揺らぐドル1強、米国が通貨覇権を手放す日 | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

 

掲題の今日の日経ウェブ記事。

 

様々な見解が指摘されているものの、ドルが基軸通貨でなくなることは当面まず考え難い。

 

危機の都度、ドル・スワップ取引等で日銀を含めて多くの主要中銀がドルのお世話になっている。

 

3月のコロナショック時でも、FRBが日銀に対してドル・スワップ取引を供給していなかったら日本の金融市場はおそらく農林中金等を中心として大変なことになっていたかもしれない。

 

しかし、ドルが急落するか否かは別の問題だ。

 

米経常収支赤字の拡大や対外債務の膨張を背景に、そしてまた、FRBのQE大幅拡大策が続いている限り、ドルの一段の大幅下落はおそらく時間の問題とみるべきではあるまいか。

 

なお、筆者のドルに関する見解は、拙著「2020-2021年 世界金融 大逆流相場がやってくる!」の最終章などでもかなり詳述済みのところ。

 

いずれにしても、以下、ご参考まで。

 

 

 

「ドル覇権を放棄する時が来た」。7月下旬、米外交問題評議会はこんな論評をサイトに掲載した。ドル1強が経常赤字を拡大させ、米国の貿易競争力や雇用を圧迫し、収入格差や社会の分断を広げていると断じたのだ。米ゴールドマン・サックスも7月、「ドルの基軸通貨としての寿命に深刻な懸念が生じている」と指摘した。

 

1944年のブレトンウッズ会議でドルが基軸通貨の座について75年余り。外貨準備高の約6割、国際決済の約4割を握るドルの支配力は今なお圧倒的だ。ところが、盤石なドルの牙城にほころびが見えつつある。

 

■マネー流出、底割れ懸念

 

7月以降、ドル売りが加速。総合的な通貨の強さを示すインターコンチネンタル取引所(ICE)算出のドル指数は今月1日、91台後半と約2年4カ月ぶりの低水準をつけた。「金融緩和がドルの価値を低下させた」。みずほ銀行グローバル為替トレーディングチームの小林健一郎氏はこう指摘する。

 

「景気拡大が十分に進み、目標に近づくまで極めて緩和的な政策を続ける」。16日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見に臨んだ米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、金融緩和の長期化を明言した。物価目標を「一定期間の平均で2%」に切り替え、新型コロナウイルス対策で復活させたゼロ金利政策は当面続く公算が大きくなった。

 

ゼロ金利の長期化や景気悪化、財政赤字の膨張――。「強い米国」が揺らぐ中、マネーはドルから他の資産に移っている。金価格は7月、ドル建てで9年ぶりに史上最高値を更新した。ピクテ投信投資顧問の萩野琢英社長はこれを「ドルの通貨価値の底割れを示す」とみる。

 

もっとも、今すぐ基軸通貨がドル以外に代わると考える人はほとんどいない。「現在、ドルに代わる通貨はない」。「ミスター円」と呼ばれた榊原英資・元財務官はこう言い切る。半面、ドル離れが加速する予兆が散見され始めたのも事実だ。

 

■人民元・ユーロ…デジタル通貨、実用化のレース号砲

 

米中摩擦が激化する中、トランプ米政権は7月成立の「香港自治法」で、中国の金融機関のドル調達の封じ込めをちらつかせた。米国は2018年、国際的な決済インフラである国際銀行間通信協会(SWIFT)に圧力をかけ、イランの金融機関をシステムから遮断した。中国が「次の標的」になる可能性も否定できない。

 

「米中対立により、中国政府にとって人民元の国際化は不可欠なものとなった」。スタンダードチャータード銀行香港の丁爽チーフ・エコノミストはこう話す。すでに中国は脱「SWIFT依存」への布石を打つ。人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)を15年から稼働し、今年8月には参加金融機関が世界で1000行を超えた。

 

各国で研究が進む中銀デジタル通貨(CBDC)の実用化も、ドル離れを加速させる可能性を秘める。中国は「デジタル人民元」の実証実験を主要都市で進め、22年にも実用化をめざす。欧州も「デジタルユーロ」の研究を加速させている。

