元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アセモグルら)

2026年5月マンスリー:


🟥 令和の日米共振スーパーバブルはなぜ必ず崩壊するのか
――大国主義の下で同期した日米高圧経済と、植田日銀化するFRBの二つの負の遺産


1. 序論:日米が同時に“誤った方向”へ進んでいる
2024年秋以降、米国と日本はともに歴史的な株価高騰を経験した。
米国では S&P500 が約50%前後上昇し、日本では日経平均が6万円に達した。

しかし同時に、インフレは再加速し、実質賃金は伸びず、生活実感は改善しない。

この「株価だけが上がる世界」は、単なる景気循環ではない。

日米がともに“高圧経済政策”へ傾斜し、

実質金利をマイナスに放置した結果として生じた、

構造的なバブルである。

そしてこのバブルは、
FRBの二つの負の遺産
日銀の高圧経済への傾斜
AIバブルという物語
日米の政策文化の共振
によって強化されている。

本稿では、この複雑な現象を一本の線で貫く理論として、
在庫投機フリーランチ原理(AISP)を提示する。

2. パウエルFRBの二つの負の遺産

(1)第1の失敗:インフレを「一時的」と誤認
2021~22年、FRBはインフレを「一時的」と判断し、利上げを遅らせた。
その結果、実質金利は深くマイナスとなり、住宅・株式・クレジット市場が過熱した。

(2)第2の失敗:インフレ安定前の利下げ
2024年秋から2025年末にかけて、FRBは累計1.75%の利下げを実施した。
インフレは安定していなかったにもかかわらず、雇用への過剰配慮と政治的圧力が利下げを正当化した。

その結果、

インフレは再加速
株価は急騰
実質金利は再びマイナス
となった。

(3)FRBはまだ気づいていない
SEP(経済見通し)は一貫して楽観的で、
筆者が約7年間も批判してきたように「足し算すらできていない」状態が続く。

利下げバイアスを批判した3名だけが、ようやく構造的な誤りに気づき始めている。

3. 日本:植田日銀の高圧経済への傾斜

日本もまた、
賃金上昇を理由に正常化を遅らせ
実質金利をマイナスに放置し
円安 → インフレ → 実質賃金低下
という構造に陥っている。
日米は、政策文化の違いを超えて、
「雇用重視バイアス」という同じ方向に誤った政策を取っている。

4. 日米共振スーパーバブルの構造

(1)米国の利下げ → 日本株の共振
米国株の上昇は、日本株(特に日経225)に強く共振する。
TOPIXは日本経済の重力に縛られたままだが、日経225は米国株の“共振器”として暴走する。

(2)AIバブルは“物語”に過ぎない
AIの革新性は疑いようがないが、株価上昇の方向を決めたのは金融政策である。
筆者計算では、

約31%:利下げによるバリュエーション効果
残り20%:AI期待・EPS上方修正・リスクプレミアム低下
という分解になる。
AIは“物語”としてバブルを正当化する役割を果たしている。

5. アービトラージで読み解くテイラー原理

――在庫投機フリーランチ原理(AISP)の力学)
ここからが本稿の核心である。

● AISPの定義
実質金利がマイナスである限り、在庫・資産の保有はブリーランチのアービトラージとなり、
インフレとバブルは自己強化的に続く。

これは、テイラー原理をミクロのアービトラージの言葉で言い換えたものだ。

● 具体例
インフレ2%、名目金利1%なら、
1%で借りて2%値上がりするモノを買うだけで1%儲かる。

これは投機ではない。
アービトラージである。

● 令和日本の異常現象はすべてAISPで説明できる
2025年の米騒動
2026年のスーパーバブル
不動産価格の暴騰
これらはバラバラの現象ではなく、
負の実質金利が生むアービトラージの連鎖である。

● トルコ:アービトラージが国民的行動になった国
高インフレ
低金利
実質金利マイナス
のもとで、冷蔵庫・車・金・外貨が“預金の代わり”になった。

● 石油ショックの日本
第一次:実質金利マイナス → 在庫投機暴走 → インフレ20%
第二次:実質金利プラス → 在庫投機消滅 → インフレ沈静化
歴史は明確な教訓を示している。

6. 結論:日米同時インフレの本質は“認知のラグ”であり、
このままではボルカー・モーメントに近づく
日米ともに、

前月比インフレの急加速
名目成長率の高止まり
原油高の波及
実質金利の低下
政策金利の遅れ
が同時に進んでいる。

しかし特に日本市場は、前年比中心の判断に依存し続けている。

この「認知のラグ」が続けば、政策当局は急激な引き締めを迫られ、
ボルカー・モーメントに近づく可能性がある。

名目FFレートは3.50~3.75%まで下げられた一方で、
インフレ率は2%超と原油高で再加速リスクを抱え、
ついにFFレートがインフレ率を下回り始めた。

これはテイラー原理の崩壊=実質マイナス金利の放置であり、
将来のボルカー・モーメントを呼び込む危険な局面である。

“前月比ベースの現実”を見なければ、市場は再び重大な判断ミスを犯す。