「いのちをうつす」展覧会トークイベント | けろみんのブログ

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2023.12.10

上野アーティストプロジェクト2023
「いのちをうつす」2023.11.16~2024.1.8 東京都美術館 ギャラリーA,C
12月21日~1月3日は休室


紅葉が見頃のよく晴れた日曜日、またもや東京都美術館に行きました。



ネットで見た彫刻作品「アホウドリ」に惹かれて前回訪問。今回は作者の内山春雄先生のトークイベント「触って知る・バードカービング」に参加しました。
観覧料は大人500円、「永遠の都 ローマ展」のチケット提示で入場無料。



内山春雄先生は1950年岐阜生まれ。木象眼を家業とした家庭に育ちました。




木象眼とは、ベースになる木を図案にそって切り取り、そこに全く同じ形の違う木をはめ込んで図案を表現する木工芸の技法です。内山先生は独り立ちし、東京に出て元浅草に工房を構えた頃「鳥の彫刻をやってみたらどうか」と声がかかり、鳥の勉強が出来るなら、と引き受けたのがきっかけです。それまでは鳥に思い入れがある訳では無かったそうです。
山階鳥類研究所が渋谷の南平台にあり、(現在は我孫子に移動)そこに日本鳥獣保護連盟の本部もあったのでその一角に机と椅子を置き、剥製を使って木彫りの鳥を制作することになりました。


バードカービングは、アメリカでデコイ(囮)にする鴨を作る技術から生まれたものです。アメリカ開拓精神のひとつの象徴とも言えます。狩猟がメインとなる開拓生活において鴨は、お肉は食用に羽は布団に使える重要な獲物でした🥲‎ヨーロッパでは、鴨をひなから育て、人間を親と思う「刷り込み」を利用して鴨を撃ち落とす時に囮にします。しかしアメリカ開拓民は、そうした方法を用いることが出来ません。そこでネイティブ・アメリカンのやり方を参考にしました。それは藁で胴体を形作り、そこに本物の頭と羽を付けたものです。それを水辺に何羽も浮かべると鴨が仲間と勘違いして降り立つ。そこを狙って撃つのです🥲‎その後、こうした原始的なものから、木を削ってペンキを塗って仕上げたものに進化しています。

バードカービングは、デコイと同じ作り方ですが、狩猟に使わない彫刻を指します。鳥の観察や、愛鳥教育などに使われています。


内山先生は小学校で鳥の彫刻の実習を行った時、子供に家から彫刻に使う刃物を持ってくるようにいいました。そして実際木を削らせたところあっという間に多数の子供が手を切り、血まみれになり大惨事。その後先生は道具はご自身が研いだ刀をつかう、材料も子供の握力で扱えるサイズにする、など試行錯誤し、いまも我孫子の小学校で行われています。

タッチカービングを始めたきっかけは鳥獣保護連盟が主催する、メンバー勧誘のためのデパートの催事場でのカービングの実演でした。全国のデパートを回る実演には盲人の方がよくお見えになり、作品を触って見ることもしばしばあります。その度びっくりするそうです。鋭敏な耳を持つ盲人の方は、鳥の声は常に色々聞いてるけれどその形をしらないのです。そこで、青森ヒバを使った特製のボックスを簡単に開閉できるよう工夫し、点字で解説文を載せ、鳴き声は昔はカセットを封入。




(今はタッチペンで聞けます)鳥の彫刻は触っても壊れないよう丈夫に作るなどとても凝ったもので、大変な作業だと思います。


ところで日本には「物差し鳥」という鳥見に便利な分類方法があります。この鳥のサイズを知ればほかの鳥を観察する時重宝します。

カラス50cm 
キジバト 30cm 
ハクセキレイ 20cm 
メジロ 10cm 
オマケにスズメ 14.5cm。

物差し鳥のタッチカービングをつくれば、他の鳥の大きさを「アオジはハクセキレイとメジロの中間くらい」と説明できます。

先生は他にも科博に働きかけてガラパゴスフィンチの進化の過程を木で彫り出す研究など、剥製を図り、写真を撮り……鳥の標本のサイズをきっちりと計測したら、生きている時の形にするには縮小されるそうです。





この研究はアメリカの博物館と、科博が関係した一大プロジェクトなので研究お披露目が来年、都美術館で開催予定になってるとか、なってないとか……手弁当でこれらの活動を行う内山先生をこれからも応援したいと思います。自分の作品は工芸であり、寸法通りきちっと作るだけなので芸術ではないと、おっしゃってましたが。盲人に子供に使いやすいデザインを考え、形にする心が芸術だと思いました。