 

著書「貨幣論」を書いた国際基督教大学の岩井克人氏は「次の基軸通貨はデジタル国際共通通貨だ」と予想する。経済学者ケインズがかつて提唱した国際通貨「バンコール」のデジタル版が登場するとの見立てだ。

 

基軸通貨が変われば、世界の金融市場も変わる。コロナ禍を機に動き始めた「アフタードル」の未来を探る。

 

■専門家に問う通貨の未来

 

■ジム・ロジャーズ氏「ドル、衰退前にバブルへ」


 著名投資家ジム・ロジャーズ氏はドルに厳しい論調で知られる。一方で、ドルに取って代わる通貨はなかなか見つからない。ドル保有者でもあるロジャーズ氏が描くシナリオは「ドルは衰退する前にいったんバブルを迎える」というものだ。

Jim Rogers 1970年ごろにジョージ・ソロス氏と「クォンタム・ファンド」を設立。世界を旅しながら投資先を探す「冒険投資家」としても知られる。現在はシンガポールに居を構える。

Jim Rogers 1970年ごろにジョージ・ソロス氏と「クォンタム・ファンド」を設立。世界を旅しながら投資先を探す「冒険投資家」としても知られる。現在はシンガポールに居を構える。

 

 ――2020年春以降に一時加速したドル安をどう見ましたか。
 「(3月のコロナショック直後にかけて)ドルは高かったため、修正が起こったのは自然だ。世界の政治や経済情勢は簡単に良くなるとは思えない。人々は安全な避難場所として、またドルを選ぶようになるだろう」

 

 ――ドル安の流れには乗れないということでしょうか。
 「私は多額のドルを保有している。しばらく売るつもりはない。状況次第ではむしろ買い増すかもしれない。もちろん、膨大な財政赤字を抱える米国が安全なわけでは決してない。だが、市場参加者は歴史的な経験則から安全だと考えるはずだ。ドルは調整局面の後に大きく上がるのではないだろうか。政治経済の悪化度合いによってはバブルに変わるかもしれない」

 

 ――ドルに代われる通貨はないのでしょうか。
 「どの国も借金まみれで、(コロナショック以降は)状況がひどくなっている。繰り返すが、米国が健全なわけではない。代わりが見つからないだけだ。もちろん実物資産の金や銀は選択肢になるが、法定通貨に関する限りは米ドルしかない。英国やユーロ圏は米国以上に深刻な問題を抱えている。日本もそうかもしれない。景気や財政への不安が強いうちはドルは上がる」

 

 ――中国の人民元はどんな位置づけでみていますか。
 「いまや中国も多額の債務を抱える。米国とは貿易戦争の最中だが、貿易戦争に勝者はいない。20年ほど前の負債がなかったころとは異なり、現在の中国は試練に直面しやすくなっている。今の時点では人民元がドルの代替通貨としてすぐに存在感を増すことはないだろう。ただ米中は日本ほど人口減が顕在化しておらず、経済の基礎体力を維持している。焦点は人民元がコンバーティブル(交換の自由度が高い)になるかどうか。もし今後、バブルのようにドル高が進むなら、中国政府は人民元を(変動幅拡大などで)よりコンバーティブルにする可能性がある。その時、私はドルを人民元に替えることを検討するかもしれない」

 

 ――金や銀への投資方針は。
 「政府や通貨への信認が揺らぎやすい足元の状況では、金や銀の優位性は高い。私は19年の夏に再び金を買い始めた。そして銀だ。歴史的な高値圏にいる金に比べると銀には割安感があり、金も買い続けるがそれよりも銀を積極的に購入したい。政治家や学者は『有事の金』『安全資産の金』といった議論を避けがちだが、投資家は知っている。危機が起こる時、金と銀は常に良いパフォーマンスを示す。だから私は金と銀、とりわけ銀を買いたい」

 

