「新しい日常」に即した成長戦略を 菅政権に望む | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の日経社説。

 

比較的説得的。

 

もっとも、デジタル庁新設や携帯料金の引き下げなどの改革を否定するつもりはさらさらないが、小粒の弥縫的な「成長戦略」では大きなインパクトは期待し難いだろう。

 

むしろ、消費税率大幅引き下げと同時に、過度な円安からの転換等を図り、内需を喚起する幅広い経済の大転換が期待される。

 

無論、徹底したコロナ検査と隔離政策が大前提となる。

 

ご参考まで。

 

 

 

経済分野における菅義偉内閣の最大の課題は成長戦略の再構築だ。安倍前政権はアベノミクスの第3の矢として「民間投資を促す成長戦略」を掲げたが、十分な成果を上げたとは言いがたい。

 

ウィズコロナの局面が長引く中でも、構造改革を進め、「新しい日常」に即した質の高い経済社会を実現する必要がある。

 

経済の新陳代謝を加速

 

政府は年初来のコロナ危機に対応して、雇用や事業の継続支援に力を注いできた。雇用調整助成金の支給拡大で企業に雇用の維持を求め、資金繰りに苦しむ企業には無利子・無担保融資を設定し、破綻を食い止めてきた。

 

突発的な危機対応策として、これらは妥当な措置だった。政府が手をこまぬいて混乱が広がれば、社会や経済が取り返しのつかない深手を負うからだ。

 

だが、今後は危機からの「出口」を見据えた政策も併せて実行したい。実施済みのコロナ対応融資は42兆円に達し、企業の貸借対照表には巨額の負債が積み上がった。バブル崩壊後に多くの企業が過剰債務に陥り、新事業への投資余力を喪失した「失われた10年」を繰り返してはならない。

 

そのためには産業の新陳代謝を促す取り組みが必要だ。例えばコロナ禍による需要減が長期化するとみられる観光・運輸産業は再編集約を進め、規模を縮めたうえで再出発するのが望ましい。

 

そのプロセスを円滑に進めるために政府や自治体、金融機関の英知を集めなければならない。星野リゾートは旅館の再生ファンドを立ち上げる計画で、こうした民間マネーの活躍にも期待したい。

 

菅首相が地方銀行の再編に意欲を示している点は評価できる。コロナで傷ついた各地の中小企業の再生・再編には、その課程で発生する損失の吸収や再挑戦のためのリスクマネーの供給など、地域に根ざす金融機関の役割が大きい。

 

ゼロ金利で弱体化した地銀の基盤強化や経営モデルの刷新が差し迫った課題だ。大胆な地銀再編や場合によっては公的資金の注入も視野に入るかもしれない。

 

星岳雄東大教授らで構成する有識者グループは今月まとめた過剰債務の調整を促す提言の中で、「英仏などに倣って、債務整理を迅速化するための新たな法的枠組みの整備が必要」と指摘した。役目を終えた企業の退出を容易にし、人材などの経営資源を成長市場に再配置するのが狙いだ。

 

こうした構造調整に不可欠なのが、菅首相が「政権のど真ん中に置く」と明言した規制改革だ。安倍晋三前首相は「いかなる既得権益も私のドリルから逃れられない」と豪語したが、いわゆる岩盤規制への踏み込みは弱く、掛け声倒れに終わった。

 

新政権に求めたいのは、労働市場の流動性を高める施策だ。厳しい解雇規制は衰退産業から成長分野への人材の移動を阻む弊害が目立ち、見直しの余地は大きい。

 

とはいえ、これは働く人の切り捨てではない。欧州に比べて見劣りする公共職業訓練を充実し、個々人のスキル(技能)獲得と生産性向上を支援することで、所得水準の引き

上げにつなげたい。働く人自身が仕事の進め方や時間配分を決める裁量労働制の拡大についても、議論を再開するときだ。

 

信なくば立たず

 

デジタル関連では、コロナ危機の中で関係団体の反対を押し切り、特例として実現したオンライン診療の恒久化が急がれる。

 

子育て支援でも規制改革は有効な武器だ。保育分野は自治体による官製市場の色彩がいまだに濃く、需給のミスマッチ解消を妨げる主因になっている。認可保育所と認可外保育所の競争条件をそろえ、株式会社を含めた民間の力を引き出しやすくすれば、待機児童問題の改善につながるだろう。

 

一連の改革を進めるうえで大切なのは国民の信頼だ。加計学園問題の浮上で安倍政権への批判が高まり、改革実現の舞台として期待された国家戦略特区諮問会議は失速した。菅内閣はこれを反面教師とし、関係者が「改革利権」を手にしているなどという疑念を抱かれないよう万全を期すべきだ。

 

 

コロナ禍で世の中は大きく変わった。「今までの日常」に時計の針を戻そうとするのではなく、「新しい日常」に対応した日本経済のあるべき姿を構想する。それが新政権に課された使命だ。