、これまでのデフレ不況を想定した「大胆な金融政策」「機動的な財政出動」を柱とする故安倍晋三首相主導の経済政策「アベノミクス」のいびつで際限のない経済政策に終止符を打つことこそが、インフレ下の生活費高騰の危機に際しては決定的に重要です。

 

インフレなき持続的で包括的な経済成長を実現するためには、以下の図にあるような最適な金融と財政政策の経済政策を確立し、的確なポリシー・ミックスを実行することが重要です。

 

高インフレを抑制するためには、まずもって金融政策の正常化を粛々と進める以外にありません。一時的ではない物価高に対応するための補助金や給付金などの財政支援をいつまでも続けるわけにはいかないことは自明です。

 

同時に、金融政策の正常化を進めるなかで避け難い金利高騰のリスクを回避して、持続的で包括的な経済成長を達成するためには、消費税撤廃に向けた5%への恒久的な消費税率引き下げが最低限不可欠となるでしょう。

 

逆に言えば、10%消費税率と約4%の高インフレ税というダブルパンチの中で既に生まれてきている消費と投資の悪循環とスタグフレーションの兆しの中で、賃金と物価の好循環等という美辞麗句は絵に描いた餅に過ぎないことを肝に銘じることも極めて重要でしょう。

 

 

元世界銀行エコノミスト

中丸友一郎

 

PS:  なお、「消費税撤廃で消費と投資の好循環と日本復活へのシミュレーションのエクセル図表」はPDFファイルでメール送信可能です。

ご希望の方は、メールアドレスを頂ければ、遅くとも一両日中にはエクセル図表付の11月マンスリーを無料配信できますので、ご気軽にご連絡下さい。