 ――デジタル通貨は浸透しますか。
 「暗号資産(仮想通貨)のような無国籍の通貨という意味ならばノーだ。日々の決済などは既にデジタル化・キャッシュレス化が進んでおり、それ自体は国も認めている。ただ、政府の管理が及ばなくなり、国家や金融システムへの脅威とみなされるものは常に禁じられる。フェイスブックの『リブラ』は良い試みだが、うまくいきそうになったら、米政府などの激しい抵抗にあうだろう」

 

 「各国政府がそれぞれの国の通貨ベースでデジタルマネーを作る時代にはなるだろう。中国やロシア、インドなどは(基軸通貨の)米ドルと肩を並べようとデジタル通貨に取り組んでいる。米国もそれに対抗していくことになりそうだ」
(聞き手はNQNシンガポール=今晶)

 

■榊原英資氏「ドル1強の地位揺るがず」


1990年代半ばに徹底した円売り介入で円高是正を図り、「ミスター円」と呼ばれた榊原英資氏。身をもって米ドルの強さを知る榊原氏は「ドル1強は揺るがない」と断言する。

さかきばら・えいすけ 1965年大蔵省(現財務省)入省、97~99年財務官。積極的な為替介入姿勢などから「ミスター円」と称された。現在は一般財団法人インド経済研究所理事長。

さかきばら・えいすけ 1965年大蔵省(現財務省)入省、97~99年財務官。積極的な為替介入姿勢などから「ミスター円」と称された。現在は一般財団法人インド経済研究所理事長。

 

 ――ドル1強が揺らぎつつあるという見方があります。
 「一時期に比べ、米国だけが強い時代は終わっている。欧州連合(EU)や中国、インドなどが台頭してきたためだ。ただ、それでもドルが基軸通貨という事実は変わらない。基軸通貨としてのステータスは若干弱まっているかもしれないが、大きく変わる所まではいっていない」
 「将来的にドルに代わる通貨が出てくるとしても、40~50年後の遠い未来の話だ。中国の力が次第に強くなるのは確かだが、短期間で米国に代わる国になるとは思えない」

 

 ――基軸通貨を握るメリットとは。
 「自国通貨が他の国で使えることは、圧倒的なメリットだ。現在では、米国の金融当局がどう動くかでドルが動く。そして、それが世界に大きな影響を与えることになる。ある意味で『世界の中央銀行』のような役割を部分的に果たせるようになる」

 

 ――中国も人民元をドルに対抗する通貨にしようとしています。
 「中国は米国を相当意識しているが、米国と拮抗するには時間がかかる。国際通貨になるためには、その通貨に関わる金融政策が透明になり、自由化される必要がある。中国当局が金融を管理し、人民元の価格を自由にできるうちは国際通貨にはなり得ない」

 

 ――円についてはどうみますか。
 「円を国際通貨にする必要はないと思っている。円が自由にドルと交換できれば良い。ドルが国際通貨だから、自由に交換できればそれで問題ない」 ――金が急騰しています。通貨の信認低下の証拠と見る向きもあります。

 

 「経済・金融情勢が不安定になると、金は上がる。だが、それは既存通貨への信認の問題ではない。貴金属としての価値の上昇だ。金本位制に戻り(通貨を)金とリンクする昔に戻ることはあり得ない。ニクソン・ショックで金とドルのリンクが切れ、金に縛られることなく金融政策を執行・運営できるため、政策面の自由度が増した」
 

 ――中央銀行デジタル通貨(CBDC)は普及するでしょうか。
 「国際的に金融当局の合意ができれば、導入が進むだろう。通貨がデジタル化されれば、国境を越えた取引が容易になる。いちいち通貨を変える必要もなくなるため、デジタル通貨が地位を固めていくことはあり得る。ただ、デジタル通貨は各国中銀がコントロールすべきだ。そうでないと金融政策がめちゃくちゃになる」

 

 ――民間デジタル通貨の将来は。
 「仮想通貨(暗号資産)は国際的に使われており、ある意味ではドルの国際的な役割を半分担っている。(フェイスブックのリブラのように)裏付け資産で通貨バスケットを持てば価値は安定するし、金融当局のコントロールも効くようになる。各国の金融政策とリンクするようになれば国際的な通貨として使えるようになるだろう」
(聞き手は佐伯遼)